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レッドサロンの戦い

 レッドサロンは何事もなかったように営業を再開していた。

 事件自体が公になっておらず、現場もこの宿ではないので当然といえば当然だろう。

 数日前に千影を連れてこの宿に来たところ、宿の主人がクラゲを引き入れたことがわかった。


 レッドサロンは老舗だったが経営が行き詰まっており、断腸の思いでスカーレット商会に所属したのだが、経営方針は何も変わらず資金繰りが悪化、ギルド、商会への借金が膨らんでいた。

 そこに貴族の使いを名乗る男からの接触があり、暗殺者を招き入れる代わりに借金を肩代わりしてもらう契約を交わしている。

 しかし、前金としてもらった金も溜め込んで夜逃げを画策しているようで、まだ借金は全く返していない。

 礼儀作法や社交は完璧に近くても長い借金生活だったせいか、主人は金にしか興味がなくその考えは完全に詐欺師のものだった。


 『スカーレット商会は借金を一部しか把握していなかったようですね。スキップたちを騙したくらいには詐欺師として優秀な男のようです。』


 「そうか、たっぷりお礼をしないといけないな。」


 『お礼ですか?』


 「そういう言い回しがある。手土産は苦痛だ。」


 『なるほど、与えるからお礼なのですね。フェリスへのお礼も忍様からお与えする予定でしたか?』


 「そっちは普通のお礼!」


 隣はレッドサロンの四人部屋、フェリス、アグラート、山吹が泊まっている。

 忍はフェリスに気を使って一人部屋ということになっていたが、素早く動くための措置だ。

 鬼謀と千影がその側についていた。


 お礼の言い回しについての説明がうまくいかず比喩表現には気をつけないといけないことを学んだ忍は膝の上の鬼謀をなでて精神を落ち着けた。

 千影の話では宿の主人もグルだということになる、報いは受けてもらおう。


 『旦那様はクラゲに集中してよ。そっちは僕がいくからさ。』


 「……盗賊ギルドのように関係ない宿の人を巻き込むのなら任せられない。」


 やる気があるのはいいことだが、盗賊ギルドの一件はやりすぎだった。

 盗賊といえど無駄に死者を増やすことは忍の精神に悪い。


 『でも、盗賊って人の中でも厄介者なんでしょ?いなくなったほうがよくない?』


 「七割方はそれでいいんだろうけどなー。」


 トレジャーハンター的なやつや鼠小僧的なやつがいるかもしれない。


 『ま、こっそりって条件がないなら大丈夫だよ。あれも手っ取り早く全員気絶させようとしたからなんだ。』


 「私としては軽い話じゃないんだけどな。」


 『……ごめんなさい。』


 素直に謝った鬼謀の頭を撫でる。


 『忍様、千影を烏にしていただきたいです。』


 「ああ、早い時間だが周辺の見張りとかもあるものな。」


 影分身の烏を三十ほど生み出すと窓から少しづつ飛び去っていくが、一匹だけは肩にずっと止まったままだ。

 忍が遅れてなにかに気づき鬼謀をちょっと脇にずらして反対側の膝をぽんぽんと叩くと烏がそちらに移動してくる。

 なでてやると忍の手にすり寄ってくる、鬼謀が羨ましかったらしい。

 両手で各々をなでていると鬼謀がするりと抜け出した。


 『僕より千影さんをかまってあげなよ。精霊は気難しいから機嫌とっとかないと。』


 『鬼謀、それではまるで千影が忍様に気を使わせているようではないですか。』


