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魔導具とブラシ

 二人で並んで歩いていては合流に一日以上かかってしまうので、山吹に二往復してもらうことになった。

 まず最初に鬼謀を運んでもらい、その後忍を運んでもらう手はずになっている。

 忍が従魔車に帰ってきた時、なんだかおかしい雰囲気になっていた。

 千影の烏が従魔車に集まっていて、中では鬼謀がものすごく疲れていた。


 「ぜーはー、ぜーはー。」


 「えっと、どうした?」


 『鬼謀、凄いの。千影を防いでるの。』


 「千影、説明して。」


 『新入りが本物かわからないので記憶を覗こうとしたところ、攻撃を防がれてしまいました。忍様、この者は忍様の従魔なのですか。』


 「うん、従魔にした。というか山吹が連れてきたよね。」


 『忍様の命により引き下がりましたが、今回のことには裏があります。山吹だけの発言では信用なりません。』


 「あー。わかる。わかりすぎて怒りづらい。」


 ニカと白雷も千影の言葉に頷いている。


 「いきなりこうげきはやりすぎだけど、わたしたちにもせつめいしてほしい。」


 「あー、説明はするが、とりあえず鬼謀を休ませないと。魔力がずいぶん減ってるな。まずは【生育】か?」


 うつ伏せで今にも死にそうな鬼謀の手を取り、少しずつ魔力を流し込む。

 封印されていたのだから最初に気づくべきだった、食事もとっていないのだろう。

 とにかくまずは体力と魔力を回復させないといけない。


 「ごめんなさい、従魔になったのに勝手に死ぬのは駄目かなって…。」


 「うん、駄目だな。でも千影は殺しに来たわけじゃないから許してやってくれ。山吹が不審すぎてみんな不安になってたんだ。」


 「……先生は信用がないんだね。」


 「すぐふざけるし調子に乗るから、ところでどうやって千影の攻撃を防いだんだ?」


 「護符と防護の魔術。でも、あんなの反則だ。こんな強力な精霊なんて…もしかしたらイフナより強いかもしれない。」


 イフナ、湖にいる精霊だったかな。魔王なら面識でもあるのか。


 「いま、ニカが生肉を用意してくれているから、それを食べて落ち着いたらみんなに経緯を説明しよう。大丈夫そうか?」


 「ああ。そのくらいなら変身も保つと思う。」


 「変身?辛いなら解いていいぞ?」


 「え、変身してないと喋れない。」


 ああ、なるほど、そういえばそうか。

 最初から変身していたのでそういう生活をしているものとばかり思っていたが、意思疎通のためにやむなしだったか。


 「わかった、ちょっと辛いかもしれないが多めに魔力を分ける。一時的にならまあまあ回復するはずだ。」


 「ありがとう、ところで忍のことはなんて呼んだらいい?」


 「好きに呼んでいい。」


 鬼謀に流す魔力を増やしていく、魔力が増えるたびに鬼謀が反応するのでちょっと楽しくなってくる。


 「な、なんか、く、遊んで、ない?」


 「遊んでない。もう少し増やしても大丈夫そうだな。」


 「え、なんか、多くないぃっ?!え、ちょっ、まっ!!」


 鬼謀の魔力は減っているだけで許容量自体はかなり多そうだった。

 他のみんなと同じ量を流す日も近いかもしれない。



 「天原忍者隊、作戦会議をはじめます。山吹は動かず反撃も禁止。」


 「主殿?!いきなりこれはひどいです!」


 「あまり叫ぶと発言も禁止する。よく考えてから喋るように。」


 「旦那様、先生はなにを…?」


 鬼謀は無難な呼び方として旦那様というのを選んだ。

 学術書を中心に読んでいたため、敬語はほぼ知らないようで、なんだかアンバランスな喋り方になっている。


 「鬼謀、命令です。動くのと抵抗を禁止します。千影が納得しないので、記憶を読ませてもらいます。千影は記憶を読むだけな。」


 『忍様、お心遣いに感謝いたします。』


 「え、え、え、旦那様動けな、助け…」


 鬼謀が闇に飲み込まれる。南無。

 ニカが若干引き気味なので、こちらはこちらで話を続ける。


 「えー、結論からいうと、この子、魔王です。」


 「えっ?」

