表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
72/158

非公式な呼び出しとオタク談義

 『忍様、千影はお役に立てているでしょうか。忍様のお側においていただけますか。千影はご迷惑でないでしょうか。』


 「当然だ。だが落ち着いてくれ。外から見えてないとはいえ、シーラさんの目の前で裸で迫ってくるのは駄目だ。」


 「ご主人様、シーラは何もみていませんウオ。」


 「そこで気を使わないでいいから!」


 シーラは呆れた顔で従魔車のカーテンの方を向いている。

 最近特訓やら謁見の準備やらで置いて出かけることが多かったせいか、千影のストーカー気質が爆発してしまった。

 公爵家の用意した従魔車の中、忍は変身した千影に問い詰められていた。

 同じ質問は何回目だろうか、何回聞いても安心できないようで、また最初からループする。

 とりあえず指輪から千影の湯着を取り出して羽織らせた。


 「出発前にも話したが、王城の中は入れないからね。」


 『はい。ご指示であればいつまででも外で待っております。忍様のお慈悲で同行を許していただき、光栄の極みでございます。御用の際はぜひ千影にお申し付けください。』


 「お慈悲って…じゃあ、肩もんでもらっていいかな。」


 『ああ、ありがとうございます!忍様!』


 何を言っても終始この調子なのである。

 ちなみに何も申し付けない場合、先程のループに逆戻りする。

 千影のはかなり過剰気味ではあるが、気持ちはわかる、わかるのだ。

 ただ、城につくまでに少しでも落ち着いてほしいものである。


 『城ごとなくなってしまえば、忍様のお帰りも早くなるでしょうか。』


 「やめて。」


 やり取りが漫才じみてきてシーラも半笑いなのだが、千影ならやりかねない。

 どんなに突飛なことでも本気で言っているからだ、一瞬真顔になってしまったためか、また千影の不安を煽ってしまった。

 王城までの二日間、忍は千影に世話を焼かれ続け質問攻めにあうのだった。


 ビリジアンの王城はやはりというかなんというか、巨大なツリーハウスの集合体だった。

 森の中に階段を作り木に沿って板を貼り、吊り橋にロープを使ったゴンドラまで。

 その様はさながらアスレチックのようだった。

 街と街の中間辺りに孤立した状態で建てられているが雨季には木の根元は水に沈むらしい。

 悲しそうな千影を従魔車に置いて、忍とグレックは謁見の間へと向かった。

 謁見の間には王様の格好をしたユージンとテリアンを除いた三人の王妃が控えていた。

 王様はなんでみんなして首元にファーの付いたマントを着ているのだろうか。

 人払いをしているのか護衛がいないのもあり、豪華で大きな部屋はかなり寂しい。


 「ごめんね、忍さん。アビーがどうしてもって。」


 「公爵が紹介する前に喋り始めてはいけません!」


 アビゲイルが怒っている。

 あちらも大変なようだ。


 「ここ最近毎日会ってたんだしいいじゃない。」


 「まあ、緩む気持ちもわからんでもないな。」


 「…アビゲイル様はうるさい。」


 「ベルガ、ステラ、ユージ様はまだしも、あなた達には王妃としての自覚が足りませんわ!」


 謁見中に叫んでいるのもどうかと思うのだが。

 ベルガとステラは貴族出身だが、感覚は平民に似ていた。

 騎士団には平民の出身者も多いし、ステラの方は研究漬けで実家から放置されていたため魔導具を魔法屋におろして糊口をしのいでいたらしい。

 テリアンも言うまでもなく、アビゲイルだけが貴族社会の格式や伝統にうるさいという図式になっているらしかった。

 王様に必要な礼節なのはわかるので、グレックに耳打ちして本来の流れに戻してもらう。

 忍はシーラに教えられたとおりにしゃがんで、同じようにしゃがんだグレックは咳払いをして話しだした。


 「グレック・クロムグリーン公爵、忍殿をお連れしてまいりました。」


 「あ、ご、ご苦労。表をあげよ。」


 ユージンがたどたどしくお決まりの言葉を口にする。

 忍が顔を上げるとグレックが話しだした。

 儀礼中は立膝で座ってるだけでいいといわれたが、お腹の出ている忍には立膝は辛い姿勢だ。

 体育座りなどは膝の前で手が繋げない、背中では手がつなげるのに不思議なものだ。


 「本日は忍殿より王のご所望である白蛇の皮をお預かりしております。どうぞお収めください。」


 ベルガがユージンの前にカートに乗せた蛇の皮を運んできた。

 一瞥してユージンが忍に声を掛ける。


 「う、うむ。忍殿、此度の働き大義であった。えーっと。」


 「褒美、褒美ですわ、ユージ様。」


 「あ、褒美を取らせる。」


 子どもの王様ごっこに見えてしまうが、本物だ。

 今度は忍の前にベルガがカートを運んできた、見たことのない手のひら大のコインが一枚と大量の大金貨、ビリジアン王家の意匠のついたダガーが置かれていた。


 「蛇の皮の代金としてミスリル貨幣一枚と大金貨五百枚を、また、王の命を救った英雄にダガーを贈る。」

 