 「チッ。」


 「喧嘩するな。」


 二人の間に火花が散りはじめたようなので、撫でるのを中断し対クラゲの流れを確認することにする。


 忍は二つの小さな壺を取り出した、しゃべり壺という魔導具らしい。

 壺の蓋には紐が結んであり、鈴を通して本体に結びつけてある。

 壺の中にはなんだかお経のような模様のようなものが書きつけてあったが、神々の耳飾りの翻訳機能では読めなかった。文字ではないらしい。


 アグラートが作ったもので、手に持った壺の蓋に魔力を流すと相手の壺の鈴が鳴る。

 壺を開けて話しかければその場で会話が出来る、というものらしい。

 声を届けられる範囲は使用者によって違うがおそらく五十から二百メートルほどであり、決まった壺にしか声が届かないトランシーバーのようなものだった。

 陶器なのでかけたりすると使えなくなるらしい。

 二つあるのは片方がアグラートに繋がり、片方が鬼謀につながるようにである。


 千影かアグラートがクラゲを見つけ次第、しゃべり壺の鈴を鳴らす。

 その時点で忍と千影はアグラートの追跡、鬼謀は店主のもとへ向かう。

 山吹は店主を殺した鬼謀の回収が役目だ、騒ぎが起こったあとにフェリスとアグラートを残して別行動するようになっている。


 さて、丁寧な口調でメチャクチャなことを言い出している千影と全てを舌打ちで返す鬼謀のやり取りを止めなければ。


 『忍様は精霊であれ畜生であれ平等に寵愛を与えてくださるというのに何が不満なのですか。』


 「チッ。」


 「千影、畜生いうな。鬼謀も舌打ちで煽るな。撫でないぞ。」


 『ごめんなさい。』

 『申し訳ございません。』


 撫でないが効いたらしい。

 二人を撫でられないのは忍も辛いのでこれでおさまってくれるなら嬉しい。

 忍のストレスがみんなにまで伝播している気がする。


 「俺、この騒動が終わったら思う存分みんなと楽しむんだ。」


 『え?!本気?!』


 『お付き合いします、忍様。』


 腹いっぱい食べてニカのマッサージを受けて長風呂してみんなを撫で倒していちゃついてやるのだ。

 忍は華麗に死亡フラグを立てつつふと湧き上がった疑問を呟いた。


 「しかし、これでどうやってアグラートは死を偽装する気なんだ?」


 『誰も手伝わないなら一人でなにかやるんだろうけど、ちょっとよくわかんないね。』


 『千影はすべて知っておりますが、どうしてこの計画で成立するのかはよくわかりません。』


 「ああ、なるほど?」


 千影がよくわからないということは人の心理や感情が織り込まれた計画なのだろう。

 ずっと一緒に行動してきてわかってきたのだが、千影は悪意や敵意のようなマイナス感情以外にはかなり疎い。

 すべてを知っていてもよくわからないというのはそういうことだ。

 いくつかの流れが忍にも思いついているが、それらのうちのどれかなのか。

 もしくは全く違う流れなのだろうか。


 『旦那様、ところでその手袋、なんで右手だけ?』


 「いいところに気がついたな鬼謀。これは秘密兵器だ。」


 『へー。』

 『素晴らしいです、忍様。』


 聞いておいてあっさり流した鬼謀に何なのか知らないのに称賛する千影、他人にやられればカチンと来そうな態度でもこの二人だと許せてしまうのは身内だからだろうか。

 いや、許せると考えてるだけでちょっとムカッときてるな。

 実際に手袋を使うことになったらどっちの反応が正しいかわかることだろう。

 



