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交渉と地響き

 日が沈み商店が軒並み営業を終える頃、ニカはスカーレット商会の事務所で忍の連絡を待っていた。

 店を閉めてしばらくする六時半くらいに連絡をすると事前に取り決めていたからだ。

 指示通り時計も手に入れてある。

 サラ、ファル、ゴランの三人も事務所に残っている、ここの話し合いによってはスカーレット商会が潰れる可能性があるのだ、さらにもう一つ別の問題も起こっていた。


 『ニカ、聞こえるか?三人もいるな。』


 「うん、忍さんの発言は私が伝えるよ。」


 「忍さん、すまないがこっちはかなりやきもきしてるんだ。挨拶はなしで早速交渉に入りたい。」


 「わかったって。」


 四人で決めた交渉の内容を忍に伝えると、忍は少し悩んでいる様子だった。

 そしてニカの口から質問が伝えられる。


 「奴隷の契約はどうやってやるのか聞きたいって。」


 「お嬢様と交わした奴隷契約と同じ手順で契約します。契約のための魔術師はこちらでも用意できますが、できれば契約者の方が魔術を行使できるほうが秘密を知るものを少なくできます。また、犯罪奴隷が奴隷契約を行使することはできず、犯罪奴隷の奴隷契約は犯罪奴隷とは結べません。犯罪と無縁の人物が相手でないといけないのです。」


 ファルが詳しい説明をしてくれる。

 もちろん従魔が主人になることもできない。


 「条件を満たした人がいるって。ただし魔術師としては未熟で、きちんと練習していなければ魔術は使えないかもしれない?」


 「なるほど、でもいるのですね。実務は我々がいれば問題ないですのでここに連れてきてくれさえすればなんとかします。」


 忍が納得し、ニカのやることが決まった。。

 白雷とともにビリジアンに行きシーラを連れてくることだ。

 話がまとまったところで忍が安心したのを感じ取ったニカは慌てて次の問題の話を振った。


 「忍さん、スーパーノヴァの騎士団が襲撃されて街が閉鎖されたらしいんだけど何か知らない?」


 忍から流れてくる感情や思考が完全に止まった。

 数秒の後、再度伝わってきた感情は焦りと困惑だった。


 「アダムスキーが止まって商人たちが騒いでいる、冒険者ギルドも何やら慌ただしく動いているようだ。」


 「心当たりがあるけど確定じゃないみたい。」


 ゴランの情報に忍がひどく慌てているのがわかった。

 本当なら調べてほしいそうだがニカと白雷がシーラを迎えに行くならしばらく忍との連絡は取れない。

 スカーレット商会の力を本格的に借りるのはシーラの奴隷契約が成功してからになりそうだった。


 「あ、えっと、貴族の事件の情報とスキップさんを暗殺してきそうな心当たりはあるかって。」


 「暗殺の心当たりはありすぎる、大きな商会とはそういうものだ。とくにうちはお嬢様が俺たちを奴隷にして助けたことが有名になってるからな。実務を誰がやっているかに気づけば当然のこととも言える。」


 「あ、あたし貴族の話ギルドで聞いてきた。殺された貴族はオリオン侯爵家の当主、フォンテーヌ・オリオン。スーパーノヴァの邸宅で焼死した、五日前。」


 「なにそれ?!」


 ニカが大きな声を上げる。

 五日前なら忍もニカたちもスーパーノヴァにいるはずがないからだ。

 ヒートアップしたニカにサラがどうどうと落ち着くよう促す。


 「続けるよ。ギルドで聞いた話だとおかしいっていうことでメテオライトのギルドマスターが抗議したらしいんだ。でも、逆に共犯の疑いかけられて軟禁中らしい。なんか殺された人が結構な実力者らしくってそう簡単に殺されないだろうみたいな話になってるみたい。で、共犯を疑われた理由が忍さんを大武力祭に推薦しようとしてたからだって。」


 「え、なんで?」


 ニカは思わず聞いていたが忍も話がわかっていないようで、疑問と困惑が伝わってくる。


 「ギルドマスターが推薦するまで忍さんの実力を知ってる人がいなかったんだよ。大陸の反対側の話だからね。結果的には推薦とは違う形だったけど大武力祭に出て、圧倒的残虐性で予選突破ってなるとさ、一般の人から見たら殺人鬼と変わらないってわけ。」


 「忍さんが誰も殺してないって言ってる。」


 「新聞の記事になったのが大きいね。予選突破した有力選手は煽られまくるから。逆にビッグバンの会場で突破した人なんかは完全に空気になってるし。国を上げての大会だからあたしの予想だと忍さんが捕まっても本戦で公開処刑とかじゃないかな。」


 大武力祭予選はビッグバンとメテオライトで毎月同時に行い、各会場を勝ち上がった選手一人づつ、合計二四人が本戦に出場する。

 忍が目立ったせいでほとんど名も知られていない選手がいるようだ。


 「ああ、ごめん、話を戻すけど。ギルドマスターの軟禁に冒険者ギルドは当然おかしい空気を感じてるし、独自に調査してるみたい。騎士団と貴族の何処かが噛んでないとこんな無茶苦茶な主張は通らないからね。いまはそんなとこかな。」


