プロローグ
俺はあるアパルトマンの一室で暮らしていた。外を見ると小鳥が毎日止まっている。部屋には大きな絵画がある。友人からもらったものだ。
「グレゴワール!」
「何だ?」
隣の老夫婦が頻繁にケーキを分けに来る。そんなに悪くない味だ。いつものようにエッセイを書く。エッセイを書いて生計を立てている。本もいくつか出している。俺は毎日が平凡な男だ。
ペットボトルの水だけを持って大通りに出る。
「俺は虎になった。」
思いついたことをペラペラ言うと周りに人が集まって来た。大したことを言ってるつもりはないのに周りは興味津々だ。そしてポエムを書き続ける。
「謎の何かに追いかけられて、遠くに、遠くに行く。」
口が止まらない。人々の注目も止まらない。
「そして見知らぬ土地に行く。そして虎からひょうにいつの間にか変わった。」
そのことを言いながら、いくつかポエムを書き出した。
「あんたいつもそんなことしてるのか?」
1人の初老の男性が俺に声をかけた。
「いえ、今回がはじめてのことです。いつもは仕事で家でエッセイを書いています。」
「やってて楽しいのか?」
「楽しくない仕事なんてやりません。」
「当たり前のことだな。今のは誰に語りかけてたんだ?恋人か?」
「恋人はいません。誰にも語りかけてはいません。強いて言うなら架空の人物と言う所でしょう。姿すら現すことも出来ない。文字で現すことも出来ない架空の人物でしょう。」
小鳥が数羽目の前を通る。
「私の妻は数年前に死んだんだ?」
「何がそうしたんですか?」
「多分俺がそうしたんだ。」
興味も無かったのでそれ以上は聞かなかった。
「この後、予定があるので帰ります。」
「君は何て言うんだ?」
「グレゴワールです。」
「良い名前だな。」
俺は男性に一言言って、アパルトマンに向かった。アパルトマンの方向に風が吹く。
「何だこれ?」
アパルトマンに着くと、自分の部屋の前に謎の日記と録音テープが残されていた。それを手にとって、確認した。