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画家の男

私はギャラリーに足を運んだ。一つ一つ絵が大切に飾られていた。どの絵も私の知らない画家の絵だった。どこか新鮮さを感じる。ギャラリーはそこまで人でにぎわっているわけではない。ちょうど落ち着いて見れる良いギャラリーだ。

「この絵は何を表してるんだ?」

ある閲覧者が画家に聞く。

「この絵は資本主義と金に支配されて依存して振り回された人間たちを描いた絵です。下にいるのが世界の特権階級の人間によって搾取される人々です。上にいる化け物は金という飾り物を追い続ける人間です。あえて野良犬として描きました。」

「面白い絵だね。」

他の画家も閲覧者と話している。

「この絵は葛藤してる私自身です。リンゴを食べるか梨を食べるかで葛藤してる私の精神世界の様子です。この妖精が精神世界の私です。」

「これは面白い発想の絵だ。才能の塊だな。」 

「ここにある作品は全て私にしかない世界なので。」

ここにいる画家達は皆不思議な画家だ。他の作品もじっくりと見る。

「この影がさくらんぼの思いを描いてます。」

ギャラリーに進むと無口の男性が立っていた。私は遠目で彼の絵をずっと見続ける。男性は165cmくらいの男性。私とさほど身長が変わらない。年齢も私と同じくらいの人だろう。髪が濃い茶髪で青い目をしている。見た目はどこか魅力的な部分がある。服はそこら辺にありそうな服を身にまとっている。彼の絵と彼を交差して見る。他にもすごい個性的な絵があると言うのに彼の絵から絵が離せない。彼の絵はここに飾ってる絵の中で一番何が描いてあるのか読み解くのが難しい絵だ。もしかしたらジャン・リュック・ゴダールの映画のように特に意味がないような物なのかどうして気になる。どんどん私の足が絵の方に向かっていく。制御しようとしても足が勝手に動いていく。とうとう私も狂ってしまったのだろうか。そしてとうとう謎だと思っていた絵にたどり着いてしまった。

「不思議な絵ね。」

何を思ってこの絵を描いたのだろうか?とても気になる。どんな人生を過ごしたらこんな絵を描けるだろうか。彼は小声でぶつぶつと説明している。とても聞き取りにくい声だ。何だか彼の絵を見るとどう言う人物なのか知りたくなる。絵と本人を見てもつかみどころが見えない。まさに謎が歩いてるような感じだ。この気持ちは何だろうか。彼がとても気になって来る。経験したこともないこの気持ちはいったい何だろうか。自分の中で葛藤している。この私が気持ちの整理が出来ない瞬間が出て来るなんて思いもしなかった。

「何だかとても引き込まれるような絵だわ。これはいったい何を描いてるのかしら?」

「こちらは屋敷窓から外を見つめる女性と自由に空を飛び交う鳥たちです。」

彼は聞き取りにくい声で私に話した。まるで私を描いたような絵だ。あの男性は鳥側なのかそれとも女性側の存在なのだろうか。

「もしかしてこの女性はあなた自身を投影したものなんじゃないかしら?違う?」

「確かに僕にもそう言う一面があるのかもしれません。」

また私は絵と彼を見つめる。どっちも謎が多い。見れば見るほど知りたくなる。夫には今まで抱いたこともない感情が私の中で支配する。ずっと絵を見ても彼は全く声をかけることはない。美しき銅像のように。大きく動くことはない。表情もずっと変わらない。読み取ることが難しい人物だ。

「気に入った。この絵を買うわ。」

「本当ですか?ありがとうございます。」

彼はかなり驚いた雰囲気だった。

「私はつまらない嘘をつくような人間じゃないのよ。だからこの絵をちょうだい。」

私はお金を支払った。

「名刺もあるのかしら?」

「持ってないですが、今から作ります。」

彼は急いで名刺を作った。そこに大きく彼の名前が書いてあった。彼の名前はベルナール・ノディエだ。それが終わると、絵の裏まで確認してじっくりと見た。

「本当にこの絵買うんですか?」

下を向きながら彼は言った。

「何言ってるの。何と言おうと私はこの絵を買うのよ。」

彼はさらに絵を梱包した。私はその絵を車の後部座席に移動させて置いた。

「買ってくれてありがとうございます。」

「私の部屋にもう一つ絵を飾りたかったからちょうどこのギャラリーに来たの。このスペースにはあなたが描くような絵がふさわしいと思ったのよ。言い忘れていたわ。私の名前はオディールよ。宜しくね。」

私はその後車を運転して帰った。

「買ってくれる人がいて良かったな。それもお前が作った一番高い絵だぞ。あの目線はお前に興味がありそうだな。」

「彼女は結婚指輪をしてた。」

「それなら旦那じゃ足りない肉体を求めてたんじゃないか?」

「馬鹿なことを言うな。はじめて見たが彼女はそんなふうに俺のことを見ていない。」

「何でそんな悲観的に考えるんだ?積極的に動けよ。恋より今は絵を描いてる方がずっと良いんだ。」

「お前のその意見は納得行かないな。恋や肉体的な関係を経験して描ける絵だってある。」

「あの女性はどう見ても上流階級の女だ。可哀想だって眼差しで見て絵を買ったに違いないぞ。」

「そんなに暗く物事を考えるな。どうして君はそんなふうに物事を考えるんだ?」

「俺はブルジョワ連中が俺は嫌いだから。」

ベルナールの画家仲間のアドリアンは言った。

「何でも金で解決しようとする連中だ。汚いことをしようと金や権力でものを解決するようなやつらだ。」

「アドリアン、世の中お金で手に入れることの出来ないものだってある。ブルジョワの人達はチャンスが多いだけで全てが幸せになれるわけじゃない。ルイ16世やマリー・アントワネットだって民衆に恨まれて無惨な姿で死んだ。権力を振りかざしたり、権力があるものにひっつくのはそう言う代償だってある。」

