水スペ作戦と影の商人
街が寝静まった頃、千影、白雷、忍、山吹の四人はアリアンテの結界の外、かなり離れた森の中でで集まっていた。
荒事の可能性があるので、ニカは宿屋でお留守番である。
山吹も身軽さ重視でジェムロックラブの湯着だけを着てきていた。
「では、天原忍者隊、今夜の作戦を伝える。白雷が放電して蛇をおびき寄せる、放電がおわったらすぐに小さくなってそのまま待機してくれ。街からでも光は視認できるだろうけど、ここまで来るのに時間が掛かるし問題ないだろう。蛇が来なかったら場所を変えて、何度かやってみよう。山吹は私と【トンネル】で待機。」
「トンネル?白雷もかなりのものですが、そこまでする必要があるのですか?」
山吹は白雷の本気を知らないからこういうコトが言えるのか、気にしないくらい強いのかどっちなのだろうか。
グラオザームもめちゃくちゃ自信持ってたしドラゴンは種族的に恵まれているというのはよく分かるのだが。
「私も千影もある。山吹も付き合ってくれないか?」
「それはもちろんです。」
「【トンネル】、白雷、久々に派手にやっていいぞ。」
「プオオオオォォォ……。」
丘っぽいところににトンネルを掘ったが山吹は入口で白雷がどうなるか見るようだ。
ほどなくして顔を青くして後退りしはじめた。
「ボオォォオオォォオオオォォォォォ………」
「はじまったな。」
連続して雷鳴が轟く、山吹が急いで奥まで引っ込んできた。
ほぼ同時に入口が何度も真っ白に光り輝く。
『思い出しますね。合図とともに烏で周辺の探索をはじめます。』
「頼む。」
「主殿!白雷はあんな化け物だったのですか?!」
山吹も驚いたようだ、どうやら知らなかったからということらしい。
「ははは、化け物いうな。白蛇も同じくらい強いかもしれないから用意しときなさい。」
「ボオォォオオォォオオオォォォォォ………」
白雷の二度目の咆哮だ、忍はトンネルから足を踏み出した。
森では所々で火の手が上がっている。
冬ではないから山火事がおおきくなるようなことはないだろう。
【ウォーターガッシュ】で手近な火の手を消化しながら上空の白雷を確認する。
今のところ特に変わった様子はない。
『待機させておいた烏の半数が消えてしまいました。やはり白雷の攻撃範囲は恐ろしいです。』
「まあ、無差別攻撃だしね。ただこれ、明らかに喧嘩売ってるけど大丈夫か?」
以前の感覚より攻撃範囲が広い気がする、ずいぶんと火の手が回るのも早い。
周りが明るく見えるほど森の至る所が燃えている。
「とりあえず火を消そうか。【雨乞い】。」
上空に雲がかかりはじめる。
ほどなくして、大森林に雨が振りはじめた。火の勢いが衰えて森に闇が戻ってくる。
「やりすぎたな。あのときこんなにいっぱいかみなり落ちてた?」
『申し訳ありません、千影も必死でしたので。』
お互いに必死だった、なんかもうすごく懐かしく感じる。
山吹がなんだか変な顔をしていた。
「主殿、これだけのことをしてなんでそんなに冷静なのですか。」
「冷静…?」
特に冷静なつもりもないが、まあ普通の心境かもしれない。
理由があるとするならば。
「女の子に好かれる自分は想像できないけど、大災害を起こした自分は想像できるからかな。千影、死者はいないはずだな。」
『もちろんおりません。事前に確認いたしました。蜘蛛は多数倒れていますが。』
魔物はまあ、白雷の言うところの弱肉強食の掟で勘弁してもらおう。
しかしこれは二回も三回もやるわけにいかなくなったな。
「プオッ!」
「おお、お疲れ様。白雷。でもこれは被害が大きいから作戦は中止だな。」
『へんなの、こない。』
白い大蛇は影も形も見えない。
助けたモリビトのパーティもいきなり襲われたようだったし、もうここらにいないのか、それともなにか出てこない理由があるのか。
そもそもこれをやって出てくる保証もなかったし、雨で体も冷たくなってきた。
トンネルで風呂にでも入って宿屋に帰ろう。
「そういえばちょうど話しておきたいこともある、山吹、こっちへ。」
「あ、主殿。この流れでそれは恐怖を感じるゆえ、遠慮させていただきた……。」
『忍様の誘いを断る、と?』
千影の一言に山吹が土下座をした。
「いや、なんか勘違いされてない?この流れで土下座もおかしいし。話したいのは【生育】のことだ。魔力を渡す量を増やしているのを気にしてると聞いたんだが。」
「あ、ああ、はい。」
「実は、もっと渡したいんだ。山吹には白雷たちの半分以下しか渡していないから。」
「え、我も結構な量を頂いていますよ?」