 「なんかね、サラさんの有能さに忍さんが泣きそうになってる。」


 「はい?!」


 忍は山吹たちのとりあえず暴力に訴える意見に苦心しているのだ。

 騎士が部屋に来たときも忍からの指示がなかったら乱闘になっていたかもしれない。


 「なんにせよ、お嬢様のことと関係があるようには見えないから引き続き調べてみるね。」


 「私と白雷さんはどのくらいで帰れるかわからないから、それまでは契約が切れてることだけはバレないようにって。」


 白雷は眠らないで飛び続けられるからきちんとしがみついていれば大丈夫という忍の雑な指示に不安はあるが、シーラを白雷から落ちないようにするのはニカにしか頼めないと言われてやる気が出た。

 ニカは忍との【同化】を終えると早速ビッグバンを後にするのだった。




 忍が【同化】してきたのは夕食の時間が終わり宿泊客が寝静まる頃だった。

 鬼謀はムカムカするお腹を抱えていたが山吹はムスッとしている。

 時計は手に入っていないが、宿の食堂で山吹が見かけたときにはすでに八時を過ぎていたという。


 「旦那様、ごめんなさい。先生が騎士団の建物を半壊させちゃって街が閉鎖されたよ。なんかみぞおちのあたりが痛い。」


 それが胃が痛いという状況なのを鬼謀は忍に教えてもらった、忍もよくなるらしい。

 話しはじめた鬼謀に反応して山吹も忍に話しかける。


 「主殿、ちょっとした小競り合いで小言を言うなと鬼謀のやつに言ってやってください。見つかったのは我の落ち度ですが、建物が脆いのは我のせいではないゆえ。」


 山吹の力を鑑みるに建物が脆いとかいう問題ではない。

 報告を聞いた忍は驚きもせずに山吹にお咎めなしを言い渡した。

 ただし、今後は鬼謀の指示で動くことが条件だ。


 「助かるよ。昨晩のそれと昼の爆発音のせいで街は閉鎖、外部との連絡はカーネギーでしてるみたいだけど、籠城状態なんだよね。」


 昼の爆発音という言葉に忍が反応した気がする。


 「昼間に大きな爆発音と地響きがあったんだよ、で、出払ってた冒険者が確認に向かったけど次々に倒れて、なんとか帰り着いた冒険者が言うには古い魔法練習場周辺が燃える岩に覆われてたっていうんだよ。魔神が寝床からでてきたとか竜が飛んでたなんて噂が街中で囁かれてて……。え?爆発はなんでもないから安心してくれっていわれても無理だよ。地響きもすごかったし。」


 「主殿が爆発と地響きをおこしたのですか?なーんて。」


 忍が固まったのがわかった、鬼謀は察したが山吹には伝えないことにした。

 ここでやっぱり国ごと滅ぼしましょうとか言いだされたら忍が困るのだから。


 「爆発と地響きは旦那様もまだよくわからないみたい。あと、街にあの人がいるみたいだよ。ビリジアンの時の……クオンだっけオワンだっけ?」


 忍からスワンだと訂正される。


 「そうそうスワン、冒険者ギルドにいたよ。そのタイミングでフェリスっていたでしょ、あの子が旦那様の名前を出して騒いだんだ、同じアダムスキーに乗ってたのにおかしいって。その後二人でなんか話して出ていったよ。」


 鬼謀が作った【ノゾキ魔】は七つ、そのうち四つは冒険者ギルドに集まっていた。

 残りの二つは質屋に、最後の一つは城壁の詰め所に届けられている、今のところバレてはいないようだ。

 持ち込まれる場所が偏ってしまったが、冒険者ギルドは情報収集に存外役に立っていた。

 フェリスには接触して協力してもらうのもいいかもしれない。


 「旦那様にとってきてもらうのは危険だし、冒険者ギルドで魔石を買ってもいいかな?」


 忍は難色を示した、冒険者ギルドの買い物には会員証がいるのだ。

 他の場所で買うにしても魔石を単体で売っている場所など存在しない、価格も高かった。

 忍たちにとっては簡単に手に入るものでも、街では冒険者が体を張って手に入れてくる貴重な品だ。

 忍も集めておいてくれるようなので無くなってから考えることにしよう。


 「我は部屋で大人しくしていましたが、宿の中にいるうちに他のものに話しかけられました。とにかく外に出るなと鼻の下を伸ばした男どもに言われましたが、音だけで何もなかったことで明日には人が出歩くかもしれません。時計を手に入れてくることとします。」


 「先生、喧嘩とか厄介事は無しね。」


 「この容姿は人目につくゆえ、しかし顔を隠せば兵士に睨まれる、難題です。」


 鬼謀はスキップといっしょにいたのだ、おそらくは暗殺犯に顔が割れている、山吹に頼むしかないのだが色々と不安である。

 二人きりで行動をともにして二日、忍が山吹に対して雑な扱いをする理由が鬼謀にも良く理解できた気がした。


 「先生、黒風とかデッドストームって名前に聞き覚えがあるかって。」


 「えー……ないですね。」


 「僕も覚えがないよ。うん、気をつけるさ。大丈夫。」


 忍の不安と心配が伝わるが、鬼謀は力強く言い切った。

 【同化】が終わると次々と変わる状況に再度作戦の見直しに入るのだった。

 

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