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あの時のハイカラさん

作者: アルデンテ

※注意書き この作品は、わたくしアルデンテの初作のため、おかしな文章のところは多々あるはずです。

わかったうえでお読みくださいませ

 1990年、春。宮崎県の自由が丘だったろうか。僕は、妻の由紀と娘を車に乗せ、お義父さんの家にむかっていた。春の気持ちいい日差しはどこへ行ったのか、一面曇り空。むかしから、めでたい日はいつも曇りだ。しかし、海岸線沿いの道路は、免許取り立てだった僕にとって、天気を気にする余裕など少しもない、スリリングな道だったから、気づいたのはこの後だったけれども。

「とも、次の交差点、左に曲がってくれない?逆方向だけど、お父さんのお土産買っていくから。」

「わかった。前にも買っていった、団子屋だったっけ。おいしかったやつ。」

この前にも一度だけ、僕はお義父さんと会ったことがある。その時にも、おみやげとして、三食団子を買いに行った。由紀曰く、お義父さんは昔から、甘いものと言ったらその店の三食団子以外食べないそうだ。小さな交差点を左に曲がり、2つ目の信号をまた左に曲がると、その団子屋につく。そこまで大きな店ではないが、いい意味で昔ながらの雰囲気の団子屋だ。

「久しぶりに来たわねー、いつぶりかしら。」

「まだ結婚する前だから、もう4年前のことになるな。」

駐車場に車をつけ、店に入ると、どことなく懐かしいにおいがして、二人で顔を見合わせ、「これだね、これ。」と笑った。

「えっと、三食団子でよかったよね?すいません、三食団子5本入りを二つ。」

「はい。。」

その時、店主のおばあちゃんが、少し目を見開いたように感じたが、まあ、大して気にしていなかった。

「・・・・・・、ねぇ、二つは多いんじゃないかしら。あの人たちもう今年で75歳なのよ?」

由紀の言葉に、少しやってしまったと感じて頭に手を当てる。

「ああ、確かに、一つでよかったかも。完全にミスってる。」

しかし一つでいいと言うことはできず、二つ買うことになった。しょうがなく、助手席に団子を乗せ、少し急いで車を出す。

「じゃあ、買えたことだし、急ごうか。」手前由紀に言っていたが、実際は自分に言いきかせていた。その急ぎ足、いや、急ぎアクセルで、家へは、すぐについた。

「どうやって入ればいいだろうか・・・・・・、やっぱ、すごい緊張するものだね・・・・・・。」

「いいよそんな固まんなくても。もう家族なんだしさ。」

それもそうだと心を落ち着かせ、戸を開けた。

「・・・・・・お邪魔します。」「ただいまー!」

きれいな陶器の置物と大きな靴箱の玄関。畳と障子のにおいが前面に和を感じる。由紀の実家がある住宅街は、リフォームした家ばかりだが、この実家だけはむかしのままで、僕はこの家の雰囲気が好きだ。