『忍様が毎晩魔力を使ってくださるのは千影たちを強化するためです。それを山吹だけ受けないなどという我儘は許されません。』
「え、もしかして千影たちも辛いのか?やめたほうがいい?」
『いえ、辛いなど。むしろ至福の時間でございます。』
『白雷、好き。』
とりあえず白雷と千影は魔力を与えられるのが好きらしい。
この世界はなにか起こったときにさっくり死ぬ。
それがわかっているから、ただ魔力を与えるだけで強くなってくれるのならやっておきたい。
「まあ、それで、少しづつ量を増やせばと。出会ったときのことがあったから心配なのもわかるからな。もちろん、きちんと調整はしているが。黙ってやったのはすまなかった。」
「わざと増やしていたということですね。ほんの少しだったので無意識に増えてしまっているものかと、しかし主殿はあんなに細かい加減が可能なのですか。」
大雑把な山吹に言われるといまいち凄い気がしないが、調節ができるのは事実だ。
特にグラオザームのことがあった後は集中して調整している。
無理強いする気はなかったが、白雷に驚いているのではちょっと心配だ。
「まあ、それで山吹にもニカや白雷と同じ程度の【生育】を受けてほしいんだ。蛇も白魔ってことは白雷くらいのことはできそうだし。」
「う、たしかに先程の白雷を見てしまうと…というか選択肢などないではないですか……」
山吹が忍におずおずと手を差し出してくる、なんだか反応が新鮮で目覚めてしまいそうだが、ここからがニカがいないタイミングでこの話を切り出した真の狙いである。
「精一杯優しくする。すまない、山吹。命令だ、動くな、声を出すな。」
仮になにかがあった時に暴れられればボボンガルの二の舞いである。
山吹の目が言ってることとやってることの違いをめっちゃ責めてきてるけどここは心を鬼にしないといけない。
『山吹がいけないのです。忍様の好意を無下にするなど従者にあるまじき行為ですから忍様が責任を感じることなどございません。』
「こんな機会はそうそうないし、今夜は時間をかけてたっぷりと注ぎ込んでおこう。」
一晩かけて山吹に【生育】の魔力を何度も注いで慣れさせた。
とりあえずはこれで戦力強化もうまくいくと思いたい、どれだけ効果があるかはわからないが。
山吹は魔力を注ぐことに慣れたものの、忍を見つめてくることが多くなった気がする。
「すまない、やはり荒療治だったか。」
「いえ、我の見通しの甘さゆえ。いままでの分を取り戻すためにも、どうぞたっぷりと注いでいただきたいです。」
恨まれたのだろう。なんだかねっとりとした視線を向けてくる山吹に負い目を感じる忍なのであった。
宿屋で仮眠を取ると時刻は昼過ぎになっていた。
山吹に【生育】をしていても蛇は現れず、最終的に朝までかかったために結局風呂にも入っていない。
山吹は途中で全盛期の六割位の力を取り戻していると話していた。
やはり六百年という長い間監禁されて生き残ったドラゴンは魔力量もすごかったのだろう。
それでも白雷と戦ったらわからないと言っていたが。
「しのぶさん、きのうへやでかんがえたんだけど、わたしまだぼうけんしゃじゃないよね。」
「ああ、それもあったな。しかし、ニカは攻撃がどこに飛ぶかわからないからな。」
山吹のヘルムに当たった光線を思い出すと恐ろしい。
「おきゃくさんにきいたんだけど、【ライトフロート】がつかえればぼうけんしゃになれるんだって、ほんとかな。」
「そうなのか?」
それが本当ならニカはいますぐにでも冒険者として身分証を貰えることになる。
【ライトフロート】光の魔法の初級で周りを照らす光の玉を作り出す魔法だ。
【ホワイトフレイム】と同じくただの明かりなので従魔車で移動するときにランタンにくっついて移動するようにニカに練習させていた。
光の魔法は中級まで使えるのだ、攻撃以外。
「用事もあるし、ためしにいってみるか。」
「やった、ありがとしのぶさん。」
ついでに湖の方に行くルートとか、魔物やら集めると売れる植物の情報も集めよう。
冒険者ギルドになら白蛇の情報もあるかもしれないしな。
アリアンテの冒険者ギルドは街の中心部の大きなツリーハウスだった。
到着した日には蜘蛛の魔石を売ってすぐに行商人ギルドに移動したのでゆっくり見て回る余裕はなかったが、売店コーナーが魔法屋のような品揃えだ。
そしてここの受付は人が多く並んでいる、行きづらい。
忍が人混みに二の足を踏んでいると、ニカが普通に受付に並んで手招きをしている。
これだけですごく助かる、ニカが味方で良かった。
「【ライトフロート】が使えれば冒険者登録ができると聞いてきたのですが、本当ですか?」
