どっちがお兄ちゃん?
おなじ日の、おなじ時間の、おなじ分の、ほとんどおなじ秒に、たくさんあるたまごの中から、二羽のうずらの赤ちゃんが生まれました。
生まれたのは、どちらも男の子。パチリと目が合ったその時から、『ぼくの方がお兄ちゃんだ!』とけんかを始めました。
お母さんうずらはこまって、どちらのたまごを先に生んだか思い出そうとしました。だけど、二羽をつつんでいたカラは、もようや色までそっくりなので、見分けがつきません。
オロオロしているうちに、もっと小さなほかの兄弟たちが生まれ、それどころではなくなってしまいました。
「ぼくがお兄ちゃんだ!」
「いいや、ぼくだ!」
今日も二羽はけんかしています。
お母さんだけでなく、後から生まれた弟や妹たちまでこまっていました。
二羽は毎日しょうぶをしていました。どちらの方が頭がいいか、どちらの方が力がつよいか。
頭くらべにかつのは、いつも茶色の羽の男の子。はんたいに、力くらべにかつのは、いつも黒色の男の子。
だからしょうぶはいつも引き分け。けっちゃくがつかないまま、もう二週間もすぎてしまいました。
ある日、兄弟たちがさんぽをしていると、道のまん中を、大きな水たまりがふさいでいました。
どうしたらいいかと頭のいい茶色の子が考えている間に、後から生まれたほかの弟が、木のえだをころがして橋にすればいいと思いつきました。
それを見て、黒色の子は、ふふんとわらいました。
またべつの日、兄弟たちがごはんをさがしていると、葉っぱの上から、大きなクモがぶらんとおりてきました。
クモはとてもおいしい食べものですが、こんなに大きいものははじめてです。たたかえるかなと力のつよい黒色の子が考えている間に、後から生まれた妹が、クモにとびかかってやっつけてしまいました。
それを見て、茶色の子は、ふふんとわらいました。
さいしょのころは、おたがいを見てわらっていたばかりの二羽でしたが、後から生まれた弟や妹に、頭も力もどんどんおいぬかされて、どんどんおちこんでいきました。
どちらも『お兄ちゃん』にふさわしくないのではと、しょんぼりしていたある日。あたらしいたまごから、一番あたらしい赤ちゃんが生まれました。
やさしい黄色の羽をもつその赤ちゃんは、兄弟の中で一番小さく、一番からだのよわい赤ちゃんでした。
茶色と黒色の兄弟はしんぱいになり、いそがしいお母さんのかわりに、せっせとおせわをしました。
あまりごはんを食べられない赤ちゃんのために、茶色の子は、やわらかい虫を、むずかしい所からさがしてもってきます。すると黒色の子が、つよいくちばしで、その虫をこまかくちぎって食べさせてあげました。
こうしてきょう力しているうちに、いつの間にか二羽は、どちらがお兄ちゃんかと、けんかをすることがなくなりました。
黄色の赤ちゃんがすっかり元気になったころ、茶色の子は黒色の子に言いました。
「ごはんをちぎって、食べやすしてくれてありがとう。君がほんとうのお兄ちゃんだよ」
するとこんどは、黒色の子が茶色の子に言いました。
「ううん。君こそ、食べやすいごはんをさがしてきてくれてありがとう。君がほんとうのお兄ちゃんだよ」
ゆずりあって、なかなかけっちゃくがつきません。
もうけんかはしたくなかったので、ほかの兄弟たちに、どちらがお兄ちゃんか決めてもらうことにしました。
「茶兄ちゃんが一番のお兄ちゃんだと思う子!」
ふるふるふるふる。
「黒兄ちゃんが一番のお兄ちゃんだと思う子!」
ふるふるふるふる。
兄弟たちは、どちらにも首をふります。そして口々に言いました。
「茶兄ちゃんも、黒兄ちゃんも、どっちも一番やさしい!」
「どっちもやさしいから、どっちも一番大すきだ!」
「どっちも大すきだから、一番を決められないよ!」
お兄ちゃんたちは、よくにた顔を見合せます。やがて、少してれくさそうに、にっこりとわらいました。
さくらの花びらが、ひらひらとふるあたたかな道。
今日もうずらの兄弟たちは、なかよくならんでおさんぽしています。
せんとうには、あの茶色と黒色の一番のお兄ちゃんたち。そのすぐうしろには、二羽のことが一番大好きな、あの黄色い子。そのうしろは、生まれたじゅんに、ほかの兄弟たちがつづきます。
歩くはやさや、気になるものがちがうので。しゅっぱつした時と帰る時とでは、よく、じゅん番がちがうことがあります。
けれども兄弟たちは、そんなちょっとしたことで、けんかをしたりはしませんでした。
大すきな十羽全いんが、ぶじに帰って来られたこと。それが何よりうれしいのですから。
ありがとうございました。