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第1話 人が良さそうな天才①

大怪獣の遺体の処理。それに立ち向かうのは官僚と引きこもり科学者だった。


「本当にいいんですか」


「こうするしかないんです」


 その日、(よわい)三十一歳にして、史上最年少官房副長官補佐の木崎(きざき)圭人(けいと)はとある家に向かって移動していた。側には二十代後半の官僚が一人いた。



 *****



 数ヶ月前、東京都近海(きんかい)にて大怪獣が海から姿を現した。全長三〇〇メートルの巨大生物だった。


 一歩足を踏み出せば、何十台もの車や人がいとも容易(たやす)く潰れ、地面が割れた。


 腕を一振りすれば、いくつもの鉄筋コンクリートで造られた建物がいとも簡単に(くず)()った。


 「口から炎を出さないだけマシだ」と誰かが言った。


 自衛隊も警察も出動したが、すぐに(かな)わないと証明された。ただ、死者を増やすだけのことだった。



 そして大怪獣の出現により、何千人、何万人、何十万人、何百万人もの死傷者が出た。


 だが、何と運の良いことに米国(アメリカ合衆国)にて活躍していた超人「オール」が来日し、大怪獣を討伐した。



 彼は米国のクローン研究で生まれた存在だった。倫理的にも道徳的にも非道だと言われた研究により、生まれた彼の存在は米国内で非常に問題となった。しかし、そんな彼も存在が発覚した時点で五歳となっており、処分するにもしきれない状況になっていた。


 最終的に米国政府は彼を米軍並びに警察、CIA、FBI等の監視の下、慎重に育てた。そしておよそ二十年がそれから経過し、オールは立派な超人となった。



 そんなオールによって大怪獣は討伐された。しかし、これで問題が無事に解決──というわけにはいかなかった。



 死んだ者達への慰霊、遺族への支援、被害者への対応、諸外国への救援物資の要請、そして────大怪獣の遺体の処理。



 多くの問題が日本に立ちはだかった。その中でも大きな問題として日本政府に立ちはだかったのは『大怪獣の遺体の処理』だった。


 どんなに世界で著名(ちょめい)な科学者が大怪獣の遺体の処理のために良い案を考えても、何故かそれは上手くいかなかった。その理由は簡単だ。誰が考えていたよりも、大怪獣の皮膚は厚く、異質の物質だったのだ。


 いくつかの諸外国は意気揚々(いきようよう)と日本にスパイを送り、大怪獣の体細胞(たいさいぼう)もしくは皮膚片(ひふへん)を採取させようとした。だが、その皮膚のあまりの硬さにスパイ達は音を上げた。そして、無理にでも任務を果たそうとした一部のスパイ達は遺体を爆破しようと試みた。また一部の者達は兵器を使い、遺体を粉々にしようした。


 ──そのすべてが失敗に終わった。逆にその皮膚の硬さに銃弾等が跳ね返され、被害が拡大した。


 国連では「核や戦車等を使い、大怪獣の遺体を処理すれば良いのではないか」「酸性の液体を使い、遺体を溶かせば良いのではないか」という意見も出た。だが、そのどれもが非人道的であり、日本という一国の存続を揺るがしてしまうために現実的ではないと却下された。




 そして、二〇XX年、七月某日。一人の日本人科学者、「永島(ながしま)那由多(なゆた)」が日本政府によって大怪獣の遺体処理の担当として選ばれたのであった。そして、そんな彼を迎えに行くために木崎圭人はある家に向かって移動していた。



 *****



「永島那由多、って私は聞いたことがない人なんですが、本当に凄い人なんですか」


 木崎の隣で車を運転していた若い官僚、佐藤(さとう)が木崎に尋ねる。


「凄いというよりは凄い人にもなれたかもしれない人物、という感じらしいですね」


 木崎は手許にある永島那由多という男の書類に目をやる。


 三十二歳、一乃(いちの)大学専属講師。


 バツイチ。


 小学校、中学校、高校と地元の普通校を卒業。大学は現在勤務している一乃大学を卒業。大学院には進学せず、自分が所属してたゼミの教授の助手として就職。


 彼が初めて書いた論文はそこまで珍しいものではなかった。だから、その時点ではあまり目立たなかった。


 だが、彼が助手をしてた教授がメディアに出演した際に彼の異才(いさい)は発揮された。


 誰よりも分かりやすく解説し、誰よりも奇想天外なアイデアを思いつく、若き科学者。


 そういったイメージが彼には定着した。だが、彼自身はメディア露出を極端に嫌い、それ以来、メディアに出ることは片手で数えられるほどしかなかった。


 また、彼は一度、結婚歴があった。相手は同い年の一般人女性だった。だがある日、観光のために乗っていた巨大な観光船が嵐によって、沈没(ちんぼつ)。相手の女性はその事故によって亡くなった。彼も同乗していたようだが、生き延びたらしい。


 それから、彼は教授の同行以外では自ら海外に出ることはなく、論文を発表することもなかった。さらにはメディアに露出することもなくなった。だからこそ、彼のことを知っている人々は皆、口を揃えて言った。


『もしも彼がやる気を出せば、彼は世界的な権威になれるはずだった』


『彼ほどの才能の持ち主が(くすぶ)っているのが何故だか分からない』


『何故、彼ほどの人が何もしないのだろう』


 それほどに彼はその界隈では有名な人物だった。


「つまりはやる気のない天才って感じの人ですか」


「まあ、言ってしまえばそうなりますね」


 木崎は隣から発される容赦のない言葉に苦笑いを浮かべた。



 車は都内のとある一軒家の隣にある敷地に駐車する。


 木崎は隣に聳え立つ一軒家を見た。一軒家と表現するのも憚られるような豪邸。事前にアポイントメントを取っていたから隣の駐車場らしき敷地に駐車することができたが、何もしてなければ、すぐに警報がなりそうな豪邸だった。