「はい、条件付きでご登録できます。攻撃以外の呪文を中心とする魔法使い様や魔術師様は守ってもらえるパーティに加入している場合に限り登録することができます。」
「二カ、大丈夫みたいだ。この子の登録をお願いします。私のパーティで一緒に活動しますので。あとは情報ですね。」
「かしこまりました。では、こちらの用紙のご記入と、パーティ名をお願いします。情報のやり取りは個室になります。」
「パーティ名は無いんですが、忍と山吹という二人で登録しています。」
「ああ、できればパーティ名をつけていただけると手続きがスムーズです。あとで変えることもできますのでよろしくお願いします。」
受付のお姉さんは追加でパーティ名の申請用紙をわたしてきた。
仕方がないのでニカが用紙を書いている脇で忍は名前を悩みだした。
『主殿、名前は主殿の好きな名前がいいです。我らはそれに従います。なので、ササッと決めてしまいましょう。後ろが・・・』
山吹が忍の肩に手をおいて思念を飛ばしてきた。
いつの間にか後ろに並んだ人が誰もいなくなり、他の受付の列が増えている。
忍が名前を悩みすぎて受付を占拠してしまっていた。
名前を考え出すと長い忍の悪い癖である。
やばい、忍者といえばなんとか衆とかなんとか組のようなイメージがあるが、パーティ名はいわば表の名、世を忍ぶ仮の名前だ。
すると、それっぽいけどパーティ名簿に埋もれるような微妙な名前がいい。
いままでのパーティ名はパーティの特徴を表していることが多かった。
水魔法使い、怪力の魔人、可愛いくて大きな女の子、ごった煮すぎるな。
中心とする依頼は討伐と採取になるはずだ、その方向だとバスターズとかハーヴェストだろうか。
ハーヴェストはソウルハーヴェストとかぶるな、バスターズは戦わなきゃいけなくなりそうで嫌だ。
そういえば、フォールンが布教をしてくれと言ってたな、その関係の名前にしようかとも思っていたんだ。
んー、なにかないだろうか、なにか。
「あ、ミスフォーチュン。」
「え?」
「ミスフォーチュンにしよう。」
忍は返事を待たずにカリカリと書き込んで提出してしまった。
長い間待たされていた受付の女性がやっと決まったのかと疲れた表情を浮かべる。
ニカも忍の横でサラサラと書き込んで提出する。
「すみません、名前に悩む質でして。」
「いえ、お決まりになったのなら良かったです。手続きを進めさせていただきますね。四八番でお待ち下さい。」
一時間位受付の前で悩んでいたらしい、足が少し痛い。
待合のソファに座ると足がずいぶんだるくなってしまった。
受付さんもパーティ名をつけろといった手前、受付のとこから追い払うのが気が引けたんだろうか。
『忍様、この名前に意味などはあるのですか?』
「まあ、フォールン様関係かな。」
ミスフォーチュン、不幸という意味を持つが分解するとミスとフォーチュンになる。
ミスはミスコンとかで美人という意味で使われるし、フォーチュンは幸運という意味を持つ、忍以外が美人のこのパーティではいいかと考えたのだ。
そして、【不幸】という任意発動能力を忍は持っていた。
使ったことがないからすっかり忘れていたが、女神からもらう能力としてはどうなんだと頭が痛くなった覚えがある。
この能力、使う機会が来るのだろうか。
「お、ニカちゃーん、うちのパーティに入ってくれる気になった?」
「あ、お客さん。もー、それは昨日お断りしたじゃないですかー。」
手続きを待っている最中にモリビトのパーティがニカに声をかけている。
相変わらず大人気なのを横目に観察していると山吹がいいタイミングでニカの傍に行って圧力をかける。
ここらへんの流れもしっかりと構築されてきたな。
やはりフルプレートアーマーの威圧感はかなりのものがあるらしく、山吹が近づくといきなり男たちが敬語になったりそそくさと何処かに行ったりする。
他人のこういうのはちょっと面白い、特番のびっくり映像特集を思い出す。
そして少しくすっと笑った後に忍もそうなのだと落ち込むのだ。
一人になると周りの会話も耳に入ってくる。
「東側の森で火事が出たって本当かよ、この時期だぞ?!」
「なんか、真っ白なでかい光がかみなり落として森を燃やしまくったらしいぞ。」
「それ、まさか白光の笛吹なんじゃ。」
「あれは船乗りの伝説だろが。なんで森に出るんだよ。」
聞かなかったことにしとくか。
「四八番のかたー、二番受付までお越しください。」
ニカと山吹が受付の方に行ったので忍も後ろから合流した。
