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ポンニチ怪談 その96 新・カタリベ

作者: 天城冴

悲惨な経験を語り継ぐものの後継者はAIであったが…

“元ニホン国与党連合、ジコウ党他の皆様、この猛暑、いえ40度越えの酷暑の中、新平和記念会館にようこそ。すでにニホン国の8月の平均気温は38度以上をこえていますからね。少しでも気温を下げるため、アスファルトの舗装などといったものをはがし、土で固めて直す工事が全国でようやく終わったばかりで。なんとか気候変動に歯止めがかかり始めたとはいえ、急にはなかなか変わりませんね。むだばかりで車内は灼熱の鉄の車から列車、屋根が太陽光パネル樹脂を混ぜた21世紀型木製列車、エアコンなどという前時代の機械を使わずとも、快適に走行できるすぐれものですが、何分お高い。以前のように今、遠出をする人などほとんどいらっしゃいませんが、今日8月6日は特別ですからね。遠路トンキョーからようこそ。すでに、先日何名かの元議員さん方がいらしております。

改めまして、ワタクシ、案内人の新・カタリベAIでございます。すでに生身の語り部様はみな旅立たれ、ワタクシがその記録を引き継いでおります。…え?昨日の方々が体験しているはずの新・カタリベを早く聞かせろ、早く帰りたいから、ですか。…今は、すでに聞くといったものではございません。以前の語り部の方々の体験談をもとに最新のバーチャルリアリティ技術を駆使した非常に再現度の高いものとなっております。いわば戦争、被爆の疑似体験、といったところでしょうか。聴覚、触覚だけでなく、痛覚や暑さなどといったものまで、ほとんどその場にいるような感覚です、ぜひご体験を。それがこの会館の醍醐味でもありますから。

さて、それでは、この体験型ヘッドを…。ああ、隣から聞こえてくる、声…ですか。議員だったザクライ・ヨジコに似ている、って、ご本人ですわ。…あんなに必死になって、しかも涙声で謝っているのはなぜかって?あの方は特別コースをご所望でしたので。ええ、首都トンキョーの平和記念公園に設置予定のバーチャル体験コース、大空襲だの、遠方での餓死寸前体験だの、大虐殺体験だのが入ったもの体験されまして。まあ、よほど恐ろしかったんですかねえ、それとも自分が付いた嘘やデマの数々がどれほど罪深いか、よーくわかったんじゃないですかあ?今更謝っても遅いかも知れませんけど、研究者の成果を否定して嘘を広め、ニホン国を最低レベルに落としかけましたからねえ。まあ、皆様も…ですけど。

あら、悲鳴をあげられて、どうされました。無理やり帰ろうとして、手が吹っ飛んだ、痛いって?…ああ、手りゅう弾体験をなさったんですね。旧ニホン軍高が敵に捕まったら自決しろとかで、兵士や、一般市民にまで強制したというあれを。バーチャルですから、大丈夫ですよ。痛みの感覚は本物に近いですけどね。ほら、ちゃーんと、手はついているでしょう?でも、いたいって。それはもう、優れた再現度ですから。本来は戦争して国を守る―とかいってたネトキョクウさんとか、皆さんの支持者さんたちに体験してもらうものなんですけど、今回は特別に途中退出者に対するペナルティといたしました。これを振り切ったとしても、大空襲体験、人体実験部隊による残虐行為体験など、まだまだ盛りだくさんですよ。実際の被害はないとしても、痛みも暑さも、死臭を嗅ぎつけて体中を這いまわる虫たちの動きまでリアルに再現されたそれに耐えられますか?うふふ

では、皆さん、おとなしく体験しましょうねえ。…おや、昨日の方がまだいますねえ。サンサン党のエンイリ・ザーヤ議員ですねえ、隅にうずくまっていて…ああ、申し訳ありません、どうも精神を破壊されてしまったようなので、引き取り手が来るまでここに放置されていたようですね。他のかたはちゃんと宿舎に帰っています、ただいま確認取れました。エンイリ様は当選当初、核武装がどうのとおっしゃっていたので、その核爆弾を落とした結果をリアルに体験していただいたんですよ、もちろん落とされた方の。自分が言っていることの結果がどうなるか、よーく理解して頂きたかったんですが。どうも、理解する前に恐怖と痛みで壊れちゃったようですねえ。まああの熱と皮膚が溶ける感覚は相当な痛みだそうですねえ、さらにその後のいつ来るかわからないがんや白血病などの罹患の恐怖とその苦しみ。ついでに、核戦争後の崩壊した世界も味わっていただくはずでしたが、第一段階で悲鳴を上げるわ、喚き散らすわ。仕方なく一次で終了ですが、この有様ですからね。あーあ、失禁やら脱糞まで、最初のころの威勢のよさはどうしたんでしょうねえ。そんなに弱いならあんなに強がり言わなくても、いや弱いイヌ程よく吠えるということでしょうかねえ。どちらにしても専門の施設にいっていただきますので、先ほどのザクライさんも含めて。あ、もし、皆様がこうなっても、ちゃんと手続きは取りますので、ご安心くださいね。

さあ、お待たせしました。新・カタリベによるリアル被爆体験ですよ、皆様ヘッド装置をつけて、震えて落とさないでくださいね。…怖いんですか?戦争を誘発するような言動をとり、核武装などとのたまっていたアナタ方が、バーチャルとはいえ、リアルな体験をするのが嫌だなんて、なんて図々しいんでしょうねえ、それとも想像力もなくスッキリしたいから喚いていただけなんですか、でしたら、猶更体験していただきますよ。…もう老人だから?あら、議員だのナントカの会長だのやっていたじゃないですか、どうせバーチャルですよ、体験してくださいねえ。自分に都合の良すぎるアナタ方のような方のために開発されたシステムでもありますからあ。それでもAIかって、そうですねえ、ただのAIではないかもしれませんねえ。なにしろいろいろな思いがこもったところですから、精密な機械、システムほど何かに取り憑かれやすいとか…幽霊かって?はて、なんだと思います?

さて、本題にもどりまして、語り継がれるべき被爆体験がよろしいですか、それとも、ザクライさんが体験した空襲、戦時下残虐行為被害者体験などもございますよ。さあ、どれにする?“


いろいろな方の思いってのがありますけど、恨みとか負の感情って残りやすく、そして精密機械とかに取りつきやすいそうですねえ。そういったのが、昨今の風潮をみて、どう反応するんでしょうねえ。

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