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ちびっこ盗賊とマクロムの貴族

 次の日の昼間、従魔のいない従魔車に出くわした。

 外装は高級車といったところだが、御者もおらず道の端にぽつんと止まっている。


 「山吹、変じゃないか?」


 御者台から声を掛けると山吹も足を止めた。

 ニカたちに声をかけ、千影の烏と三人で先行して様子を見る。

 扉は開きっぱなしで従魔車の中に荷物はなかった。

 壊されているわけではない、襲われたというよりはここで降りて何処かに行ったような感じだ。


 『獣道の先に集落があります。村のようです。』


 「村?」


 忍は手持ちの地図を確認するが、こんなところに村はのっていない。

 最近新しくできたものか、あるいは盗賊の可能性がある。

 脅して連れていけば争いのあとも残らず、こんな状態になるのもわかるからだ。


 「旦那様、従魔車が新しそうだ。」


 「……それは、放置できない。」


 『集落は数件です。千影だけでも制圧できます。』


 「まあ、言い出した私も行くとして…鬼謀、試しに行ってみるか?」


 「旦那様、僕に拒否権はないよ。」


 そんな事をいいつつ、鬼謀はうさぎの姿になった。

 忍は鬼謀を頭に乗せて千影とともに集落の様子を見にいくことにした。


 集落の家は数件、年季の入った秘密基地といった感じだ。

 ボロボロでツギハギのツリーハウス、お世辞にも住心地がいいとはいえなさそうだった。


 『一番大きなところに身なりの良い女性とメイド、子供が四人。外に子供が二人います。』


 『外の子供はなにか喋ってる。』


 鬼謀がフードの中で耳を動かしている。

 たっぷり百メートルは距離がありそうなのだが、会話が聞き取れるようだ。


 『なんか、街に行くかどうかで揉めてるみたい。盗賊とかじゃなさそうだよ。』


 「よかった。一応声をかけておくか。」


 忍が大きな家に近づいていくと、外に出ていた二人の子供が投石ヒモで石を投げ出した。


 「来たぞ!狙え!!」


 「おおお?!」


 たまらず近くの木の後ろに隠れた、一発は護符のお陰で大丈夫だったが、一発が顔をかばった腕にあたって痛い。

 ちょっとじんじんするが骨は大丈夫そうだ、なかなかいい腕をしている。


 「行商人だ!従魔車が変なとまりかたをしていたので見に来ただけだ!」


 「みんな、獲物だ!」


 「獲物って言われたんだけど?!」


 鬼謀のフードの首根っこを掴んで目の前に持ってきた。

 うさぎって表情変わらないから焦ってるのか笑ってるのかわからない。


 『あーなんか盗賊みたいなこと言ってる。中でメイドと女性が止めてるけど子どもたちは問答無用っぽい。』


 『忍様、捕まえました。殺しますか?』


 「まてまてまて、ん、捕まえた?」


 急展開に頭が追いつかない。

 隠れていた木からそっと顔をのぞかせると千影の烏がツリーハウスを制圧していた。

 容赦がないというかなんというか、カラスの大群にツリーハウスのボロボロ具合とが相まって幽霊族の生き残りの家のようになっている。


 『ノーマルの大人二人、モリビトの子供六人、気を失っています。家の中は雨漏りもひどいですね。忍様を攻撃してきた二人には相応の罰を与えることをお許しいただきたいのですが。』


 「あー、子供のやったことだろう。怪我もないし理由によっては許してやってもいいんじゃないか?」


 「旦那様、さっきの投石は人を仕留められるレベルだよ。」


 言われてはたと気づく、歩いて近づいたといってもゆうに五十メートルは距離のある投石だ、威力があって当然といえる。

 あまり痛くなかったので気が付かなかった、これが筋トレ効果だろうか。


 「千影、手加減してお仕置きしてくれ。あと、事情を調べよう。」


 千影がメイドと身なりの良い女性も気絶させてしまったので話が聞けなくなってしまった。

 仕方ないので千影に記憶をさらってもらう。

 まあ、先制攻撃も受けたしお仕置きもやむなし、ビクンビクン跳ね回っている子どもたちに南無と手を合わせた。


 『子どもたちはどうやら奴隷として攫われてきたようですね、女性たちは魔導国家マクロムの貴族のようです。盗賊が奴隷を残したままこの拠点を放棄したために、子どもたちだけで食い詰めて貴族の従魔車を襲ったようですね。』


