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軍艦モノ

4姉妹〜近代改装記〜

作者: 仲村千夏

 昭和十一年、呉海軍工廠。

 乾ドックに並ぶ、四隻の巨大な艦影。

 老朽化が進み、煙突も艦橋も煤で黒ずみ、誰もが“役目を終えた艦”と思っていた。


 だが、その中央に立つひとりの男が言った。


 「ここにいるのは、終わった艦ではない。時代を導く、“鋼の叡智”だ」


 艦政本部次席造艦監督官・四条隼人中将。

 元《能登》設計主任にして、砲術主義者。そして、今や全四艦の近代改装計画の総責任者である。



第一段階:砲を揃える


 改装の第一工程は、主砲の統一だった。


 四隻とも異なる砲架・機構を持ち、当初の計画では換装すら難航するとされていたが、新設計の36センチ連装砲塔により、可能性が開かれた。


 - 《薩摩》は、旧砲座の径が一致。最もスムーズに換装。

 - 《安芸》は装甲支柱の再設計を伴い、艦内構造ごと改修。

 - 《能登》は砲塔基部が重すぎたため、軽量型の新砲塔に変更。

 - 《対馬》は、既存機構との整合性が高く、換装は半月で完了。


 四隻が、同じ主砲を搭載した日。

 技術者たちは、その砲塔を見上げながら、まるで娘が同じ制服を着て並んだかのようだと語り合った。



第二段階:機関と推進器


 次に着手されたのは、主機関と推進システムの統一更新だった。


 海軍新型高圧缶「九八式缶」と、改良型タービン「九七式高出力機関」を全艦に導入。

 さらに、プロペラは四翼式から三翼高効率プロペラへと改装。推進シャフトも強化型へ交換された。


 旧型艦でありながら、最高速力は38ノットを再現。

 それは、もはや“旧式の艦”ではなかった。



第三段階:装甲と構造補強


 装甲も、ただ厚くするのではない。

 新型重鋼材「三号特殊鋼」を用い、バイタルパートに斜傾構造を追加。

 特に《対馬》では、艦橋後方に設置された司令室の防御区画が戦術的価値を高めた。


 副砲も統一され、12.7cm高角砲連装四基、25mm三連装機銃二十基。

 艦載機の時代を見据え、艦橋には新型射撃管制装置とレーダー「九式電探」が設置される。



最後に――心の調和


 それでも、艦はただの器にすぎない。

 人が、心が、それを「姉妹」にする。


 改装完了の日。

 四隻は、同じ迷彩塗装を施され、同じ艦橋構造を持ち、同じ砲声で祝砲を放った。


 四条中将は静かに語った。


 「……彼女たちは、違う道から来た。

  だが今、同じ空を見上げて、同じ進路を取れる。

  それが、“時代に抗う艦”ということだ」



再び、並び立つ日


 その後の演習で、薩摩型四姉妹は並び立った。

 見た目はまるで、完全な新造艦のようだった。

 だが、その内には十数年を超えてきた技術の蓄積と、設計者たちの執念が宿っていた。


 - 《薩摩》は、今も先頭を走る。速力では誰にも負けない。

 - 《安芸》は、耐える。命中弾を抱えたまま、砲を撃ち続ける。

 - 《能登》は、砲戦の主役。その一撃で演習目標を粉砕した。

 - 《対馬》は、全体の要。僚艦への管制支援と統率に徹する。


 そして彼女たちのあだ名は、こう変わった。


 ――かつては「異端の四姉妹」

 ――今は「統べる四姉妹」



終わりに


 彼女たちは、流行の戦艦ではなかった。

 圧倒的な大艦巨砲主義の主役でもなかった。

 だが、彼女たちは“失われかけた技術の魂”を抱きながら、次の世代に希望を渡した。


 やがて、金剛型、長門型、そして大和型へ――。


 だが、その始まりはここにあった。

 一隻の速い艦《薩摩》から始まった、四人の姉妹の物語。

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