 「プオッ?!」


 白雷とニカが同時に声を上げる。

 それはそうだ、忍も判明したとき山吹をおもいっきり責めたかった。


 「魔王で、山吹の弟子。でも、ちょっと境遇がかわいそうでな、なにかあったら山吹が責任を取るということで従魔としてうちに来てもらった。」


 「主殿?!そんな話でしたか?!」


 「今、責任、とるか?」


 圧をかけると山吹が黙る。

 そこでちょうど千影が終わったようで、黒い何かが鬼謀から離れていった。


 「怖かったかもしれないが、痛くはなかっただろう?」


 「そういう問題じゃない…。」


 「千影は納得したか?」


 『敵意はありません。しかし、鬼謀は爆弾です。直接害することはなくとも、忍様のお立場を悪くする可能性が高いです。』


 「まあそこらも含めて、今後はみんなでよりいっそう他人に自分たちのことを知られないように動かないといけない。」


 「旦那様たちって何者なんだい?」


 「私は魔王を倒すために呼ばれたフォールンの使徒。千影は闇の精霊。白雷は大型白魔。ニカは普通の従魔かな。山吹はよく知ってるよな?」


 「砂漠の女王、砂岩のツィトローネ。山食いと肩を並べたドラゴンの魔術師…だね。整理がおいつかないや。」


 ひとりひとりを示しながら名前を教えていく。

 最後に鬼謀の自己紹介を促す。


 「僕は鬼謀。前の名前はパボラック。オーガヒルの呪いの王と呼ばれたオーガラビットの白魔。これからよろしく。」


 「「え?」」


 白魔というのは初耳だ、たしかに髪の毛が銀色で目が赤いから白魔といえば白魔なんだろうが。

 意外そうな声を上げた忍と山吹に一同も微妙な反応をする。


 『忍様、なにか問題がありましたか?』


 「いや、ああ、そうだ。もう一つ鬼謀に紹介したかったことがある。鬼謀はさっき私を呪い殺しかけたな。」


 「あ、ああ。うん。」


 「つまり鬼謀は一回。千影とニカも一回。山吹は今回も入れて二回。白雷にいたっては三回。私を殺しかけている。気をつけてくれ。では、みんな仲良くするように。」


 天原忍者隊会議が言い訳で阿鼻叫喚になった、これでなんとなく鬼謀にフランクさが伝わってくれたらいいのだが。


 「最後に全員の命令を全部解除します。そして私の情報と仲間の情報は他言無用、命令です。では、解散。」


 「主殿、我が見張りに立ちますゆえ、今夜はゆっくりとお休みください。」


 『千影も見張りをいたします。本当にお疲れさまでした。忍様。』


 山吹が見張りにいってしまうと、ちょっとまだ鬼謀と気まずいんだが。

 というかこれはあれだな、責められる気配を察知して逃げたな。

 ああ、寝るにしてもみんなで川の字というわけにもいかないのか。


 「鬼謀と私は一緒に寝たほうがいいかな?男二人になったから布でも張って部屋を分けるか。」


 「きょうはしょうがないかも、しのぶさんがまんなかならいいんじゃないかな?」


 「……僕、メスだけど。」


 「「えっ?!」」

 「プオッ?!」


 従魔車の中の全員が鬼謀を男だと思っていた。

 忍はめっちゃいかつい名前を女の子につけてしまった、なんかすまない、鬼謀。




 雨が降り続いている。

 忍たちは従魔車に揺られながらウシャの街を目指していた。

 ひとつはトントラロウとの契約書を行商人ギルドに提出するため、もうひとつは鬼謀の知る宝物庫を目指してである。

 鬼謀が山食いに従っていたのは書物やアーティファクトに関して全く興味のない集団だったので、それらを鬼謀が手に入れて、呪いを抑えることができるものがないか研究していたことに起因する。

 それらの提供を受ける代わりに様々なサポートを行う位置にいたようだ。

 有用なものは基本的に鬼謀が持っているが、これらとは別に危険なものや余ったものを各所に隠していたらしい。

 今回の宝物庫には底なしの指輪が残っているかもしれないとのことだった。


 「底なしの指輪って、戦争で大きな遠征軍が来ると必ず持ってるやつがいるんだ。貴重なものだけど、遠距離に大量に物資を運ぶという点では替えの効かないアーティファクトなのさ。貴重でも使わざるをえないし、遺跡からよくみつかるみたいだしね。」


