第3章 白の訪問者 No.8
丁度、家と学校との中間地点、鏡の泉の辺に二人が差し掛かった時、リオが、急に足を止めた。つられてルーも立ち止まる。
見上げるルーに、リオは何事かを思い出したように瞳を大きく見開き、次いで、心底済まなそうに謝った。
「ごめん、ルー。僕、すっかり忘れていたけど、今日の放課後、校長先生に呼び出されていたんだ。急いで行かなくちゃいけない」遠くに見える時計塔を振り返り、困惑の態で言葉を継ぐ。「ホントにごめんね。それと、アルフにも伝えておいてくれないかな。ごめんねって。帰ったら、片付け、必ず手伝うからって」
「うん、解った」ルーはコクリと頷き、パタパタと手を振った。「いってらっしゃい」
リオは、ルーの答えに安心したのか、ニッコリと微笑むと、直ぐさま踵を返して、今来た道を引き返そうとした。けれど、一旦足を止めて振り返り、口に両手を添えて叫んだ。
「ホントに、ごめんね!」
「ボクがいるんだから、心配しなくても大丈夫! それより、早く帰ってきてね!」
ルーが大きく手を振る。
リオは、それに手を振って応えると、くるりと背を向けて走り出した。
「校長先生が、リオに何の用なんだよ」
聞き慣れた、ぼやき声。
ルーが振り返る。
木陰から顔を出したのはアルフ。小さくなるリオの背中を見つめながら、不機嫌そうに唇を尖らせている。
「なぁんだ。そんなとこにいたの? リオ、心配してたよぉ」
小首を傾げ、ルーが、少し責めるように言う。
「……ごめん」
素直に謝るアルフ。
こんなにしおらしい彼の姿は滅多に見られない。ルーは楽し気だ。
「きっと、何か、お手伝いだよ。君の片付け、手伝えなくてごめん、てさ」
「うん……」
「その分、ボクが手伝ってあげるからさ。いいでしょう?」
答えないアルフ。先程までの元気は欠片もない。少しボンヤリとして、何事か考えているようだ。
暫しの沈黙の後、やっと口を開いた。
「なあ……」
「なあに?」
再び、短い沈黙。けれど、自分から言い出したにも拘わらず、アルフは首を横に振り、肩を竦めた。
「……いや、いい。何でも無い」
「変なアルフぅ」
面白ろがる態で、しかし、それ以上は追求しない。それがルーの良いところでもある。
「じゃあ、さっさと帰って、さっさと片付けましょう!」
「おい、俺の部屋なんだからな」
ぼやきつつ、それでも素直に帰路に着いた。