第3章 白の訪問者 No.4
アルフが言葉を継ぐ。
「あいつが喧嘩っ早いのは、しようが無いし、その理由だって、きっと優等生のお前を嫉んでるだけだよ。放っておけば、そのうちクラスも分かれるさ。それに……」僅かに眼を細める。「魔法の力は、本人次第だ。周りが、いくら気に掛けたって、どうなるものでもないだろう」
不思議そうにアルフを見上げるルー。
いっぽう、リオは小さく頷いた。
「うん……、解ってる」口許に微かに笑みを浮かべる。「大丈夫だよ、アルフ。僕は、そんなこと、気にしていないから」
だが、アルフは納得しなかった。胸の前で腕を組み、眉を顰める。
「ホントに、そうなのか? 俺にはお前が必要以上に気にしてるように見えるけどな」だが、視線は直ぐに柔らかくなる。「大丈夫だ、リオ。放っておいたって、やばいと思えば、あいつの方から話し掛けてくるさ。誰に訊くより、リオに教えてもらうのが一番解り易いってのは、クラスのみんなが言ってることなんだから」
彼の言葉は、時にぶっきらぼうだけれど、何時も深い労わりが込もっている。それがよく解っているから、リオは素直に頷く。
「うん……。ありがとう、アルフ」
小さく息を吐き、肩を竦めて微笑む。周囲を安心させる笑みだ。
「でも、心配しないで。誰にでも好き嫌いがあることくらい、僕だって弁えてる。これだけの生徒がいれば、話が合う人、合わない人、話し易い人、苦手な人……、色んな人がいるのは仕方のないことだもの。ただ……」小首を傾げる。「ただ、クワイは……」
「……なあに? クワイがどうかしたの?」
リオの肩に抱き付き、ルーが問い掛ける。彼には、二人の会話が解り難いようだ。
「ううん。なんでもないんだよ、ルー」リオは、柔らかな褐色の髪を撫でながら優しく微笑んだ。「ただね、僕なんかでも、何か、彼の……、クワイの力になれることはないかなって、何かの切っ掛けになれればって、そう思って……。それだけだよ」
「ふーん」
訝し気に、けれど、一応、リオの説明に納得した態を装うルー。
だが、アルフは、そう簡単には納得できなかった。
「まったく……」大きな溜息を漏らし、前髪を掻き上げる。「あいつ等の言葉じゃないけど、リオは真面目だからな。真面目過ぎるんだ」
「そんなんじゃないよ。違うんだ。だた……」リオは小さく首を横に振り、呟いた。「クワイを見てると歯痒くなるんだ。彼は強くなれるはずなんだ。護るべきモノがあるから。ホントに、ちっぽけな切っ掛けさえあれば……」
アルフとルーは、顔を見合わせ、肩を竦めた。
それに気付き、リオが照れくさそうに笑う。
「ごめんね。早く帰ろう」
二人の腕に、腕を絡め、リオは駆け出した。
彼の顔にある笑みが本物ではないことに、アルフもルーも気付いていた。けれど、何も言わなかった。今は、まだいい。これ以上、つまらない話に時間を割いてもしようがない。今の自分達には、やらなければならないことが山積みなのだから。そう思った。
しかし……。
その日は、何時にも増して色んな出来事が一度に訪れた日だった……。