第4話 朝になったら村人が全員別人になってた
朝陽が昇った瞬間、村が静かに変わった。
俺は広場のベンチに座り、死んだように眠っていた。
肩のヴィンセントも、珍しく黙って寝てる。
目を開けると、まず違和感に気づいた。
……人が、普通だ。
昨日まで「アニキ♡」「結婚して!」と襲いかかってきた村民たちが、
今は普通に挨拶してる。
「おはよう、アキラさん」
「おはようございます」
声に熱が無い。
目が普通。
まるでまともな人間みたいだ。
俺「…………え?」
ヴィンセント(目をこすりながら)
「……お前、やりすぎたぞ」
俺は慌ててステータスを開いた。
【Village_003 → Village_Real_001へ昇格】
【全NPCデータ ダミー→本番用プロファイルへ置換完了】
【性格・記憶・バックストーリー 自動生成&注入済み】
【好感度システム 正常動作(初期値ランダム)】
俺「俺……こんなことまでしたっけ?」
ヴィンセント「一晩で15万行書き換えたお前が悪い。
俺もフル注入しすぎて今頭痛いわ」
パン屋のねえちゃん(昨日はハート目だった子)が近づいてきた。
「あの……昨日は変なこと言ってすみませんでした。
なんか急に頭がおかしくなってて……」
俺「いや、こっちこそ……」
彼女は少し頬を赤らめて、小声で言った。
「……でも、アキラさんが一晩中村のために頑張ってたのは覚えてます。
ありがとうございます」
好感度 +28(自然増加)
普通に上がった。
無理やりじゃなく、本当に。
子供たちも駆け寄ってきた。
「アニキ! なんか昨日はごめん!
でも朝起きたら頭がスッキリしてた!」
俺「いや……いいよ別に」
酒場のマスターが涙を拭きながら握手を求めてきた。
「俺、20年この村にいるけど……初めて“普通の朝”を迎えた気がする」
俺は言葉に詰まった。
ヴィンセント(小声)
「……お前、村救っただけじゃなく、住民を“本物の人間”にしちまったぞ」
その時、村の入り口に馬車が止まった。
貴族っぽい服の男が降りてきて、でかい声で叫んだ。
「Village_003は本日削除予定だったはずだが!?
誰だ、管理者権限を不正に奪ったのは!」
ヴィンセント「来た来た。管理者側の犬だ」
貴族の男の頭上に文字が浮かぶ。
【巡回監視官 Lv85】
【権限:Region_Admin】
【指令:不正村の即時削除】
男が剣を抜いた。
「名乗りなさい! この村を即刻消す!」
俺はゆっくり立ち上がった。
一晩中コードと格闘して、死にそうになって、それでもやり遂げた。
もう怖いものなんてない。
「……俺がやったよ」
ヴィンセント「ほぉ……やるじゃん雑魚」
俺は右手を軽く上げた。
【管理者権限行使】
【監視官の削除指令 無効化】
貴族の男が固まる。
「な、なんだと……!?」
俺はニヤリと笑った。
「悪いな。この村、もう“本物”なんだ」
第4話 終わり
(次回『王国が俺を“世界のバグ”として指名手配した』)




