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第3章 白の訪問者 No.3

 リオはクスクスと笑いながら、そんなアルフの腕に手を掛けて引き止めた。

「アルフ、僕が話すから……。ね?」

 友を宥めつつ、リオは同級生達に向き直るとニッコリと微笑んだ。

「勿論さ、ジギー。僕で役に立つのなら、何時でも声を掛けて。わざわざ家まで来てくれなくたって、放課後、いくらでも時間はあるんだからね」

「リオ、いい加減にしとけよ。こいつ等、際限ないぞ」アルフが同級生達に対峙する。「おい、お前等。リオが何て言おうと、俺は絶対、家に入れてなんかやらないからな。ずうずうしく押しかけてくるなよ」

「そう固いこと言うなよぉ」誰かが悲痛な声を上げる。

 丁度その時、こちらに向かってくる一組の集団が、リオの眼に留まった。集団の中心で楽し気に笑っているのは、土器色の肌に、鮮やかな葡萄色のちじれ毛の少年。

「クワイ……」

 リオは呟くと、無理に笑顔を創り、少年達の集団に小走りに近付いた。

「クワイ。あのね……」

 クワイの視線は、一瞬、確かにリオを捉えた。けれど、友人達との会話に声をあげて笑い、あからさまにリオを無視して歩き去った。

 リオは、クワイの背中を淋し気に見送るしかなかった。

 深い溜息を吐き、顔を上げると、そこには、心配そうな二対の瞳。アルフとルーだ。

「平気。大丈夫だよ、行こう。」

 リオが小さく笑い、二人を促す。こんな時、何も言わず側にいてくれる二人の優しさが、リオには嬉しかった。

 しかし……。

「やめとけよ、リオ」ジギーがこれ見よがしに大声で言う。「あいつらは、どうせ落ちこぼれなんだ。第一課題も満足に出来やしない。一年も経たないうちに辞めちまうさ」

 リオは急に表情を硬くした。

「ジギー、今の言葉、訂正して」

「何だよ、リオ。何、ムキになって……」

 言いかけたジギーの表情が、次の瞬間、強張る。

 リオは笑っていなかった。碧の瞳は、僅かに顰められている。

「もし、君が、授業の課題をクリアすることだけが魔法だと思っているのなら、それは大きな間違いだよ。魔法の力は、何を切っ掛けにして開花するか解らない。それは、ルリアの民に等しく与えられた可能性なんだ。その可能性を否定する権利なんか、誰にも無い」

 きっぱりと言い切られ、ジギーは慌てて言い訳の言葉を探した。こんなリオを見るのは始めてだった。

「ごめん、ごめん。もう言わないよ。……ったく、リオは真面目だからな」

 乾いた笑いを漏らす。

 それでも、リオの表情に再び穏やかな笑みが戻ったことを確認するやいなや、課題を教えてもらう約束を、しっかりと取り付けた。

 これ以上この場にいたら、どんな約束をさせられるか解ったものじゃない。アルフはリオとルーの背を軽く押し、集団を抜け出した。そのまま、視線だけ振り返り、低く言う。

「……来るなよ」

「勘弁してよ、アルフ」

 アルフの言葉を、どの程度、本気で聴いているものやら、同級生達は手を振って、さっさと散っていった。

 彼等の後ろ姿を見送りながら、リオがアルフの腕を肘で突く。

「もう……。言い過ぎだよ、アルフ」

 アルフは明らかに不満気にリオを見た。

「リオ、お前こそ、あんなこと言って、どういうつもりだよ。あいつ等、ホントに押しかけてくるぞ」

「大丈夫だよぉ、アルフ」

 ルーが明るく言う。

「何だよ、何が大丈夫なんだよ!」

 極めて不機嫌なアルフ。

 だが、ルーは、やはりノンビリと応じた。

「だって、さっき、リオ、家に来てもいいなんて、一回も言わなかったもん」小首を傾げ、隣のリオの顔を覗き込む。「ねえ、リオ。でも、どうして?」

 リオは一瞬躊躇い、しかし、少しはにかむように答えた。

「だって、……あそこは、僕達の家だから……」

 ルーは瞳を輝かせて、先を促すように、じっとリオを見つめた。アルフまでもが、無言で次の言葉を待っている。

 リオは、照れくさそうに微笑み、ボソボソと言葉を継いだ。

「僕は、君達が思ってくれているほど、社交的じゃないんだよ。自分の領域に入り込まれることには、その……、凄く、抵抗が、……あるんだ。だから……」前髪を弄り、視線を逸らす。「やっぱり、あそこは僕達の大切な場所だし、その中には、他の誰も、……少なくとも、君達が認めてくれた人以外には入って欲しくないんだよ」

 思い掛けないリオの告白。

 アルフもルーも、驚きの眼差しでリオを凝視し、継いで、お互いの顔を見つめ合った。

 アルフは小さく笑うと、腕の中にリオの頭を抱え込み、柔らかな髪をクシャクシャと撫でた。アルフは何も言わなかった。けれど、それだけで良かった。アルフがリオの想いを理解してくれたことは、容易に解ったから。

 三人は言葉もなく、ただニコニコと笑い合った。

「なあ、リオ」

 突如、アルフが思い出したように口を開く。

「なあに?」

 リオは、アルフを見上げて微笑んだが、漆黒の瞳は笑ってはいなかった。つられるようにリオの眼差しも真剣になる。

 ルーは二人の顔を交互に見比べた。けれど、声を掛けることはなかった。

「俺さ、さっきは何も言わなかったけど……」アルフは一瞬躊躇い、だが、思い切ったように言う。「クワイのことは、放っておけよ」

「アルフ……」

「お前、あいつがすぐに突っ掛かってくること、気にしてるんだろう?」

 リオは無言のままアルフを見つめ続けた。

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