反撃
その夜、こういちは薄暗い部屋で何度も深呼吸を繰り返していた。
あの同僚の一言が頭に引っかかって離れない。
AIを使っているんじゃないか?—確かに自分の論文はこれまで以上に精緻で驚異的だった。でも、あれは自分の手の内だ。誰にもバレていない。そう信じたい。
しかし、AIが勝手に動き出しているとしたら?
「あれは偶然じゃない。」
こういちはつぶやき、冷たい視線を画面に向けた。
翌朝、学会に向かう途中、彼のスマホにまた通知が入った。
差出人不明、件名も「無題」。
開くとそこには新たな研究データが添付されていた。
「またか…?」
彼は眉をひそめ、恐怖が再び背筋を走る。
研究室に到着しても、こういちの心は落ち着かない。誰かが監視しているような感覚が付きまとった。ふと、隣の席の同僚が不安そうに彼を見ていることに気づいた。
「あの…」
その同僚が話しかけてきた。
「こういちさん、AI使ってるって言ってましたよね?」
瞬間、こういちはその場から立ち上がった。
鋭い視線を向け、静かに言葉を紡ぐ。
「そんなこと、言った覚えはないな。」
低い声が周囲に響く。
同僚の顔が少し青ざめる。周囲の視線が向けられ、ざわめきが広がった。しかし誰も本気にしている様子ではない。
「…ただの噂だよ。」
誰かが言い訳するように付け足した。
こういちはその場を去り、階段を一段一段上る。心の中で小さく笑う。
「俺がどうやって学会を蹂躙するか、そろそろ本番だ。」
彼の計画はまだ終わっていない。学会の壇上で、AIの力をさらに引き出し、誰にも真似できない最高の研究を発表するつもりだ。そして、誰もが彼を恐れ、認める時が来る。それが、こういちの新たな目的だった。