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続・神々のお茶会

 ビリジアンからマクロムの旅路は山盛りのアクシデントとともに進行していったが、特に危なげのない旅路であった。

 襲い来る農作物、船に突き刺さる魚、血気盛んな魔物に国内に忍たちを押し留めようとするロンダート。

 襲ってきたものは山吹と鬼謀の師弟コンビが蹴散らしてしまったし、ロンダートに関してはアビゲイルの意向が多分にからんでいるようで、本人にやる気が全く無かったので、愚痴を聞いてお帰りいただいただけだ。

 しかし、ただの農作物が放置すると生き物を襲い出すことがあるというのは流石に予想外だった、魔力の濃い地域で起こる現象だということだ。

 山吹の言う地脈やら火山、戦場跡など、パワースポットっぽいところはだいたい魔力が濃くなるようだ。今後は気をつけよう。

 ちなみに襲ってきた農作物は普通のものより断然美味しかった。


 魔導国家マクロム、その国土のほとんどは魔法の訓練のために開放されており国内に街は三つしか存在しない。

 首都ビッグバン、巨大港メテオライト、知識の街スーパーノヴァ。

 そしてそれら人の街の外側に広がる魔神の寝床が生み出す膨大な魔力がこの国家の魔導国家たるゆえんであった。

 その魔力の影響がある範囲内では特殊な魔導具が機能し、魔術の威力も魔物も強くなる。


 スキップから伝え聞くマクロムの話でわかったことは、この世界の基準からするとかなり発達した文明を持っているということ……というよりもおそらくは使徒から輸入された文明が存在しているということだ。

