影の王座
こういちが退学後も学会の舞台で着実に力をつけていることは、誰も知らなかった。彼の存在は、次第に影響力を持ち始めていた。
「これが俺のやり方だ。」
スマホをいじりながら、彼は微笑む。
研究のすべてがAIによって作られ、周囲には自分の手によるものだと偽装している。
学会の中では、こういちに関する噂が広がりつつあった。
研究者たちは口には出さないが、あの異様な精度と完成度に疑念を抱いている。
「あのデータ、本当に彼が自分で作っているんだろうか?」
ある学者が同僚に尋ねる。
「それはわからない。でも、彼の研究結果は確かにすごい。」
別の者が答える。
学会の評価が上がるにつれて、彼に対する風当たりも強くなっていたが、こういちには全く響かない。
むしろ、計画通り進行していることに満足していた。
「AIを使って何が悪いってんだ。」
その言葉が学会中、囁かれるようになる。
最優秀賞に輝く論文が発表されたとき、壇上に立つのはこういちだった。
拍手と驚愕の視線が彼を包む中、彼は微笑みを浮かべる。
「見た通り、これが俺のやり方だ。」
彼は声を張り上げ、堂々と宣言した。
会場の一部から拍手が湧き起こり、他の研究者たちは複雑な表情を浮かべている。
だが、誰もがAIによる研究が形を変えて学会を支配しつつあることを、言葉にすることはできない。
「もしかして、本当にAIを使っているんじゃないか?」
ある研究者が、小声で呟く。
「さすがにそんなことは…」
別の者が反論しようとするが、どこか迷いがある。
こういちの計画は完璧に進行していた。彼が退学になった後も、学会のトップに立ち続けるその姿は、誰にも真似できないものだった。
「今更戻ってきてくれと言われても、もう遅い。」
その言葉が、会場に響き渡る。学会の覇者として、影の王座を確立するその日まで、こういちの影はますます深く広がっていくのだった。