落とし物
「ない。見つからない。」
「お父様、どうされました?」
私の義父が慌てている。
「大事な時計を落としたんだ。」
「本当に家の中で落とされたんですか?」
私はアランに聞いた。
「そうだ。間違いない。この私がボケ老人だと思うか?」
「そんなことないですわ。と言うことは私に数々言ってたことは本心だったんですね?」
「息子がどうしても好きだからお前をこの家にいさせてやってる。お前のことは嫌いだが、息子は自分の意見を曲げないからな。あれだけ忠告したのに。女のくせに世の中産む能力もない女がいるってな。今の時代は平和だ。産めない女でも生きてけるからな。どうせなら修道女になれば良かっただろうな。」
ステファンは義父アランの背中を見て決めたことを簡単に曲げないふうになったんだろう。アランのことは嫌いだけど私には彼に言い返す権限はない。もちろん義母のニコルにも。ニコルもニコルで子宝に恵まれなかったことをアランに責められていた。だから養子の子供を迎えて人満足したようだった。
「マリア、何やってるの!早くポレットとエリーズを呼んで腕時計を探しなさい。」
「かしこまりました。」
「おじいちゃん、どうしたの?」
サロメがアランに近づく。
「サロメ、おじいちゃんはとても大事な時計をなくしたんだ。一緒に探してくれないか?」
「分かった。」
「マリア、念の為スノーが飲み込んでないか獣医に調べてもらっても良いかしら?」
「かしこまりました。」
マリア電話で獣医を呼んだ。
「ポレット見つけた?」
「まだです。」
「エリーズは?もしかしてあなたが盗んでないでしょうね?」
「私のことを疑う気?私はそんなことしない。そうやって偉そうに私達メイド3人に指示出す奥様が一番怪しいんじゃないの?」
「何ですって?」
「エリーズと同じ意見だ。オディールは私と話してる時に常に不満そうな顔だ。その後もメイドに対して頼み方が酷い。君が犯人なんじゃないのか?」
「この件は私もオディールが怪しいわ。」
義母ニコルも同じ意見だった。
「証拠はあるのかしら?証拠がなきゃ何も出来ないわね。とにかく見つけたらすぐに報告することよ。」
「ママは盗みとかしないよね?」
サロメが私に聞いた。
「大丈夫よ。私がそんなことしたら神様から天罰を食らうわ。」
「奥様、まだ調べていない部屋がありました。」
「調べてない部屋ってどこよ!」
「セリーヌの部屋よ。」
全員でセリーヌの部屋に向かってく。
「セリーヌ、セリーヌ、開けてちょうだい。」
セリーヌは大人への不信感から引きこもることが多い。
「セリーヌも怪しくないかしら?」
ニコルの一言で皆が固まる。
「母親が父親が殺した話なんて嘘で、きっと盗んだに違いないよ。」
「おい、ニコル。映画の見過ぎだ。これは現実だ。そんな8歳の子が高級時計で何をするって言うだよ。」
アランがニコルに言った。
「セリーヌ、出て来なさい。」
ニコルがドアを強く叩く。部屋の中でセリーヌは怯える。
「セリーヌ、いい加減出て来たらどうなの?」
ニコルの暴走が止まらない。
「エリーズ、お義母さんを抑えて!」
「嫌です。これは2人の関係なので私達が関与することではありません。」
「マリアも怖がってないで抑えて。」
2人とも私の指示には従わない。
「私が行きます。」
ポレットがニコルを止めようとした。
「離しなさいよ。あんた達のことは分かるけど、あの小娘は何だか信用できないのよ。」
「サロメにもそんなことするんですか?」
「あの子は無邪気な子よ。5歳の子盗むわけない。だけどセリーヌは信用出来ない!」
ニコルは心の奥底でサロメを可愛がっていて、セリーヌには良くないイメージを持っていた。
「パパ、何が起きてるの?」
「サロメ、起きてたのか。子供は寝る時間だ。あれは大人の事情だ。」
「何であんなに皆怒ってるの?」
サロメは心配そうな感じだった。
「サロメ、パパがいるから部屋に戻ろう。」
彼女は怖がってる感じではなく、ただ何が起きてるのか気になっていた。
「寝れないか?」
「だって皆うるさいんだもん。」
「すまない。パパが絵本を読んであげる。」
ステファンは優しくサロメを抱きしめた。
「離しなさい。」
「マリア、エリーズ、何やってるの!お義母さんを抑えて。」
「かしこまりました。」
エリーズは渋々と指示に従った。アラン、ポレット、エリーズ、マリアの4人がかりでニコルのことを抑えた。
「離せ!アランが大事してた時計、セリーヌが盗んだのよ!」
ニコルは怒り狂ってる感じだった。
「セリーヌ、ママよ。」
私はセリーヌのドアをノックした。
「セリーヌ、大丈夫?おばあちゃんは入れさせないから開けてくれるかしら?」
セリーヌは無言で扉を開けた。そして私は部屋に入り鍵を閉めた。セリーヌは無言で涙を流していた。彼女の涙は床にも落ちる。
「このハンカチを使って。」
彼女はずっと泣いていた。
「大丈夫よ。ママがいるから。」
セリーヌを優しく抱きしめた。
「大丈夫よ。セリーヌが悪いことをする子じゃないのは分かってる。」
セリーヌの涙は止まらない。恐怖心以外の感情も混ざってるのかもしれない。
