序
計器が甲高い音を響かせる。視界がフワフワと白く光り、脳のはたらきが弱くなっていくのを感じる。私は死ぬのだ。
…短い人生であった。小学校卒業 中学校卒業 高校卒業 大学卒業 就職。バネを売ってたら肺がん発症、ゲームをしてたら容態急変、6月、享年38歳。
…あんまりだぁ………
「こんばんは。今夜は星が綺麗ですね。」
ファミレスの一角、目の前にはフォーマルな服装の男。…ここが浄土なのだろうか?窓には冬の壮観な星空がギラギラと輝いている。
「わかってると思いますが、あなたは死にました。お悔やみ申し上げます。」
「はぁ……」
苦しくもなんとも無い。マジで死んだんだろう。きっと走馬灯かなんか、最後の夢みたいなもんだ。
「自己紹介が遅れましたね、私は『神』です。あなたに今後の説明をしに降臨しました。」
変な夢だ。
「夢じゃないですよ。まぁ適当に聞き流してもらって大丈夫です。私が正しいので。…長くなるので、気持ちの整理も含めて飲み物でも注いできてください。ドリンクバーは奥です。」
促されるまま席を立つ。なんかそれ以外の事はできないっていうか、勝手に動くっていうか、本当に夢みたいな感じだ。
あのゲームの発売までは生きたかったなぁ……サッカー世界大会の決勝見たかったなぁ… 病気になってから時間があったし、気持ちの整理はある程度ついていたが、後悔は注いでいるコーラの様にいくらでも湧いてでてくる。
「おかえりなさい。後悔はあると思いますが、今から今後の説明に入ります。なんとなく聞いといてください。」
コーラを啜る。舌に刺さる炭酸と甘味は夢とは思えないほどに鮮明だ。
「前提として、あなたはこれまで膨大な回数の転生を繰り返してきました。時に偉大な統治者に、時に小汚い犬畜生に、時に世界を脅かしたウイルスの一株に。とにかくあなたが生きてきた全世界、全宇宙のあらゆる物にあなたは成りました。記憶は無いでしょうけど。」なんか適当な喋り方だ。
「じゃあまた何故今回僕の前に?」私は問うた。
「そうなんです。実はなんですけど、貴方はこれまでに膨大な回数の転生を繰り返し、全宇宙の生命に転生し尽くし、残すはあと18回になりました。」
「……全ての生命に?」
「はい。マジで全てです。驚きでしょ?めちゃくちゃな時間生きてるんですよ、あなた。未来を生きる青年だって全部あなた。神の前では時間なんてそんなもんです。戻ったり戻らなかったり。」
「その転生が残り18回だと…」
「はい。残り18回であなたはその宇宙で全ての人生を経験した事になります。」
なんの為に…?何故それを開示したのか…? 思考は後悔から疑問にすり替わっていた。
「はい。もう少しで説明終わりです。実はあなたはこれから18回の人生を歩んだ後、神になります。私も同じように神になりました。これはあなたがより良い神になる様に様々な経験をする『チュートリアル』にあたる訳です。神になったら色々業務とかあるんですけど、良い神というのは聡明で経験豊富な物で…… だからこれまでに失った全ての記憶はあとで全て戻ってきます。この一瞬は結構キツいですよ〜」
……
「とにかく、これからあなたはドラマチックな人生を18回体験します。ハッピーエンドもバッドエンドもあると思いますが、まぁ頑張ってください。」
「この『38歳男性』がベースでいいんですか?」 こんな状況なのに、変に頭が冴えて疑問が次々に湧いてくる。「大丈夫、その記憶は一旦消しますよ。貴方は『残り18回のドラマチックな人生を歩む』事だけ覚えて転生します。チート能力とかは付与してやれませんが、頑張ってくださいね〜」
神は会計を済ませて行ってしまった。
おそらくこのファミレスを出たらまた人生が始まるのだろう。なんかそう頭に刷り込まれたような感じで、妙な確信がある。
私は神になるらしい。変な走馬灯かもしれないが、それはこの戸を開けばわかる事だ。気持ちも落ち着いている。
ガチャリ