「フランス革命の時代を例に出すなんて極端だな。ベルナール。確かにお金で手に入れることの出来ないものに気がつけない可哀想な連中でもあるかもな。例えば愛だな。お金持ちや権力のある男に寄ってくる女なんて男の心じゃなくて、金が目当てだからな。」

アドリアンはかなり卑屈な性格で過去に金持ちに何かされたことがある。しかしただの卑屈な性格ではなく、彼はよくデモ行進とかの先頭に立つことがある。政府などが決めた理不尽なことにはすぐ抵抗する。

「この後展示が終わったら、ビストロでご飯を食べよう。その後バーでも行くか?」

「そうだな。それも良いな。ぜひそうさせてもらう。」

「そろそろお前には出会いが必要だろうな。」

「出会い?あんまり深く考えたことないな。出来た時はその時考えれば良いと思ってる。」

ギャラリーにいた画家達は自分達の作品を撤収した。ベルナールとアドリアンは一緒にビストロの方に行った。

「ポレット着いたわ。」

車を止めて買った絵画を取り出した。

「ポレット、ギャラリーで良い絵に出会えたのよ。一緒に運んでくれるかしら?1人では重くて運べないわ。」

「奥様、かしこまりました。」

「エリーズ、あなたはこの食材をキッチンまで運んで。」

エリーズは奪うように受け取った。

「かしこまりました。」

「マリア、寝室の扉を全開にしてくれるかしら?それが終わったら私達と絵画を運ぶのを手伝って。」

私はポレットと絵画の運搬をした。そして階段に登る。

「奥様、大丈夫ですか?」

「平気よ。私はあなたが思ってるほどやわな女ではないわ。」

マリアが駆けつけた。

「私も運ぶの手伝います。」

「それならここを持ってくれる?」

「かしこまりました。」

エリーズは食材を片付けていた。片付け終わると一人で何かを食べていた。

「よし、寝室の奥に飾るわよ。」

空いてる場所に絵をかけた。絵をかけると部屋の雰囲気はだいぶ変わった。

「ポレットの言う通り絵をここに飾って正解ね。あなたのおかげね。」

「私はあくまで提案しただけです。それを行動に移されるたのは奥様ですよ。」

マリアも寝室の中に入った。

「奥様が普段選ばない絵を選びましたね。」

「何だかこの作品がものすごい気になったのよ。この作品に続きがあるんじゃないかって考えたり、読み取れないところが余計に気になるのよ。」

「作者の方は実際にいたんですか?」

「もちろんいたわ。何考えてるかよく分からない男よ。」

「奥様に注目されるってうらやましいことですね。」

「何か言ったかしら?」

「何でもありません。」

「常に注目してなくても、ポレットはこの屋敷で一番と言って良いメイドよ。お金のためとはいえ、トランティニャン家に忠誠心を見せるところは信頼されて当然ね。」

「私はメイドとしての役目を果たしてるだけです。」 

私もポレットと同じだ。金のためにステファンの妻という役目をしっかり果たしている。この屋敷を守っているし、旦那の見えないところでエリーズに嫌がらせをしてる。良い妻として演技をしてる。

「奥様、食事の準備が出来ました。」

エリーズに呼ばれて、一家全員夕食をとることになった。もちろん義両親も一緒だ。

「そう言えば、今度養子縁組の面接をするのよね?」

「そうだよ。」

「通れば良いわね。ずっと孫の顔を見れなかったから楽しみだわ。しょうがないわね。オディールが産む能力がないから、養子縁組にしか期待するしかないわね。」

「そうだな。やっとトランティニャン家にも念願の孫か楽しみだな。」

実は義母も子宝には恵まれずステファンしか迎えることが出来なかった。そのため自分の出来なかったことを全て私に押しつけようとした。子供が1人なら、孫は2人以上持ってもらいたいと言う考えだ。過剰な期待があったが養子を引き取る話になったら私に期待すらしなくなったし、興味を向けることもなくなった。どんなかたちであれ孫の姿を見て、トランティニャン家の名声と名誉を死んだ後も残し続けたいんだろう。どうせ全員骨になって誰か分からなくなるのに。

「食後のデザートです。」

全員にデザートが置かれたが私のぶんだけデザートはなかった。

「エリーズ、私の分のデザートはどうしたのかしら?ギャラリーのついでに人数分買ったのよ。」

「知りません。最初から3個だったんですよ。」

これはどう考えてもエリーズが一つ食べて私の分だけ食べさせない嫌がらせに違いない。前にも同じことで揉めたが旦那がエリーズの方をフォローした為、私は立場がなくなった。

「何だか知らないけど状況は分かったわ。だけど残念ね。あなたが期待してるみたいに私はデザートで騒いだりしないのよ。もっと動揺する姿が見たかったのかしら?」

「オディール、やめろ。エリーズが3個しかなかったって言ってるんだからエリーズを責めるな。」

「責めたりしてないわ。今の私の心情を伝えただけなのよ。」

「半分ずつ俺と一緒に食べよう。」

「分かった。」

ステファンとデザートを一緒に食べる。その姿を見て、エリーズはかなり不満そうだった。そんな食事も終わり、旦那より先に寝室に行った。ギャラリーで購入した絵を数分間見つめる。すると自然と私の口が動く。

「ベルナール、ベルナール、ベルナール。」

あの男の名前を気がついたら連呼していた。そして頭の中は絵のことでいっぱいになり気がついたらベッドに倒れていた。旦那に運ばれて暗闇の中旦那と寝ることになった。

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