 夕暮れ時、人々は足早に家へと帰る。

 日が落ちればドカドカ雪の時間がはじまるからだ、ドカドカ雪は雪が特大のため吹雪のように極端に視界を遮られるということはない。

 雪の積もる速度は恐ろしく早いので朝方に火の魔法使いが来るまでは一階の扉が開かないなんてこともある。

 つまり、夜中はものすごく寒い、日が落ちると急激に冷えてくるのだ。


 『忍様、カーラを見つけました。雑踏に紛れて宿に近づいてきます。』


 「了解。」


 壺の蓋を取ってアグラートに合図を送る。

 しばらくしてチリンチリンと二度鈴がなった、きちんと伝わった合図だ。


 『今日の宿泊客は僕ら以外には二組、食堂はほとんど人がいないね。アグラートは衣装部屋に移動してる、フェリスも一緒だよ。』


 「宿中見えるのか。」


 『この程度の壁ならいくらでも。』


 レッドサロンは二階建てで一階に衣装部屋や食堂、風呂、応接室などがあり、二階が宿泊部屋となっている。

 かなり広い宿で宿泊部屋も十部屋以上あるし、身分や気位の高い客の宿泊に対応できる施設なのだ。

 鬼謀の透視と耳の良さには驚かされる。


 『旦那様、ちょっと嫌な感じなんだけどさ。宿泊客の中に変なのがいるんだけど。』


 「変なの?」


 『四人組の商人の鞄の中から金属音がするんだ。かすかだけどひとつふたつじゃない。でも、店主には保存食の乾物を持ってきてるって話してたんだよね。』


 「警戒すべきだな。隠してるのは気になるが、犯罪者にしろ冒険者にしろ逃げ優先で打って出ては来ないんじゃないか。」


 密輸なんかなら商品が駄目になるのを嫌うし、何かの事情で身分を隠しているとしても、正体がバレるリスクを負ってまで戦闘には参加してこないはず。

 

 『もう片方の宿泊客は宿を見て回ってるみたい。風呂が珍しくてはしゃいでるね。』


 『忍様、カーラが裏口から入ってきました。』


 『あ、従業員の服を渡されて着替えてるね。うわ。』


 「どうした?」


 『カーラ、男だ。』


 「ええええ?!」


 女装を完ぺきにできるのは訓練の賜物のはずだ。

 声色やら仕草やら気にするべき部分は無数にある。

 その努力は称賛に値するものだろう。


 『え、旦那様まさかあんなのがタイプだったの?』


 「違う。」


 難しい顔をしていた忍に鬼謀が予想外の角度から切り込んできた。

 そんな勘違いされる顔をしていたのだろうか。


 『なんか、こんな顔してた。』


 眉根を寄せているところだけはわかったが、いつもの鬼謀が呆れている時の表情とそんなに変わったようには見えない。

 ウサギの表情筋では表現しきれないようだ。


 「そのままやるな、わからん。」


 『あ、衣装部屋に行くみたい。』


 「千影、いけるか?」


 『仰せのままに。』


 忍は千影に声をかけ衣装部屋を目指した。

 外につながる窓は鎧戸が閉まっており、衣装部屋の出入り口は内側にある一つだけになっていた。

 鬼謀からの連絡はないのでクラゲはこの部屋から動いていない。

 忍は赫狼牙を抜いて寒い部屋の中に滑り込んだ。


 衣装部屋にはさまざまな礼服やドレスが吊り下げられており、量販店の服の売り場のような広さがあった。

 この場で選びながら着られるように作られており、忍が入った時点で部屋は死角だらけの迷路のようであった。

 レッドサロンが開業した頃には貴族が他国の魔術師を招くことも多く、スーパーノヴァの宿には広い衣装部屋を持つ宿が少なくなかった。

 鬼ごっこでもできそうなこの衣装部屋はそんな時代の名残であった。


 作戦その一。

 部屋の明かりがついていないため、千影に初手を任せる。

 烏はハンガーラックの上を器用にぴょんぴょんと飛び移り、出入口を見張れる位置に陣取った。

 忍は扉の前に陣取り後ろ手に鍵を閉める、強行突破を止める係だ。


 バチンッ!