 それなら不自然に従魔車が残っていたのも合点がいく、しかし、貴族が護衛もなしにこんなところを通っているというのはそれはそれでおかしい。


 『貴族もお人好しですね、子供をなんとかしようと相談をしていたようです。護衛はいたようですが、小動物の大群に襲われてはぐれたようです。』


 「昨日のやつか!」


 追いかけて倒さなかったことで余計な被害が出た、ということか。見事に忍たちにしわ寄せが来ているところがまた悲しい。

 このまま放置すれば子どもたちは良くて盗賊になる、悪ければ死というところか。


 『忍様、先を急いでもいいのではないでしょうか。』


 『僕もわざわざ関わる必要ないと思うんだけど。』


 「すまない、見捨てるの、後味悪いから。」


 二人共不満そうだが、忍はこの子どもたちを助けることにした。

 この世界で人さらいはポピュラーな悪事のようだからいちいち助けて回るのもだめかも知れないが、ここは放棄された村だ、誰もが自由に行動してもいいところだろう。

 忍はタープを張って炊き出しの用意をはじめるのだった。


 肉野菜スープのいい匂いが漂い出した頃、最初に起き出してきたのはメイドだった。

 千影の烏を見てビクついている。


 「あ、あの?」


 「おはようございます。もう少しでスープができますよ。何があったか教えていただけますか?」


 「あ、え、はい。」


 メイドの話は千影の調べたことと大差なかった。

 子どもたちは貴族側の二人に嘘もなく全部話しているようだ。

 次々に起き出してくる子供に混じって、裾の汚れたドレスの女性も起き出してきた。

 とりあえずスープを餌に誤解を解いて全員の話を聞くことになった。


 「失礼いたしました。わたくしは魔導国家マクロム、カシオペア侯爵家が二女、スワン・カシオペアですわ。このメイドはピジョンです。」


 侯爵、ってなんか上の方だったはず。

 爵位なんて一番下が男爵なことくらいしか覚えていない。


 「行商人兼冒険者をやっております。忍と申します。皆さん取り乱しておられたようですので、一度気絶していただきました。特に問題がないのならスープを食べ終わったら御暇させていただこうかと思います。」


 「実は、恥ずかしながら従魔と御者に逃げられてしまいまして……現在は手持ちがございませんがお金は必ずお支払いしますので、近くの街まで送っていただきたいのです。この子たちと一緒に。」


 「なるほど。しかし、子どもたちも、ですか?」


 「本国では孤児院に縁がございまして、どうしても放っておけないのです。」


 ふむ、もともとそういうつもりがあったから子どもたちと仲良くなったのだろう。

 千影の烏に視線を送るが、嘘をついている様子もないようだ。


 「では、なにか保証になるものをお預かりできますか?契約書に一筆いただければ、次の街まではお連れしましょう。」


 「ありがとうございます、よろしくお願いいたします。」


 こうして、忍たちは何故か大所帯で次の街に立ち寄ることとなった。

 道に帰ってスワンの従魔車をよく見てみると、小さな引っかき傷や凹みなどがある。

 四人乗りだがきちんと動くようなので、白雷に頼んで二台体制で街を目指すことにした。

 忍たちの従魔車にはスワンと子供二人が同乗し、残りのピジョンと子供四人がスワンの従魔車に乗った。

 忍の方に乗ってきたのはあの投石をしてきた二人である。

 虎耳の少年はガタイがいいのだが少し痩せている印象だ、きちんと食べて訓練をすれば大柄な戦士になりそうな気がする。

 犬耳の少年は背が小さい。


 「スワンの姉ちゃんになんかしたらただじゃ置かないからな!」

 

