第3章 白の訪問者 No.7
しかし、アルフは不満気に足許の草を蹴り、ルーは少し困惑の態で、明らかに言葉を探しあぐねていた。
そんな様子を眼の端に捉え、リオは話の切っ掛けを与えるように、楽し気に口を開いた。
「デュランさんって、面白い人だったね。先輩のあの人の方から、僕達に声を掛けてくれるなんて、本当なら有り得ないことなのに。気さくな人だよね」
リオの言葉を受け、ルーは何か言い掛けた。しかし、言い淀む。
「ボク……」
明らかに、何時ものルーらしくない。
「どうした、ルー?」
最後尾にいたアルフが、ルーの肩に手を掛け、訊いた。
ルーは、首を左右に何度か傾げたが、困惑も露に呟いた。
「ボク……、あの人、あんまり好きじゃないなぁ……」
思い掛けない言葉。
アルフとリオが、揃って驚きを口にする。
「へえ……。お前がそんなこと言うなんて、以外だな」
「君が、誰かを『嫌い』だなんて言うの、初めて聞いたよ。どうかしたの?」
ルーは、途惑うように顔を顰めながら、言い訳するように言った。
「ボクだって、好きじゃない人くらい居るよぉ。みんなのこと、君達と同じようには思えないもん」
「ホントに、どうしたんだよ。珍しいな」からかうようなアルフの言葉。
遂にルーは拗ね気味に唇を尖らせた。
「ボクにも、良く解んないよ。でも、何となく嫌なんだもん」
「お前がそう言うなら、俺も気を付けるよ」
「アルフ、君まで……」
リオが眉を顰める。
しかし、当のアルフは、一向に悪びれる様子も無く、腰に手を添えてリオを見遣ると、口の端を微かに上げた。
「気にすんな。俺は嫌いな奴の方が多いんだから。あいつも他の奴等と同じってだけさ」次の瞬間、表情を険しくする。「それより、リオ。お前、気を付けろよ」
「何? どういうこと?」
不思議そうに問うリオ。
アルフの表情が、ますます険しさを増した。
「あいつ、妙にお前に興味があるみたいだったから。あんな奴、ろくなもんじゃないさ」
「アルフ、よく知りもしない人のことを、そんなふうに言うものじゃないよ」
「お前は、どうして何時もそうなんだよ。嫌なものは嫌だって言えよ。少しは人を疑えよ」
「アル……」
リオは困り果てたように眉根を寄せ、口を噤んだ。
アルフは、リオから視線を逸らし、一つ大きな溜息を吐いた。けれど、それだけでは高ぶった感情は抑えられなかった。声を荒げ、言葉を継ぐ。
「嫌なんだよ、俺は! お前は他人を信用しすぎる。だけどな、人なんて、すぐに裏切るんだ。お前が誰かに裏切られた時、傷付いて、落ち込んで、悲しそうにしてる姿なんか、俺は見たくないんだよ! そんなの、俺は、嫌で嫌でしようがないんだよ!」
そう叫ぶなり、アルフは森へ向かって駆け出した。
「アルフ!」
追いかけようとするリオ。けれど、その足を、ノンビリとした声が引き止める。
「大丈夫だよぉ、リオ」
「ルー?」
「アルフなら、何時もと同じ。絶対に、独りで先に帰ったりしないよ。途中の木の陰で、きっと待ってるからさぁ」
「うん……」
アルフの消えた森の奥を覗き込むように見つめ、リオは頷いた。一つ大きく溜息を吐くと、褐色の髪の友を見遣り、小首を傾げる。
「アルフ、どうしてあんなに怒ったんだろう。……ルーには、解る?」
「うん。多分ねぇ」
「どうしてなの?」
ルーは肩を竦め、僅かに舌を出した。
「そのうち解るよ。アルフは単純だからさぁ」リオの腕に腕を絡める。「ねぇ、それより、早く帰ろ」