プロローグ
「雨が降っていたんだ。あのときは」
3人で輪になって私達は座っていた。
その中央の天井から照らされる光が、それぞれの顔に影を作る。
私は酷く犯人のような気持ちになった。
形上、取り調べをされているのだから、それは良くない。彼ら二人の顔を見ながら、ただ誠実に伝えようと、私は時系列順に話すことにした。
「学校へ行くまでの道すがらのことだった。バス停に着いた私は、徐々に強くなるその雨が視界を遮る程になっているのに、構わずスマホを眺めていた。」
「その時点で、向かい側に人影はなかったの?」
私は少し考えて、彼女の目を見て言う。
片方、肩まで伸びた髪を後ろで結んだ彼女は言外の意図を全て排除した親しみのある言葉で、私の発言を待っていた。
「二人、いた気がする」
幾度となく聞かれたこと。だけど、記憶は薄れゆく。もう二ヶ月も前のことなのだ、どこか忘れようとしているのだろう。日に日に思い出せなくなっていくその風景を、私は再び思い描いた。
確かにあの時、あの場所で雨が降っていた。記録は残っている。ただ、視界を遮るほど、それも二車線しか無い車道を横断出来ないほどの濃いものではなかったはずだ。
被害者がいる。この取り調べで、認識の齟齬は認められない。
メッキで彩られた胸元のバッジが反射して彼を照らした。
「トタンの屋根に雨が打ち付ける音が耳にこびりついている。その場には私しかいないかのような雰囲気さえ有ったような気がする」
鮮明だったはずのその風景が、その輪郭を失っている。私を見る彼らの目線に押しつぶされてしまいそうだ。
「眼の前の二人組が何やら話をしているらしいと言うのは未だ微かな雨音の合間に聞こえてきていて、私はそのノイズを塞ぐためにとりあえずイヤホンをしていた。」
果たして私が覚えていたのが妄想だったのか、実際に起ったことなのか、その境目も曖昧になってきて。部屋の隅で縮こまるネズミや、ヘビに睨まれた蛙の気分だ。どこか気分は浮ついていて自分の視界が誰かのものをそのまま中継しているような現実感のなさがそこにあった。心拍数が上がる。どこかめまいがする。吸った息をうまく吐き出すことが出来ない。
「そこから、十分ほどして、一人の男性が、眼の前の車道から現れた」
私はメモを取るクリップホルダーを握る力を彼に悟られないよう微かに強めていた。
供述が、変わった。