 なにかに弾かれたような音が部屋の中から聞こえてきた。


 『忍様、精神攻撃が弾かれました。』


 『作戦その二に移る!』


 作戦その二、部屋中を【ウォーターガッシュ】で水浸しにする。

 忍は音で当たりをつけてクラゲ相手に派手に水を噴射した。

 これで壁をぶち抜いて外に出ても凍死することになるだろう。

 部屋の中はどんどん水浸しになっていくが、クラゲの姿は見えない。

 そのうち迷路のようなドレスの密林の中からふわりふわりとマントが浮かび上がってきた。

 そのマントは薄く光っており、まるで本物のクラゲのように部屋の中をふよふよと漂っている。

 水流を当てると壁際まで吹き飛ばされるが当てるのをやめるとまた浮かび上がるのだ。

 魔術のようだが無軌道にただ浮かんでいるようにしか見えない。


 『忍様!』


 いつの間にか左手がなにかに引っ張られていた、同じように左足を取られて転ばされる。

 赫狼牙を取り落としたが左手に力を込めて無理やり引っ張るととパーカーの袖がかぎ裂きになった。

 左足がまた引っ張られたときに、正体がわかった。釣り針だ。

 釣り針のようなもので服を引っ掛けられているのだ。


 『千影、壺に戻れ。』


 忍は飛熊で釣り針についた糸のようなものを切ったが感触がおかしい、おそらくはワイヤーのようなものなのだろう。

 反撃しようにも影がドレスの隙間を縫って動き回っているのはわかるが、浮かび上がったマントと大量のハンガーラックに視界を遮られて直接クラゲを狙うことができない。

 忍は右手袋に魔力を込めながら左手の飛熊の先から放水を続ける。

 もはや部屋の中は大きな水たまりのようになっていた。

 数を数える、三・二・一。

 

 「ぶっつけ本番!」


 忍は頃合いを見て近くにあった椅子を足場に大きく飛んだ。

 空中で右手を真下に向けると、その右手から雷がほとばしった。

 

 「ぎゃがががあががががぁっがあああっっっぁ………」


 「あ、やばいとまがあっぁぁぁ……!!」


 滞空時間中に雷の放出が終わらず、べシャっと地面に足をつくと忍も放電に巻き込まれた。


 【ウォーターリジェネレーション】【ウォーターリジェネレーション】【ウォーターリジェネレーション】【ウォーターリジェネレーション】【ウォーターリジェネレーション】!!!