「ああ、少し遅くて心配したぞ。さ、由紀もともくんも早くあがりなさい。」

お義父さん。今年で76にもなるのに、とても元気で、僕たちの結婚も祝福してくれている。

「あれ?かあさんは?」

「ああ、今日は公民館に手伝いに行っとるよ。夜にはもどってくるはずだから、まぁ、少し待っててな。」

・・・・・・、なんだか気まずくて一言も話せない状況がしばらく続いた。

「・・・・・そういえば、ともくんは今、何歳だい?」

「今、29歳で、今年でもう30歳になります。」

そう答えると、お義父さんは嬉しそうにうなずいて、三色団子の緑、つまり、最初の一つ目をゆっくりと食べた。本当においしそうに。

「そうか、もう30にもなるのか。へぇ。そうだ、ともくん、少し二人で話したいことがあるんだが、いいかな?」

「あ、はい、二人で、ですか?」

一体何だろうと思った。全く予想がつかないからこそ、怖かったが、お義父さんとは関係を深めたいし、なにしろ話があると言われ、少しうれしかった。

「じゃあ、ちょっと2階に。」木のにおいがする階段を上り、小さな物置のような部屋に入ると、お義父さんは本棚から分厚いアルバムを出して、開いてみせた。

「これは、思い出話なんだけどね、僕がまだ10歳くらいの時のことだったよ。」




そのころ、僕の家はその時代では割と裕福なほうで、横浜の港町に住んでいたんだ。家の畑を耕すのを手伝って、あとは港のほうへ行って外国の珍しいものを眺めるか、野のほうへ行って虫を捕まえたりして遊ぶ暮らしさ。それで、そのくらいの時の夏に、一人、西洋の服を着た、いわゆるハイカラさんがよくうちの前を通るようになった。当時は珍しかったから、はっきりと覚えてる。あんまりにもきれいな人でね、わざと道ですれ違おうと、家の前でずっと待ってる日もあったくらいだ。そんな日が続いたせいか、いつしかあちらも僕の顔を憶えてくれたみたいで、お辞儀をしてくれるようになっていった。僕はそれが嬉しくて、調子に乗って、ある日、ハイカラさんに話しかけてみた。「ハイカラさん、よくうちの前を通ってるな。どうしてだ?」ってな。恥ずかしながらに顔を赤くして、勇気を振り絞ったと思うよ。そうするとハイカラさんは、スカートを抑えながらしゃがんで、「この横浜で、人を待ってるの。」と言った。それから、「誰を待ってるの?」と聞くと、「私の婚約者。」ってね。そこで僕の初恋もきっぱりと終わったよ・・・・・・。おっと、話の続きだね。それから僕たちはいろいろなことを話すようになった。当然、その婚約者の人についてもいろいろと聞いたよ。その婚約者の人はある客船の船長さんで、船酔いしていたところを助けてくれて、一目ぼれしたと。プロポーズの時は、その船の船首で花束を渡されたこと。いずれ横浜に帰ると言って、長い航海に出てしまったこと。もう3か月もたつのに、いまだに連絡がないこと。お姉さんは船長の紹介で止まっている旅館で、その帰りをずっと待っていること。お姉さんは宮崎の出身で、横浜には話し相手もいないから、まだ子供だった僕にもいろんなことを話してくれた。とても楽しかった。でもやっぱり、ハイカラさんはどこか寂しそうで、それが子供ながらに伝わったよ。そうしてそんな日がまた続いていって、夏の暑さが引いてきたころ、うれしい知らせがあった。ハイカラさんあてに、船長さんから手紙が届いたんだ。手紙にはカタカナで、3日後に横浜に船が着くと書かれていて、ハイカラさんは心の底から喜んでた。そうして迎えたその日、約束通り、大きな船が港に着いた。乗客よりも先に、船長さんは船から出てきた。「由紀!」という声が響いて、白い船長帽と服を着こなしているその凛々しい船長さんはこっちに走ってきた。二人は再会できたことを確かめ合うように、強く抱きしめあって、笑っていたよ。ハイカラさんが僕のことを船長さんに紹介すると、船長さんは笑って、「ありがとうぼうや。君が由紀を守っていてくれたんだね。お礼に、少し船内でも見ていかないかい?これから1ヶ月は、この港にいるつもりなんだ。」と言い、快く船内を案内してくれた。客船なこともあって、客室とおしゃれなライトが立ち並ぶ、ホテルみたいな船で、そんなところに来るのは初めてだったから、ちょっと緊張したよ。そのあとは、操舵室や動力室、最後に船長室に連れてってくれた。その時だよ、お茶と一緒にあの店の団子を出してくれた。初めて食べて、そりゃもう、おいしい団子だったよ。ハイカラさんが宮崎で大好きな団子だったらしく、船長はそれを特別に取り寄せているんだとか。あの時からすっかり好きになってしまって、だから今でもお気に入りなんだ。そうそう、そのあと、僕はほぼ毎日船長さんのところに行って、ほかの船員の人とも顔見知りになるくらいにもなった。船長さんは優しくて、かっこよくて、男前で、「僕もいつか船長さんみたいになってハイカラさんみたいな美人さんと結婚する!」って言って、憧れの存在だった。だから別れるときになっても、僕は必死に泣くまいとこらえて、手を振ってた。寂しかったけれども、いつかまた会えると思って見送った。・・・・・・でも、もう会うことはなかった・・・・・・。船長さんの船が出航してから数週間後、新聞で、その船が沈没したという記事を見たんだ・・・・・・。呆然としたよ。ヨーロッパ連合の艦隊が、敵船だと思って沈めたらしい。あんなにお互い愛し合って、これから、もっとたくさんの思い出ができるはずだった二人は、もういないんだということを、僕は信じ切れずにいた。・・・・・・・・・・・だけれど、今日、確かに分かった。ともくん、君は・・・・・・・・・




ガハッ!