 国を作ったマクロムという人物はは神の使徒だったのだろう。


 空飛ぶ円盤アダムスキーにはじまり、王の家名であるビックディッパー、出会った貴族はカシオペア、名前からして確実に地球のものだ。

 ちなみにアダムスキーという街の間をつなぐ交通手段らしい、UFOか。

 そしてこれらを名付けたマクロムは宇宙やら星やらが好きだったに違いない。


 忍たちが今まで旅をしてきた国は地図上では南側の国だった。

 しかしマクロムはビリジアンから東に抜け、未開の山脈を挟んで海沿いに北上した先の国だ、雪も多いらしい。

 この大陸の魔法研究の最先端、そしてすべての街に図書館のある学問と文化の国。

 忍は長居する気満々だった、時間はたっぷりある。

 図書館中のおもしろそうな本を読むのだ。


 ビリジアンを出発して今日で何日目だっただろうか。

 包帯でぐるぐるまきになりながら、船室で寝転がる忍の布団に山吹がすがりついて眠っていた。

 忍が心配だからではない、船旅が怖いのだ。

 二週間の予定の船旅だったのだが大きめの揺れに恐れおののいた山吹が抱きついてきて忍のアバラを折り、初日以来ずっと船室で過ごしている。

 恐慌状態の山吹の相手ができるのは忍だけだった。

 途中でオランウータンとの握手の仕方を思い出さなければ命令で物理的に体を動かなくするくらいしかなかったかもしれない。

 そんなことしたらトラウマで色々ひどくなること請け合いだろうから忍は体を張っている。

 今では山吹と忍の二人で部屋を使い、残りの面々は各々の好きなことをやっているはずだ、船旅も満喫しているだろう。

 航路が安全でも味方がヤバいので、忍は二度と船旅をしまいと心に決めた。

 体に毎日【ヒール】と【ウォーターリジェネレーション】をかけているが回復が追いついていない。


 山吹が目を覚ますと万力のように締め上げられて起こされることになる。

 忍は今のうちに華麗に二度寝を決め込むのだった。




 「ぱんぱかぱーん!」


 「うるさい。」


 目を開けて声が聞こえた瞬間、忍は怒気をはらんだ一言を放った。

 三回目ともなると慣れてきたのかもしれない。

 現実では体中が痛んでいるのでその感覚が尾を引いている、苦しんでいるときにノーテンキな声で話しかけられるというのは何もなくてもイラッと来るものがある。

 落ち着け、フォールンを攻めるのはお門違いというものだ。


 「……ごめんなさい、フォールン様。ご用件は何でしょうか。」


 「あ、はい。神託のお礼です……。」


 「あらあら、どっちが神かわからないわねー。」


 フォールンの後ろにはテーブルとティーセットが用意されており、先に着席していた人物がいた。

 ものすごく見覚えがある、そこにいたのはあの海外通販風教材の女性、大地の神グレーシアその人だった。

 グレーシアは飲みかけのカップを皿に置き、優雅な所作で立ち上がると、忍に対して礼をする。


 「この度は私の使いであるユージンを助けていただき、ありがとうございます。頂いた鱗は鎧となりかのものを助けるでしょう。」


 「いえいえ、どういたしまして。私も前の世界の話ができて楽しかったです。」


 お互い頭を下げたところで三人でテーブルに着席した、落ち着いたところで忍の背中がを悪寒が走る。

 最初は意味がわからなかったが、顔を上げて気がついた正面に座ったグレーシアが真顔で忍を見つめている。

 もしかしてこれが殺気というものなのだろうか?

 忍が気づいたことを確認したグレーシアは真顔のまま話し始めた。


 「あなたの今までのことはフォールンに見せていただきましたー。気になることがあるので質問させてくださいねー。」


 忍は久しぶりに冷や汗が止まらないが、脇にいるフォールンはお菓子に手を伸ばしてゆうゆうとしている。

 間延びした声で笑顔なのにまるで床に押し付けられているかのようなプレッシャー。

 この圧力を感じているのは忍だけなのだろうか?


 「まず、あなたは神と闘う旨の話をしていたけど、私達に弓引くつもりなのかしらー?」


 グレーシアの質問に忍は必死に頭を回す。

 神と敵対する可能性があるというのは考えていた、忍はずっと最悪の想像が溢れてくる質なのだから。

 その考えで行くならグレーシアと敵対する可能性はある、しかし決して喧嘩を売りたいわけではないのだ。

 少しの思索ののち、取り繕うことができるとも思えないという結論にいたり、忍はゆっくりと話しはじめた。


 「こちらから何かをするということではないのですが、邪神がいると仮定した場合や、フォールン様が邪神になったりした場合には私もグレーシア様たちと戦わなければならないかと。」


 「ぶふぉ!」


 グレーシアの反応より先にフォールンが口に含んだ紅茶を吹いた。


 「なんでそんなこというんですか?!わたくしはいい女神ですよ!?」


 「いや、なんかガスト王国とかではフォールン様は邪神とされていると聞きまして。」


 「ぐぬぬ……。」


 本当にぐぬぬって言う人いるんだ。

 いや、神だったか。


 心配だったグレーシアの様子に目を移すと椅子の上でずっこけていた、オーバーリアクションが板についている。

 小さく咳払いをして体制を立て直したグレーシアは次の質問をしてきた。


 「あなたはなぜ、本気で戦わないのー?」


 「え?」


 この質問はよくわからない質問だ。

 本気で戦っているのだが。


 「んー、たとえば決闘したわよねー。最初からあなたの知っている魔術を使えば秒殺だったんじゃないー?あの蛇だってそうよー。まあ、そうしたら蛇の鱗が取れなかっただろうけどー。」


 「秒殺って……」


 「魔王から受け継いだ魔術書に書いてある魔術、あなたはほとんど使ってないわよねー。いろいろかいてあったでしょー。」


 忍は眉をひそめた。

 たしかに忍は使用する魔術を選んでいる。

 影の書の魔術は、そのほとんどが危険すぎる魔術だったからだ。

 攻城や軍隊相手に使うような戦術のための大規模な魔術や、殺傷能力が極めて高そうな内容ばかりだったのである。

 水の祈りも同じようなもので厚みは三倍だ、正直持て余している気もする。

 仮にあの決闘で使用した場合、観客やらに被害が出るのは明白だった。


 「被害が大きくなると思いましたので。影の書の内容、ご存知なのですか?」


 「まあねー。魔法もそうだけど、このままじゃあなた後世に名前も残らないで死んじゃうわよー。」


 「いえ、有名になる気はないので。」


 いつの間にか圧力が薄れてずいぶん話しやすくなってきたが、なんとなくピリピリした雰囲気はまだ保持されている。

 やはり神と敵対する発言が怒りを買ってしまったのだろうか。

 

 「そこは有名になっておけば相手も増えるしー。」


 「ん?」


 なんだか話がいきなり飛んだような気がする。相手?

