王の登場
退学後、こういちの行動は慎重になった。AIを使って研究を進めることは完全に隠し通し、学会への投稿や発表では、あくまで自分の手によるものとして装っていた。
「これが俺のやり方だ。」
部屋の中、スマホを操作しながらつぶやく。AIが生成したデータや解析結果を加工し、まるで自分の頭脳だけで作り上げたかのように見せる。完璧だ。
学会に投稿した最新の論文は、他の研究者たちから驚きと疑念を抱かれた。彼らは言葉にはしないが、こういちの研究の精度や完成度が異常であると感じ始めている。
「これはおかしい。」
ある老教授が独り言のように言った。「こんなに完璧な研究結果を、どこから持ってきたんだ?」
「AIを使って何が悪いってんだ。」
こういちの口癖が、学会中に聞かれるようになる。
次第に、周囲の研究者たちは彼のやり方を疑い始める。
「本当にこういちが自分でやってるのか?」
と。若くしてあまりにも整ったデータ、論理の飛躍が少ない研究内容に、疑念の目が向けられていった。
「自分の知識と研究だけじゃ、ここまでの結果は出せないよな…?」
ある若手研究者が、同僚に尋ねる。
「でも、こういちの発表はどれも高評価だ。AIを使っているとしても、手法が秀逸すぎるんだ。」
別の研究者が返す。
そんな噂が広がる中、こういち自身は微笑みを浮かべていた。周囲がAIを疑い出したところで、彼の計画通りだ。
学会の重要セッションで発表された最新の論文が、最優秀賞に輝くこととなる。教授たちはもちろん、一般参加者たちも驚きを隠せない。
「こういちが実際にAIを使っているんじゃないか?」
ある人がこっそり話す声が聞こえる。
「AIを使って何が悪いってんだ。」
こういちは再び口元に笑みを浮かべる。
「退学以降、俺の方法がますます効果的だ。」
影で学会を操り、AIを使った研究が徐々に学会を支配するその日まで、彼はひっそりと進化していく。