第3話 一晩で村を書き換えた
宿屋の布団の上で、俺は震えていた。
【Village_003 削除予定まで 07:41:03】
ヴィンセントが肩の上で欠伸しながら言った。
「残り7時間ちょっと。死ぬなら今のうちだぞ雑魚」
「助ける気ないの確定?」
「確定。俺は管理者権限持ってないから、村ごと消されても文句言えねぇし」
俺は歯を食いしばった。
この村、確かにクソみたいなバグだらけだ。
でも、さっきまで「アニキ!」って駆け寄ってきた子供たちや、パンをくれたおばちゃんが、朝になったら全員消える。
そんなの、さすがに許せない。
「……やるしかねぇか」
俺は布団から跳ね起きた。
ヴィンセント「は? 何すんだよ」
「村を書き換える」
ヴィンセントが初めて、少しだけ目を見開いた。
「……お前、本気で言うか?
村一個分のコード、素人じゃ数年かかるぞ」
「でもお前が脳内に流し込んでくれりゃ、なんとかなるだろ」
ヴィンセント「……ふん。まぁいい。死にそうになったら最後に一回だけフル注入してやる。
それまでに死んだら知らねぇからな」
カウントダウンが動き出す。
07:39:11
俺は宿屋を飛び出し、村の中心の広場に立った。
夜空に、村全体のソースコードが薄く浮かび上がる。
村の構造、NPCデータ、イベントフラグ、地形情報……
全部が巨大なスパゲッティコードの塊だった。
「クソすぎる……」
ヴィンセント「言ったろ。テスト用ダミーだよこれ」
でも、俺はもうビビってなんかいられない。
「ヴィンセント、まずは村の削除フラグだけでも止めてくれ」
「無理。管理者権限が必要だ」
「じゃあ管理者権限を奪う」
ヴィンセント「……は?」
俺は広場の井戸に近づいた。
井戸の底に、小さな光る玉が見えた。
【Village_003 管理コア】
【権限レベル:Administrator】
「これか」
ヴィンセント「触ったら即死だぞ。権限チェックで弾かれる」
「死にそうになったら助けろって言ったよな?」
俺は手を伸ばした。
瞬間、頭が割れるような痛み。
【権限エラー:不正アクセス検出】
【処刑処理開始】
体が浮いた。
視界が真っ赤になる。
HPが一瞬で0へ。
死ぬ。
死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ。
その瞬間。
ドバババババババババババ!!!!!
ヴィンセントが全力でコードを脳内に叩き込んだ。
俺の意識が、村の全ソースコードと直結する。
俺は理解した。
この管理コア、実は穴だらけだった。
権限チェックの関数が、
if(user.isAdmin){ … }
の部分で、isAdminの戻り値が常にtrueになってるバグ。
つまり、誰でも管理者になれる。
俺は指を動かした。
権限奪取。
村の削除フラグ削除。
カウントダウン強制停止。
00:00:12 → 停止
体が地面に落ちた。
HP1の状態で這いずりながら笑った。
「……奪った」
ヴィンセント「……マジかよ」
残り時間は7時間。
俺は立ち上がった。
「ヴィンセント。これから一晩で、この村を本番環境に耐えられるレベルまで書き換える」
ヴィンセントが、初めて本気でニヤリと笑った。
「……面白ぇ。やってみろ雑魚。
死にそうになったらまた脳内にぶち込んでやる」
こうして、俺の一晩のリファクタリング地獄が始まった。
第3話 終わり
(次回『朝になったら村人が全員別人になってた』)