 「あのクソ鳥なんて怖くないぞ!どうせおっさんも悪人だろ!太ってるのが証拠だ!」


 悲報、太ってるのが悪人の証拠らしい。

 まあ悪徳成金といえば、太ってて女をはべらせて葉巻吸ってるイメージだが。

 忍は太っていて女の子と旅をしていてトールの根っこをくわえている自分がすべての条件を満たしていることに気がついた。悲しい。

 クソ鳥と言われた千影が後ろから虎耳を高速でつついている。


 「なんか、たいへんなことになっちゃったね。」


 「辛抱してくれ。千影も子供のいうことだ気にするな。」


 「すみません。二人とも、忍さんたちにご迷惑をかけてはなりませんよ。」


 スワンが子どもの相手をしはじめた。

 孤児院に関わっていたというだけあり慣れたものだ。


 『あの二人は速やかに殺しましょう。』


 「やーめーとーけー。」


 千影がカリカリしている。

 これは一刻も早く街に送り届けて別れねば。


 『旦那様は変わってるね。子供が好きだったりするの?それとも貴族とのパイプを作りたかったとか?』


 「……そんなとこだ。」


 理由はある、が、話しづらいな。

 人が他人にすることは、自分がしてほしいことである。

 忍は助けてほしい時、助けてもらえなかった、自分でなんとかするしかなかったと考えている経験がいくつもある。

 たとえそれがいけないことであっても、行動を起こしてしまうのだ。

 その後、しでかしたことのしっぺ返しが来るのだが。

 子供たちはそういった事情だったように思う、人を襲うのはいただけないが。


 『ちなみにどっちの女の子がタイプだったの?』


 「は?」


 『猫耳と狐耳の子がいたでしょ、どっちがタイプだった?』


 「何の話をしてる?」


 『旦那様の好きな女の子。』


 「……違うから、一瞬わからなかったわ。」


 斜め上すぎて思いつかなかった、子供が好きの意味が違う。

 というかそれなら貴族とメイドの方で話をふるもんじゃないのだろうか。


 『じゃあ貴族とのコネのほうか。実は野心家なのかな?』


 「なんでそんなに聞いてくるんだよ。」


 『気になるから。』


 単なる興味ということならとりあえずスルーしておこう。

 人前でなにかやりだすこともできず、端っこで千影の烏をぷにぷにしながら昼寝して時間を潰すのだった。


 「ニカ様、忍様は誰とお話なさってるのでしょう?」


 「しのぶさん、ひとりごとおおいからね。」


 「変なデブ。」

 「変なおっさん。」


 「すごいいいひとなんだよ。わたし、しのぶさんだいすきだもん。ふたりもスワンさんがいやなこといわれてたら、いやじゃない?」


 「「やだ!」」


 「じゃあ、ほかのひともわるくいっちゃいけないよ。そのひとのまわりのひともいやなきもちになっちゃうもん。」


 「ニカ様のいうとおりです。ふたりとも、反省しましょうね。」


 「「はーい。」」


 ニカの話にスワンが同意し、子供二人が大人しくなった。

 ニカもちょっと変な雰囲気を放っているのをスワンは感じ取っていた。

 そして、この集団の全員が異様な魔力量を誇っていることも。


 魔導国家マクロムは魔法の祖たる北極星のマクロムがおこした国家である。

 北極星のマクロムは国家の基盤たる貴族の家に星座という星の並びの名を与えた。

 しかし、マクロムの伝えた星の並びは夜空のどこにも発見できなかったのだという。

 カシオペア家は補助魔法の名家、魔法の技術はそこらの魔法使いを軽く凌駕する。

 スワンは上級魔法を使える腕利きだったが、それゆえに忍たちの誰よりも弱いことを感じとっていた。

 この集団が味方でいることに少しだけ安心する。

 しかしそれもいまのところはと言わざるを得ない状況で、子供たちが忍をばかにするたびに内心ヒヤヒヤしていたのであった。


 「つきましたね。この街は確か……」


 「ベルリーズ、果物の街ですわ。送っていただいたこと、感謝いたします。ここならば馴染みの宿もありますので滞在も可能でしょう。」


 「それはよかった。」


 「証文の通り大銀貨三枚は必ずお支払いいたします。もしもマクロムのビッグバンにお立ち寄りの際はぜひ当家にもお越しください。」


 「ビッ…あ、はい。その際はぜひご挨拶に伺います。」


 マクロムにはビッグバンという街があるのか。

 吹きそうになったが寸前でこらえた。


 「それでは私共はこれで。」


 「おう、変なおっちゃん。」

 「かえれ、変なデブ。」


 「……モリビトの子に一つ教えておきましょう。デブのおっちゃんは君たちの暴言を忘れないでしょう。もし次に攻撃をしてきたら私は仲間を止めませんからね。」


 丁寧な言葉で話しながらチベットスナギツネの顔でじーっと子供たちを見据える。

 全員が少したじろいだところで忍はスワンさんに視線を戻した。