 「貴重だけど珍しいものでもないのか。使用をしてることは隠しているが。」


 「旦那様はそれで正解。個人で持ってるとかになると国によっては徴収されたりとかもあるよ。」


 鬼謀は社会というものにニカとは違う意味で明るかった。

 国や組織がどう動くか、商人や裏稼業などの思惑をよく考えて行動できる。

 文章での交渉などではとても頼りになりそうな印象だ。

 現在もずっと変身しているが、魔導具は人の姿のほうが作ったりいじったりをしやすいらしい、街に入るときはオーガラビットの姿でくっついてくる予定だ。

 従魔の証もついでに買っておこう。


 「きぼうさん。うさぎのすがたのマント、しちゃくしてみて。」


 ニカはいま、鬼謀のためのマントを作っている。

 鬼謀の額には第三の目があるが、この目は呪いの力を発する器官であり、下手に視線を送ると抵抗力の低い人に呪いをかけてしまうことがあるらしい。

 鬼謀がフードを目深に被っているのにはそんな理由があった、ただの中二病ではないようだ。

 ハチマキのような目隠しも提案したが、咄嗟のときに使えないのもまずいということで、ミニマントをニカが作ってくれることになったのだった。


 「おお、角に引っ掛けておけば風で簡単にめくれない、考えたな。」


 「でしょ。きぼうさんどうかな?」


 オーガラビットの姿になった鬼謀が試着をしている。

 少し動き回って前足で器用に木札になにか書いた。


 「きゅ。」


 布を二重に、と木札に書いてある。


 「え、な、に、こ、れ。」


 ニカの動きがいきなりギクシャクしだす。

 布が薄くて呪いが発動してしまうということのようだ。

 鬼謀はうさぎの姿でモゾモゾとローブの中に入るとその状態から変身をして変身が終わったときにはフードを目深に被った姿になっている。


 「着慣れてるな。」


 「僕としては裸でいるのは恥ずかしいんだけどね。本当は元の姿でも服を着たいくらいなのさ。」


 「つくる?」

 「いや、毛があるから服を着ると大変なんだ。」


 鬼謀にも色々事情があるようである。

 オーガラビットは兎に二本の角が生えて、ギザギザの歯を持った姿の魔物だ。

 小型で大きくても一メートル弱くらいなのだが、五、六匹の集団で獲物に襲いかかり、持ち前のスピードと鋭い歯で肉を削いで倒してしまうという恐ろしい肉食の魔物である。

 ただし、その危険性から街の近くに出れば積極的に討伐されるので、蜘蛛の大発生で獲物も少なくなってかなり数が減っているらしい。

 鬼謀はというとギザギザの歯ではあるものの耳は四つたれており、目が額のものと合わせて三つ、角は小さいものが二本、ここらへんは山吹の話と一致する。

 本来の大きさは四十センチほど、忍の知っているうさぎと変わらない大きさだ。

 目は真っ赤な瞳で白目もあり、額の目だけ瞳が紫色だった。目が縦についているというようなことはなく、目を合わせても呪われるというようなことはなかった。


 「そうだ、できればマントの内側に旦那様のような小さな袋がほしい。できるかな?」


 「できるよ、なんこくらい?」


 「このくらいで、七つほしい。」


 そんなにつけたらマントの内側はポケットで埋まってしまうんじゃなかろうか。


 「旦那様の服は画期的だよ。護符や魔術のための道具を袋なしであんなに持てるなんて、戦術の幅がかなり広がるはずさ。」


 「あー、うん。ありがとう。でも、一般的じゃないことっていうのはそれなりに理由があるからね。今まで使ってた方法があるなら慣れたほうでやるのがおすすめだよ。慣れないとどのポケットにどの魔法陣入れてたか混乱したりもするし。」