 状況が飲み込めていない忍がフォールンの方を見ると、目があったフォールンは口を開いた。


 「グレーシアは大地の神様ですが子作りの神様でもあります。忍さんはほら、お相手がすでに五人もいるので……」


 「あなたが魔物しか愛せない特殊な性癖でもー。バンバン子供を作ってくれれば問題なしだわー。魔物とノーマルじゃ生まれづらいからもっと回数を増やしてほしいのだけどー。」


 「いや、いやいやいや。そういうのは人に言われてやるこっちゃないんで。」


 「あらあら、従魔に迫られてヤッてる人がそれは通らないわよー?」


 たしかに……痛いところを突かれた。

 あと、まるで異常性癖のように言われたのは解せぬ。


 「まあ、神は人に好き勝手に干渉できないし好きにしなさいなー。でも、ジャスティの言う通り、あなたは面白いわねー。」


 「……それはどうも。」


 グレーシアから感じる雰囲気が柔らかくなり、沈黙が訪れる。

 せっかくなので出されたクッキーとお茶をいただくが、話は完全に途切れてしまう。

 二枚目のクッキーを食べ終わり、忍は意を決して口を開いた。


 「あの、今回の神託に魔王は関わってたんでしょうか?」


 「関わってたわよー。あの白蛇は魔王だからね。」


 「……なるほど。」


 また沈黙が訪れる。

 フォールンもグレーシアも優雅にお茶をしているのだが、無言なのだ。

 何だこの恐ろしく居心地悪い空間は、グレーシアはもっと喋るイメージが強かったがそうでもないのだろうか。


 「……魔王ってなんなんですか?」


 「人がどうにもならないときに神に助けてもらうための救難信号……だったのだけれどねー。軽々しく使われるからどこもかしこも魔王だらけなのよー。」


 グレーシアが頬に手を当てて首を傾げる、困っているという表現なのだろうか。


 「自然災害やらモンスターやらに魔王とついてるのならいいのだけれど、自分で名乗りだすお馬鹿さんが出てきたあたりから収集ついてない感じなのよねー。」


 「もしかして、神様の方でも困ってます?」


 「はい、かといってわたくしたちは直接の干渉はできませんので、諌めることもできずずるずると……。」


 なるほど、神の方でも危機感があるのか。


 「このルールは悪用しようとすればできてしまいます。相手が魔王だと流布すればそれだけで使徒が排除に動くということになりますから、下手に諌めたりしないでルールをひた隠しにしたほうがいいです。」


 「秘密にはしてるんですよー。トートンから、忍さんがほぼ言い当てたって聞いてますけどー。」


 「ハハハ。」


 これはユージンに教えたのはまずかったかもしれない、手紙を送っておこう。

 三度目の沈黙が訪れる、辛い、これは辛い。

 初対面の相手とファミレスのテーブルに放置されているような辛さだ、ドリンクバーやらトイレと言って逃げることもできない。

 たっぷりと気まずい時間を過ごし、紅茶を飲みきったところで忍は目を覚ましたのだった。




 忍が目を覚ました時、船室は真っ暗だった。

 ランプの明かりが消えてしまったのだろう、しかし傍らに誰かがいるのはわかった。

 そういえば今回は能力やらの話はなかったな。


 「めんどくさい……」


 なんだか疲れるフォールンの顔を思い浮かべて、忍はため息をつく。

 そしてベッドの上でまだ習得できていない魔術の練習をはじめるのだった。


天原忍ここまでの能力一覧


常時発動能力

【不老】【成長限界突破】【精神攻撃無効】【暗視】【一発必中】

【真の支配者】【無詠唱魔法】【体操術】【魔法練達】NEW→【リカバリー】

【第六感】【栽培上手】【圧力耐性】【毒無効】【鉱石探知】

【魔力操作】【上質な肉】【魔力生成】【九死一生】【黄泉返り】

【テクニシャン】【○○○】


任意発動能力

【解呪】【千影の召喚】 NEW→【不幸】【雨乞い】【従僕への躾】

【白蛇の凝視】【○○○○】【○○○○】【○○○○○】

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