その時、お義父さんは突然血を吐いて、倒れた。

あまりにも突然のことで、僕は一瞬パニックになってしまった。

「お、お義父さん!大丈夫ですか!しっかりして・・・・・・う・・・・・・、う・・・・・・。」

僕は、突然強く頭を打たれたような衝撃に襲われ、その場にお義父さんと一緒に倒れてしまった。



碧君・・・・・・


ゆ・・・き・・・?


雛菊・・・・・・・・・



ハッ!

目が覚めるとそこは病院だった。

由紀が救急車でもよんでくれたんだろう。

体は何ともない。ただ、明らかに違う。全ては、その時にわかった。

「あ・・・、おい君・・・!」僕はとにかく走った。お義父さん・・・、いや、早坂碧君の元へ。走ったといっても、2つ奥の部屋だったが。ガラッ!「・・・・・・、ともくんか・・・。」僕が入ってきたことにすぐに気づいたようで、碧君は体を起こした。

「・・・・・・ともくん、さ、座って。」僕は言われるままに、ベッドの隣の椅子に腰かけた。


「この前の話の続きだ。といっても、その感じだと気付いてるみたいだな。・・・・・・初めて君を見たとき、なぜかその顔や声を、船長さんと重ねてしまった。なぜだろうか・・・・・・、まるで生まれ変わったみたいにね。・・・・・・そうなんですよね、船長さん?」

「碧君、じゃあ君は最初から・・・・・・。」

「気づいてましたよ。僕のあこがれの人なんですから。」

「そうか。私は今、ようやく気付いたよ。久しぶりだな、碧君。」

碧君の目からは涙がこぼれ、僕もそれにつられて泣きそうだった。

「船長さん、実は、娘の名前は、あの時のハイカラさんの名前からとったんです。由紀って。船長さん、いっつもハイカラさんのこと、由紀って呼んでて、いい名前だと思ったんです。」

「気づいてたよ。というより、今わかったけどね。・・・・・・でも由紀は、まるであの時の由紀のままだ。不思議だな。神様が、もう一度会わせてくれたのだろうか。」

「きっと、二人が最後まで一途に思い続けていたからでしょうね。」

「・・・・・・君のことも、きっと一生、いや、何度生まれ変わっても忘れないよ。たった1ヶ月の仲だったが、実際僕も君のことをこんなにおぼえているんだ。」

「ありがとうございま・・・・・・ゴホッゴホッ!ああ、私ももう長くないみたいだ。船長さんに会えて、もう悔いも残っていないみたいだしなぁ。」

「そんな・・・・・・、またこうして時を越えて会う事ができたというのに・・・・・・。」

「きっとまた会えますよ。ハイカラさん・・・、いや、由紀にも伝えてください。私に悔いはなかったと。・・・・・・そうだ、これは、ともくんに訊くけれど、娘の名前はなんていうんだい?」

「まだ、きめてません。由紀とも話し合って、いい名前が思いつくまで、ちゃんと名前は決めないって。」

「・・・・・・うん、ゆっくり決めるといい。いい名前をね・・・・・・。」

そう言って、お義父さんは眠るようにこの世を去った。死因は老衰。誰もいない病室で、僕は碧君の手を持ってひたすら泣いて、悲しみを全て押し出した。

さっきの話、本当だよ。絶対に君を忘れない。



そうして僕たちは親族だけで葬式を済ませ、家に帰った。あの時のハイカラさんの話は、今の由紀にはまだ話していない。ただ、僕は一つ心に決めた。碧君は死んだけど、翌日話し合って決めた子供の名前は、碧になった。

いかがでしたでしょうか

最後までお読みいただきありがとうございます

これでも小説オタクで、この作品はちょっとした好奇心で書いたものでしたが、もし機会があればまた書くことがあるかもしれません。

その時も、読んでくださるとうれしいです。

しかしまだ超がつく初心者なので、ご意見・添削等あれば、ぜひとも教えてください。よろしくお願いします。

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