 ポケットがパンパンだとダサいとかあるらしいし。


 「じゃあ取り出す必要のないものを入れるくらいにしておくのがいいか。四つにしよう。」


 「今まではどうやってたんだ?革袋とか?」


 「いや、お腹の袋に入れてる。」


 「ん、お腹に袋をつけてるってこと?」


 「いや、お腹にあるやつ。子供とか育てるときに使うらしいけど。」


 もしかして、有袋類なのか。

 気になるな、仲良くなったら見せてくれるようにお願いしてみよう。


 「しのぶさん、おんなのこにからだのこときくのはだめだよ。」


 「え、ご、ごめん。」


 「いや、ノーマルにはないんだ。僕の説明がたりなかったよ。それに、先生からも話は聞いているから、旦那様は気にしないで。」


 山吹になにか聞いたのか。気になる。

 しかし怒られたばっかりなのにここで根掘り葉掘り聞くのはやはり駄目だろう。我慢だ。


 「僕もそうだけど、魔術師は用意がいるから荷物が多いんだ。背負い袋や魔術書なんかは必要なものなんだよね。ほかには入れ墨や服の裏に魔法陣を描くなんて方法もあるのさ。底なしの指輪はそういう事全部解消してくれるから、先生にも一つ持っててほしいんだ。旦那様は誰に指輪を持たせたいの?」


 「ニカだ。今もそうだが生活全般のことをやってもらってるからな。私が二つ持ってるが、他人には使えなかった。」


 「あ、刻印魔導具なんだ。それ、すごいね。」


 鬼謀によると刻印魔導具というものは継承された本人にしか使えず、継承の仕方も本人が決められる魔導具らしい。

 ただし、継承のためのやり方がまちまちなため、発掘した個人しか使えないいまいち使い勝手の悪いものと認識されているようだ。


 「僕のは誰でも使えるやつだけど、ある程度の量を入れるといっぱいになってそれ以上入れられなくなるんだ。指につけてなくても取り出せるって珍しい術式がついてるけどね。」


 「私のは今のところそういうのはないな。メチャクチャな量が入ってる。魚とか肉とか竹とか材木とかドラゴンの死体とか。」


 「ドラゴ……まあ、刻印魔導具は普通の魔導具よりも強力っていうのは常識なんだけど、そこまで違うんだ。本の知識と実物はやっぱりぜんぜん違うね。」


 若干引かれたような気がするが、ほかにも鬼謀の元同僚の白蛇とかの死体が入ってるとか言ったらまずいだろうか。

 必要なときまで黙っていよう。


「あと、刻印魔導具で有名なのは聖剣・魔剣みたいな物かな。道具が所有者を選ぶってパターンがあるんだ。抜けないとか重くて持てないっていうくらいならまだいいほうで、中には持っただけで強力な呪いがかかったり、死んだりするようなアーティファクトもある。よくわからない禍々しいものには迂闊に触らないほうがいい。」