「今信じられないのは分かる。だけどどんなに信じてもらえなくても嫌われても私はあなたの味方よ。必ず守るわ。」
気がついたらセリーヌは眠ってしまった。
「お休み。」
私は寝室に行った。そして既にステファンがいた。
「サロメはもう寝たかしら?」
「俺が寝かしつけた。」
旦那と一緒にベッドに入る。
「あなたのお母さんは本当に疑い深いわね。ちゃんとした養子縁組事務所で養子を見つけたのよ。リストには行儀の悪い子なんて1人もいなかったのよ。それなのにお義母さんと来たらいつものようにヒステリックになって。例えば私なんかお義母さんに部屋のドアを開けっ放しにするなとあらぬ疑いをかけられたり、宝石落とした時だって結局お義母さんの不注意なのに私のことをずっと疑ってうんざりね。他にもあげたらきりがないわね。」
「オディール、母さんのことを悪く言うのはやめてくれ。」
「悪く言ってはないわ。全て本当のことだから。」
「母さんはトランティニャン家を誰よりも守りたいから疑心暗鬼になることがあるんだ。」
「これからセリーヌがスパイになってドイツ軍か何かでも家に襲撃に来るわけ?ヨーロッパに住んでれば警戒心はあるけど身内の私とか養子相手にそんなボコボコにしようとか危ない薬品か何かでも飲んで狂ったのかしら?」
私はニヤリと笑った。
「そうじゃなくて、俺は小さい頃から親父や母さんの姿を見てるから分かるんだ。」
ステファンは知らない。義母ニコルを理想の「お母さん」として崇めているのを。私の旦那も結局両親の都合の悪い部分には目を背けて無かったことにする。私はそんな現実にただ抵抗してるだけだ。
「トランティニャン家がどうこうじゃなくて本当は金品がどうかじゃない?お義父さんが死んでも内心どうでも良かったりして。ハハハ、面白いわ。」
ステファンにビンタされた。
「良いかんげんにしてくれ!タブーと言うのを知らないのか?今まで君は良い人だと思ってた。だけど今の君はあまりにも酷すぎる。母さんは内心君のことを悪く思ってない。君との接し方をよく分からないだけなんだよ。母さんは君に向き合おうとしてる。君ももっと母さんと向き合わないと。君には寛大な心が足りないんだよ。君には女神になって欲しい。」
とんだマザコン旦那だ。
「もし今後お義母さんのことを悪く言ったらどうするつもり?離婚する?」
「離婚だけは出来ない。本当に君を愛してるんだ。」
妻がいると言う肩書きが欲しいんだろう。私の旦那家柄気にする表面的なのは常にお見通し。
「それならどうするの?」
「次悪く言えばドレスやアクセサリーとか何も買わない。何も貢ぐつもりない。ドレスとかが欲しければ俺に従うこと。」
「分かったわ。今後はそうするつもりはないわ。」
旦那は私にキスをした。されるがままに夜の営みは終わった。
数日後いつものように家族揃って朝ご飯を食べる。
「奥様、こちらがスープで御座います。」
エリーズがスープを出す。いつもとやけに嫌がらせが無いからきっと何かあるに違いない。かなり丁寧な対応だ。
「エリーズ、悪いけど虫が入ってる可能性があるけどこれは大丈夫なのかしら?」
「はい、大丈夫ですよ。」
「大丈夫ならこのスープ皆の前で飲めるかしら?」
視線が全員エリーズのほうに向く。エリーズは固まっていた。
「何で飲めないのかしら?こんなに虫も入ってなくて美味しそうなスープなのに。」
エリーズは焦ってスープを捨てた。
「エリーズどうしたんだ?」
こんな状況でもステファンや義両親はエリーズの心配をする。
「ママ、何でそんなことさせたの?」
サロメが聞いた。
「私このスープはじめて食べるからエリーズに味見してもらいたかったの。」
セリーヌはずっと無言で朝食を食べていた。
「セリーヌ、何私のことを睨んでいるのかしら?そんなに私のことが嫌い?」
セリーヌは無言だった。どこか震えているような感じだった。
「何か一言言ったらどうなの?」
ニコルは無言ばかりのセリーヌをよく思っていなかった。彼女は悲しそうな顔で自分の部屋に入った。私は後からついてくる。
「セリーヌ、数日間おばあちゃんに酷いこと言われて辛いよね?」
「うん。おばあちゃんが怖い。あの時みたいにいつ殴り込みに来るのか分からない。」
「良い?セリーヌ。証拠もないのに人を疑う人間はいくらでもいるのよ。悲しい現実よ。それが事実かどうかなんてどうでも良い、ただ自分が可哀想な人間って同情を集めたいだけなのよ。」
「学校行くのも怖い。」
「大丈夫。学校でいじめられたら私がついてるから。言ったでしょ。私はあなたの味方だって。」
「お母さん。」
マリアは泣きながら抱きついた。
「もう泣かないの。せっかくの可愛い顔が台無しよ。」
セリーヌは私立の小学校に、サロメはレベルの高いエコール・マテルネルに通うことになった。そして今後習い事をさせることも考えている。
「ステファン、習い事は何をさせる気?」
「まずは乗馬だ。俺が持ってる乗馬場に2人を連れてってやる。」
「乗馬なんてやったことないわ。」
「サロメはスポーツの習い事が好きそうだな。」
「それならヴァカンスでスキーをするのが良いわ。」
パーティーの日は近くなった。