 「ではお元気で。」


 こうして宿屋の前で、忍はスワンたちと分かれることとなった。

 やはり、人付き合いなんてするもんじゃない、子供が嫌いな訳では無いがガキ大将のターゲットになるのは年を食っても変わらないようだ。

 控え目に言って殺してやりたく感じているが、我慢である。

 それに、忍よりも我慢をしたやつがいるのだ。


 「千影、誰がなんと言おうと千影は私にとって大切だ。良く我慢したな。」


 『もったいなき御言葉、千影は果報者です。』


 「しのぶさん、おとこのこってみんなあんなかんじなの?」


 「そんなことないぞ。子供によるんじゃないか?」


 ニカの頭をなでてやる。

 どうやら我慢をしていたのは千影だけではないようだ。

 忍はそのまま街で用事を済ませ、買い物で食材を補給した。

 騎士団の影はない、今度こそ湖に一直線に向かうのだ。


 街を通り過ぎ少し距離を稼いだところで、千影が招集をかけた。


 『忍様、天原忍者隊会議を招集します。』


 「わかった。全員、従魔車の中にあつまれー!会議ー!」


 外を飛んでいた白雷と従魔車を引いていた山吹も集まってくる。

 忍者隊というのも段々と浸透してきたな。

 修練や空き時間に忍者やスパイというものについて話していた甲斐があるというものだ。

 話していたというよりはオタクが漏れていたという方が正しい気がするが。


 『それでは、天原忍者隊会議をはじめます。千影がスワンから得た情報を話します。』


 『旦那様、天原忍者隊って何?』


 「私達の隠された呼び名だ。仲間内の符丁の一つだよ。パーティの名前はミスフォーチュン、屋台の名前は丸天屋台になっている。従魔は喋れないのが普通みたいだからいまは覚えなくてもいいぞ。」


 『用途によって名前を使い分けてるんだね。』


 「鬼謀、悪いが千影の負担になるから変身して喋ってくれるか。」


 『ああ、そうだった。』


 鬼謀がゆっくりとローブを取り出して変身をはじめた。

 人の形を取ったところで千影が説明をはじめる。


 『この国の王は忍様と同じ神に召喚されたもの、グレーシアの神官でユージというそうです。しかし、現在は湖畔の街オーチュルで療養中、原因は【黒蛇】です。』


 「え、かなり強力な呪いだよ。療養中ってことはここ数週間くらいかな。」


 『いえ、そろそろ一年になろうというところのようですが。』


 「なにそれ。」


 鬼謀が変な顔をしている。


 「いやいや、【黒蛇】の呪いは強力なのさ。かけられたら魂をに食われて一ヶ月ともたないよ。それが一年も生きてるなんて意味がわからない。」


 ありえないことがおこっているということか。


 『続けます。スワンはそのユージ王の呪いを解くためにビリジアンに招かれたようです。しかしスワンの手にはおえず、自国へ帰る途中だったようですね。現在も高名な魔術師や魔法使いが秘密を守ることを条件に解呪に挑戦しているようです。そして、忍様はその秘密をなぜか知っていたということになります。』


 「ああ、騎士団がこっちに来てるのはそういうことか。」


 「この呪い、術者を殺すことで解除できるんだよ。」


 道筋が見えてきたな。

 王に会って呪いをとけば誤解も一緒にとけそうだ。

 名前からして日本人っぽいし全く話せないということはない…と思いたい。


 「これだと騎士団は無視して直接王に会いに行くのが良さそうな気もする。」


 『騎士団をやり過ごすのは千影にお任せください。』


 「主殿、王や貴族への謁見はそんなに簡単なものではないですよ。会いたいというものを片っ端から通していたらそれだけで日が暮れてしまいます。有力者の紹介でもあれば別でしょうが。」


 「んー、スワンはどうだ?」


 『スワンは忍様を警戒していました。』


 「警戒されてたのか…。」


 子供から嫌われているのはわかっていたが、スワンからもとは。

 たしかに唐突に出会った相手を信用しろという方がおかしいか。でもちょっと悲しい。


 「旦那様、僕に考えがあるんだけど、こういうのはどうかな。」


 鬼謀が策を説明してくれる。

 山吹とニカは妙案だと思ったようだ。

 千影はピンときていないようで、白雷は忍の膝で撫でられていた。


 「旦那様、そういうわけでニカとお店を貸してほしいんだけど。」


 「いいぞ。周りに被害が出なそうな案なのが特に。」


 「そういうの嫌いでしょ、街ごと消滅作戦のほうが良かった?」


 「却下。」


 鬼謀の発案によりやることが決まったので、次の目的地が明確になった。

 行動方針が決まれば宿を取って落ち着く事もできるだろう。

 目指すはオーチュルの隣の町、湖畔の高級別荘地パルクーリアだ。


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