 あぁ、そんなやつ持ってるな。

 この世界に来た初日にそういうこと聞きたかった、聞いてもあの状況なら使えることに賭けるしかなかったけども。


 「誰でも使えるものは一般魔導具って呼ばれてるはず。百二十年くらい前まではそうだったよ。」


 忍の顔がチベットスナギツネみたいになる。

 そうか、百二十年前の情報なのか。


 「どうかした?」


 「いや、みんな強いのはいいんだけど、百二十年とか六百年とか想像つかないくらい昔の情報ばっかりで、いまいちピンとこないっていうかなんというか。」


 「旦那様はノーマルだから仕方ないさ。強い魔物は千年くらいは生きるからこれでも新しい情報なんだよ?」


 「難しいかもしれないが、時間感覚はできるだけノーマルに合わせてくれ。百二十年あったら三代目が店を継いでる。」


 ちょっと遊びに行ってくると出ていったら十年くらい戻ってこなさそうな話だ。

 さすがにそれでは話にならない。


 「努力するよ。そういえばこの従魔車は魔導ランプじゃないんだね。」


 「魔導、ランプ?」


 「知らないのかい?魔石を動力に光るランプさ。簡単に作れる魔導具だよ。」


 「初耳だ。作れるのか?」


 「ああ。せっかくだから僕がいろいろ便利なものを作っておくよ。幌は闇を付与して、車体には強化をかけよう。御者台は……」


 「…任せるよ。程々にな。」


 鬼謀はあちこち見て回りながら従魔車を改造する算段を立てていた。

 なんだか楽しそうなので、とりあえず見守ることにしよう。


 「白雷、ブラシするぞ。」


 『やったの!』


 従魔車のすみでつまらなそうにしていた白雷が体当たりでもしそうな勢いで忍の膝の上にやってきた。


 「はくらいさん、ほんとにきもちよさそうだよね。」


 「ニカの髪はツルだからな。仕方ない、頭をなでてやろう。」


 「わーい。」


 ニカはマントをつくる手を止めて忍に頭を差し出してきた。

 体は大きくても、こういうところは子供っぽさが残っていてすごくなんというかほっこりする。

 仕事中の山吹と千影には悪いが、自然と顔が緩んでくる。

 白雷のブラッシングに戻ろうとすると、従魔車をチェックしていた鬼謀が白雷の後ろにうさぎの姿で佇んでいた。


 「……きゅ。」


 「……鬼謀も、ブラシするか?」


 鬼謀は静かに白雷の反対側の膝に乗ってくる、かわいい。


 『ずるいの!白雷が先なの!』


 「きゅ。」


 「そうだな、鬼謀はちょっとまっててくれ。」


 あわや膝の上でアニマル戦争が勃発しそうになる。

 白雷の全体を一周したら鬼謀のブラッシングをしてみる。

 鬼謀は白雷よりも毛が長く、触り心地がふわふわだ。

 特に首のしたの部分は毛玉ができるくらいのふわふわ加減だった。


 「ちょっとごめんな。」


 毛玉は無理に引っ張ると痛い、指で挟んでほぐしてからブラシをかける。

 うさぎは意外と無表情だ、鬼謀もどう思っているのかいまいちわからない。


 「鬼謀も【同化】の練習しないとな。たまにこういうの付き合ってくれるか。」


 「きゅ。」


 『忍、いまなんかぴりっときたの。なに?なに?』


 「ピリッと?あ、鬼謀の目が開いたのか。白雷、肩に来て。」


 鬼謀の額の目から呪いが漏れたのだろう、白雷に一応解呪をしておく。


 『旦那様、そのくらいでどうなるわけじゃないよ。大袈裟。』


 「鬼謀、私はみんなが大切なんだ。というか失敗したときは謝りなさいな。」


 『…旦那様がいうなら。』


 鬼謀が白雷の方を向いて頭を下げた。


 「ごめんなさいってさ。わざとじゃないようだから、許してあげて。」


 『わかったの。白雷、えらい?』


 「うん、ゆるした白雷もあやまった鬼謀もえらいぞ。」


 「しのぶさん、おとうさんみたい。」


 忍ははたと我に返った、ニカの一言になんだかなんともいえないダメージを負った気がする。

 幼稚園の先生のような行動をしていたな。


 『忍はお父さんじゃないの。群れ長で強いオスなの。大好き。』


 白雷は励ましてくれているんだろう。うん、うれしい。

 しかし幼稚園の先生という単語が脳裏によぎった後に関係を持っている白雷にこう言われてしまうと、なんかやばいおっさんが小さな子を騙してるような構図が頭に浮かんでしまうんだよ。

 まったくそんなことないんだけど!まったくそんなことないんだけどっ!!


 しかも白雷はまた変身後の姿が子供だから余計に……。


 まったくそんなことないんだけど!!まったくそんなことないんだけどっ!!!


 忍は自爆を繰り返して勝手にへこんだ、これでもかとへこんだ。

 なんとかブラシをかけ終えたので、心の平穏を守るためにふて寝をしよう。


 「ごめん、寝る。」


 「あ、うん、おやすみなさい、しのぶさん。」


 「プオッ。」


 「きゅ。」


 仰向けになったら白雷がお腹の上に乗ってきた、鬼謀も右肩のところに寄り添ってくれている。

 もしかして鬼謀は白雷に対抗してるのだろうか、いや、考えすぎか。

 左手で白雷をなでて、右手で鬼謀をなでる。

 可愛い動物と贅沢な昼寝をすることで、嫌な考えを頭の隅に押し込む忍なのであった。


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