 二人は車から下りると豪邸の門を通り、玄関へと向かう。門は二人が近付くと自動で開いた。どこかに監視カメラが設置されており、警備が彼らの姿を確認して門を開けたのだろうと考えられた。


「おお、ようこそ、御二方」


「ご連絡させていただきました、内閣官房副長官補佐木崎圭人と申します。こちらは私の部下の佐藤です。よろしくお願いします」


「佐藤です。よろしくお願いします」


「木崎さんに佐藤さんですね。よろしくお願いします。いやあ、ご足労ありがとうございます。本来なら、こちらから()を出向かせるべきところを」


 木崎と佐藤を玄関で出迎えたのは一人の男だった。年齢は六〇後半ほどだろうか。教授と言われば、そうと思えるような風貌(ふうぼう)の男。男はどうやら、この豪邸の主のようで高橋(たかはし)と名乗った。木崎は男の名前と顔に見覚えがあった。何年か前にメディアで見たことのある顔だった。


「彼は今、部屋に()もっていまして。多分、大怪獣の遺体の処理の方法を考えていると思うのですが」


「そうですか。いつも、そのような感じなのですか」


「まあ、そうですね。結婚した頃はそうではなかったのですが、彼女が亡くなった頃から籠もるようになってしまいまして。まだ、当時よりもマシになった、と言うべきか」


「ところで失礼ですが、あなたの専攻も彼と同じなのですか」


「ええ、そうですね。遺伝子工学、生物学等を専門としています。私が教授で彼が助手と言ってはいるものの、彼がそれなりの欲でもあれば、立場は今頃、逆転していたでしょうなあ」


 教授は困ったような笑みを浮かべた。その顔は永島那由多の将来を(うれ)いているようにも思えた。だがその反面、現実を受け入れているようにも木崎には思えた。憂いるのにも関わらず、現実を受け入れる。なぜ、教授がそのような相対(そうたい)する感情を受けれているのかは分からなかった。


「こちらの部屋にいます」


「ご案内ありがとうございます。永島さん、先日、連絡させていただきました木崎といいます。お部屋に入ってもよろしいでしょうか」


 三人が話しながら、(やしき)の中を進むと教授の足がとある部屋の前で止まる。その部屋は他の部屋に比べて狭いようにも感じられた。中からは誰かがいるような気配が感じられたが、木崎の言葉に返答はかえってこなかった。


「永島君、入るぞ」


 教授は一瞬の躊躇いもなく、部屋の扉を開く。佐藤はこれが常なのだと彼の行動から感じ取った。日常的に、頻発的(ひんぱつてき)にそう教授はこの部屋に入るときはそうして入っている。



 部屋の中は暗く、散らかっていた。


 電灯は小灯(しょうとう)が付いているものの、その役割を果たしておらず、また、カーテンも閉め切られており、暗かった。(かろ)うじて勉強机と思わしき場所のライトが付いており、その周囲が明るく照らし出されていた。


 そして、そこには何者かの影があった。だが、その影も周囲に散らばる本や資料、書類の山に消え隠れし、正確にそこに誰がいるのかは分からない。


「また、こんなに散らかして。お足下にお気をつけ下さい。紙に足を取られないように」


 教授は慣れたように紙だらけの部屋の中を歩む。木崎と佐藤は教授の後を追い、徐々に唯一明るい勉強机の方へと歩みを進める。


「永島君、こちらを見ないか」


「はい?」


 教授がライトに照らし出されていた影にそう、声を掛ける。一瞬の沈黙の後、彼の声に反応するかのように若い男の声が木崎と佐藤の耳に聞こえてきた。それと同時に、机から一人の男が顔を覗かせた。


 ボサボサの髪。


 乱れた服。


 三〇代前半ほどと思われる男の顔。


 目の下には大きな隈ができていた。その目はしっかりと木崎と佐藤、教授のいる方向を見ていた。


「政府の方がいらしたぞ」


「どうも初めまして、木崎と申します」


「木崎の部下の佐藤といいます。よろしくお願いします」


「……あ、ああ、ああ!! ()()連絡をくれた人! ああ、すみません! 永島那由多といいます。よろしくお願いします」


 木崎が出した手に男は首を傾げた。が、数秒間、制止したするとすぐにハッとして立ち上がり、木崎の手を握る。その顔は何か合点がいったかのようにスッキリした表情だった。だが、木崎の手を握るその手は部屋に長期間、籠もっていた人間とは思えないほど、力強かった。


 そんな握手に木崎は眉を(しか)めかけたが、すぐに柔らかい笑みを浮かべた。


「よろしくお願いします。ところで先程、お部屋の前で声を掛けさせていただいたのですが、声が返ってきませんでしたので何事かあったのかと思ったのですが」


「いやあ、自分、集中すると周りの声も聞こえなくなるタチでして。今は頂いた仕事の遂行案をいくつか、考えていまして」


「それはそれは殊勝なことですね。では少々、お時間いただけますか」


「はい、大丈夫ですよ」


 木崎の言葉に永島は人の良さそうな笑みを返した。敵意があるわけでもなく、何かを企むような表情もなく、ただただ、永島の笑みは人が良さそうだった。

……手を伸ばせば良かったと、未だに後悔している。


読んでいただきありがとうございました。お時間ありましたら、レビュー、評価等していただければと思います。

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