 「お金は謹んでお受け取りいたします。しかし、ダガーはいただくことはできません。」


 「っ?!理由を聞いてもよろしいですの?」


 アビゲイルは驚いた様子だった、ここで押し付ければ紐が付けられるとでも思っていたのだろう。

 しかし、これは騎士の証、黄門様の印籠のようなもの、ここで受け取ってしまうと忍としても問題が生じる。


 「申し訳ありません、説明できかねます。理由は神様にまつわることとだけ。」


 ユージンもよくわかっていないのか首を傾げているが、忍は後ろ向きな考えをもっている。

 わかり易いのはフォールンが国教の国でもないのにフォールンの使徒が仕えるわけにはいかないこととか。

 ぶっちゃけ王様と顔見知りならこんな物持ってなくてもいいとも思うし。

 まあ、色々理由あれどこの場で言うこともできない。

 ユージンも忍も魔王になる可能性があるだなんて話は。


 不満げなアビゲイルを尻目に忍はミスリル貨幣と大金貨を受け取り、謁見は終了した。

 そして会食という名目でコース料理を食べることとなった。

 野菜中心の料理は忍の苦手とするものも多く、公爵家の晩餐は食べなくてよかったかもしれないと思うまでになった。

 まさかこの世界にも亀虫草があるとは。


 「すまない、コリアンダーもパセリもあまり得意じゃないんだ。」


 「僕も苦手なんだ。でも、みんな食べろって。」


 とてもきれいな緑色のサラダやスープなのだが味は美味しくてもかおりが強い香草のブレンドのため、かなり辛いものがあった。

 食事もそこそこに忍は報奨の内容を聞いてみる。


 「ミスリル貨幣など、一介の商人では知らないのも無理はありませんわね。あれは一枚で大金貨千枚分の価値があるもの。この大陸の国ならばどこでも共通の価値を持っていますわ。」


 大金貨は一枚で百万円、千枚なら一億…いや、十億だろうか。

 いやいや、計算間違いだろう、あとで地面に書いて筆算しなければ自信がない。


 会食、歓談の後、今度こそユージンと忍はゆっくりと二人で相談をすることになった。

 ユージンの聞きたかったこととは能力の内容についてだ。


 「僕が最初に選んだ能力は、【韋駄天】と【無敵の体】だったんだけど、忍さんはどんな能力が選択肢にあったのか聞きたくて。」


 「選択肢?」


 「神様から能力をもらう時、目録を見せてもらったでしょ。能力の名前がわかれば【床上手】みたいに能力を得る助けになるんじゃないかと思ってさ。」


 「……すまない、言いたいことはわかるが、私は能力を選んでいない。フォールン様の能力はランダムなんだ。多分もらった能力もランダム選択されてる。」


 しかしこの時点で少し気になることが出てきた。

 神に召喚されると必ず付与される。

 この文言がある【不老】【成長限界突破】の二つはユージンも持っていたものだと考えていたが、この分だと違うのかもしれない。


 「目録というのはどのくらいの数から選ぶんだ?どの程度貰えるって話だった?」


 「召喚されたら必ず貰える能力が二つ、それぞれの神の加護によって二つだったかな。他にも元々の世界で持っていた能力というものもあるみたい。僕は…あ、内緒のほうがいいんだっけ。」


 「そうだ、よく我慢したな。目録の中に【不老】とか【成長限界突破】はあったか?」


 「あった!【不老】と【不死】が分かれてたから神様に聞いたよ!【超成長】と【成長限界突破】も名前が似てた!」


 「他に何があったか覚えてるか?」


 「いや、聞けば思い出せると思うんだけど……迷った能力しか覚えてないかな。【武芸の達人】【天性の魔術師】とか。魔法使いか戦士、どっちがいいかで迷ってたから。」


 召喚時に貰える能力の目録があるというだけで大きな情報だ。


 「それぞれ強力だな。これらの能力は召喚されたときにしかもらえないんじゃないか?」


 「うーん、じゃあ他の方法を考えないと。」


 「私は毎日コツコツ練習しているといつの間にか増えていたってことが多かった。あと、おすすめはしないけど、白魔やドラゴンを倒して血を浴びると能力を貰える。」


 「血を…英雄譚だと聞くけど、本当にあるんだね。」


 忍は今回の白蛇でも能力を獲得していた。

 任意発動能力【白蛇の凝視】、睨みつけた相手の体の自由を奪う呪いだ。

 グラオザームのときと同様、白魔の血にもなにか特別な力があるようだ。


 「いつの間にか持っているものだから、気にしないほうがいい。頑張って練習しても貰えるかもわからないし、訓練していればそのうち増えるよ。能力がないと何もできないってわけでもないみたいだし。」


 「…そうだね。」


 その後も忍とユージンは思いつく限り情報交換をしていった。

 途中から突然変異で忍者になった亀や、この世界は魔力があるなら気やチャクラ、巫力もあるのかなどのオタク談義にシフトしていき、日が暮れるまで歓談した。

【黄泉返り】を持っている身としては巫力は可能性がある気がする。

久々のオタク談義に阿呆なことを考えつつ忍は王城を後にした。


 「ご主人様、おかえりなさいませ。千影様がお待ちです。」


 『忍様、お疲れさまです。どうぞ従魔車の中でおくつろぎください。』


 シーラがちょっとお疲れ気味だったのは、間違いなく千影の相手をしていたからだろう。

 忍は心のなかで謝ると、従魔車に乗り込んで千影の話を聞くのだった。


読んでいただきありがとうございます。


「面白そう」とか「続きが気になる」と少しでも感じましたら、ブックマークと↓の☆☆☆☆☆から評価頂けますと嬉しいです。


是非ともよろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