 舌が回らないので心のなかで魔法を連呼する。

 意識が吹っ飛ぶ前に雷撃は止まり、短時間だったお陰で忍は多少しびれた程度で済んだ。

 クラゲは吊り下げられた礼服の影で気絶していた、一応死んではいなかった。

 忍は千影を呼び出して何が千影を拒絶しているかを確認したら、クラゲはドラゴンの細工のついた首飾りをつけていた。

 魔導具らしきそれを奪い、千影が拒否されなくなったのを確認し、飛熊を右足に突き立てる。


 「いっああああぁぁ?!」


 足を床に縫い付けられたところでクラゲは目を覚ましたようだ。

 舌が回らないようで喉から直接絞り出したような大きな叫び声が上がった。


 『千影、間違いないな。』


 『はい、スキップを殺したのはこの男です。』


 「よし、死ね。」


 忍はそのまま飛熊を抜いては刺し抜いては刺しを繰り返した。

 全身を執拗に何度も何度も繰り返し、クラゲの叫びが止まり動かなくなったことを確認して、最後に心臓と頭に一度づつ飛熊を突き立てた。

 部屋の端で血を拭って服を着替えた。

 興奮と狂気が全てを麻痺させたのか寒さは感じなかった。


 『忍様、お疲れさまでした。』


 「……死んだよな。」


 『はい、確実に。宿に火がついていますのでお急ぎください。』


 烏が赫狼牙をカラカラと転がして位置を教えてくれる。

 忍はそれを回収し、廊下から煙が部屋に入ってきていることに気がついた。

 爆発音とともに視界がぐらりと大きく揺れた。

 赫狼牙で衣装部屋の壁を壊し、忍と千影はレッドサロンをあとにした。




 宿屋の主人は全く問題なく処理できた。

 透視と望遠、このモノクルがあれば鬼謀は壁の向こうにさえ邪眼を発動させられる。

 忍がクラゲと交戦しはじめたところで鬼謀は第三の目を開き、宿屋の主人の息を止めた。

 殺したのではなく呼吸をできなくしたのだ、もがきながら宿屋の主人が動かなくなった頃、商人の集団に動きがあった。

 鞄から武器を取り出して屋敷の中に散った、どうやら誰かを探しているようだ。

 そのあたりでフェリスと山吹がアグラートとともに部屋から出てくる、そして二階の廊下で商人と鉢合わせすると商人は逃げ出した。

 明らかにフェリスのほうが手練れで早い、本来ならば程なく追いつけるはずだった。  

 フェリスは商人を追いかけて近くの客室に入るが、そこに商人の姿はない。


 一部始終を見ていた鬼謀は眉をしかめた。

 商人は客室の隠し扉を使って隣の部屋へ逃げたのだ。

 フェリスが客室を探っている間に商人の男は逃げおおせて仲間と合流した。

 問題はなんでこの宿にそんな仕掛けがあり、それを商人たちが知っているかだった。

 本来ならばもう山吹と合流して逃げ出していいところなのだが、鬼謀はしばらく様子を見ることにしたのだった。


 フェリスは商人が逃げた後に隠し扉を見つけたようだったが、それ以上は追わずにアグラートのもとに戻ってきた。


 「隠し扉があった、この宿やばいかも。」


 「そんな……ご主人様たち、は?」


 「あいつは手口が違う、もしかしたらクラゲには配下がいるのかもね。部屋に戻ったほうがいい。」


 フェリスの判断は正しかった、しかし正しい判断であればこそ、その道筋は確実に読まれている。

 フェリスとアグラートが部屋に入ると山吹が廊下側に残った。


 「ん、なんで?」


 「山吹、さんは、廊下の、ほうが、戦いやすい、みたい。」


 「なるほど。」


 山吹がサムズアップをしてフェリスとアグラートを室内に入れた。

 フェリスは部屋に仕掛けがないかを確認して、明かりを消して窓際に陣取った。

 アグラートは車輪付きの椅子に座って震えている。


 「……っ!」


 フェリスの耳が反応した、下の階で大きな悲鳴が上がったのだ。

 マクロムの建物は魔術師が岩やレンガで立てるため、意外と防音性が高い。

 悲鳴が上がったのはわかったが、誰が、どこでというところまではわからなかった。

 

 「下の階でなんか起こってるかも、おじさんたちじゃないといいんだけど。」


 フェリスがそうつぶやいて窓の外の警戒を強めている。

 廊下には山吹、窓際にフェリス、そんな厳戒態勢の客室の床が轟音とともに爆発した。


 運悪く部屋の真ん中にいたアグラートはそのまま一階まで落下する。

 フェリスは爆発の衝撃で窓際に頭を打ち付けたようで気を失ってしまっている。

 音に驚いて部屋に入ってきた山吹は床の大穴を飛び越してフェリスを担ぎ、階下の様子を見た。

 ばらばらになった椅子、後頭部と背中からどくどくと血を流しながら青い顔をしたアグラートが倒れていた。


 「に、げ、て。」


 アグラートは絞り出すような声でそういうと山吹はフェリスを担いで穴をもう一度飛び越し、廊下に出ていった。


 山吹を見送ったアグラートは床に倒れたまま口から血を吐いた。


 「やはり奴隷は使い捨てだったわね。」


 アグラートの落ちた部屋の隅からそんな声が聞こえた、アグラートと同じ艷やかな黒髪をもつメイド、マハラトがそこに立っていた。


 「……お母様…なぜこんな手を?」


 「ごめんなさい、山吹、忍はどうとでもなるけれどフェリスは手練れだもの。その出血、背中に木片でも刺さったのかしらね。今、楽にしてあげるわ。」


 マハラトの右手に火球が生まれる。

 その火球はアグラートの頭にゆっくりと狙いをつけて……。


 バァン!


 鬼謀の部屋の扉が乱暴に開かれた。

 山吹がフェリスを背負って鬼謀を回収しにきたのだ。

 山吹はそのまま鬼謀を掴むとダッシュで階段を下り、レッドサロンの外へと脱出した。


 鬼謀は思った。

 すごくいいところだったのに、と。


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