「では、この中に【ライトフロート】をお願いします。」
「はーい。よっと。」
受付のお姉さんに促されてニカが黒い箱のようなものの中に【ライトフロート】を浮かべた。
「はい、問題なしですね。会員証は、お帰りの際にお渡しします。」
「やった。」
「おめでとう。これで国境も通れるな。」
パーティ単位じゃないと仕事を受けたりはできなそうだが、身分証として問題はないだろう。
外で待っている白雷にも悪いので、さっさと情報も聞いてしまおう。
ニカと山吹を置いて個室へと向かう。
部屋の中で座っていたのは痩せぎすのギラギラした目をした男だった。
マントの前を閉めてフードを目深に被ってはいるが、細かい武器を隠し持っていそうな風貌と雰囲気をしている。
暗殺者や盗賊のテンプレみたいだ。
右手で小さく指揮者のようにリズムをとっていた。
「あっし、情報を生業としていやす。ロンダートと申しやす。以後、お見知りおきを。」
「ミスフォーチュンの忍です。冒険者ギルドの職員には見えないのですが、わたしの勘違いでしょうか?」
「ははは、まっすぐにきやしたね。ビリジアンは古い制度が残ってやす。影の商人っていいやしてね。まあ、ならず者の集まりでさぁ。」
頭が痛い、接触もなかったのでないものとして考えていたが、おそらくこれは盗賊ギルドのことだろう。
一番情報を握っていて、一番信用できない組合といったところだろうか。
「なるほど、これはどこでも情報を信用しづらくなってしまいましたね。情報操作、お手の物なんでしょう?」
「アサリンドからおこしにしては我々のことがわかってやすね。直接買っていただければ確かな情報だけをお出しできやす。ぜひご贔屓に、蜘蛛殺しの旦那と闇の精霊さん。」
流石に耳が早い、これはうまく付き合うしかないやつだ。
こちらのこともわかっていて話を振ってきているな。
「では、何の情報をお売りしやしょう。」
「いや、情報を買う前に用件を聞きましょうか。でなければ、わざわざ盗賊の格好で私の前に現れて盗賊ギルドがあることを説明してくる意味がないでしょう。」
「盗賊ギルドとは人聞きが悪いでやす。でも、旦那は慧眼でやすな。あっしの目的は、ちょっとしたおせっかいでやす。忍さん、この国を出ていってくれないでやすか?」
そういうとロンダートは忍の置かれた状況を話しはじめた。
「いま、忍さんは極秘裏に狙われてやす。相手はビリジアン森林国騎士団の副団長でやす。蛇の入れ墨の神官を探してやしたでしょ。」
『忍様、脈絡がなさすぎる話です。ここは突っぱねるべきかと。』
「……あー。中間を飛ばしてこっちの情報を探るのやめてくれませんか?私はほとんど情報なんて持っていないし、持っていても現時点で有益と思ってないんですよ。」
忍は千影に考えを開示する。
ビリジアンの王が変わったのは約一年前、忍がこの世界に召喚されたのもだいたい一年前、蛇の入れ墨の神官が国王なら騎士団が動くのも納得がいくし、召喚された勇者が国王にとかよくある話だ。
いきなり国王になるというのはよくわからないが、神の使者は本来ならばそれぞれの信仰篤い国に出現するようだし、考えたくはないが洗脳のような能力でも不可能じゃない。
忍もそれに近い能力を保有しているのだ、筋は通る。
騎士団の目的は口封じが妥当か、神託だから外に出ていない情報を忍が知ってしまった可能性がある。
そして忍と騎士団がぶつかるのは影の商人にとって不利益になると、いや、ぶつかってほしいのか。わからん。
「わかりやした。ではここからは商売と行きやしょう。いい情報は買い取りやす、お望みの情報は売らせていただきやす。」
さて、聞きたい内容が変わってきてしまった。
もちろんまったくの的外れの可能性もあるが、国外に逃げたとして暗殺の追撃が止まる保証がないのが一番のネックだろう。
かといって騎士団の副団長とかいう顔もわからない相手を殺しに行くわけにもいかないし、殺したところでどうにかなるとは限らない。
手詰まり感があるな。
「その前に、なんで私におせっかいをする気になったかは教えてくれないのですか?」
「内緒でやす。」
「えー、じゃあ、影の商人は暗殺を請け負ったりしますか?」
「そんな事はできないでやす、あくまで情報屋でやすよ。影には影の掟があるでやす。」
「では、騎士団副団長の情報がほしいですね。」
「このくらいでやす。」
差し出されたメモにはに大銀貨一枚と書かれている。
忍はメモの上に大銀貨を一枚おいた。
「騎士団副団長、ベルガ・オーキッド。王の第二婦人でやす。子供を生んで復帰したばかりでやすが剣士としての実力は折り紙付き。気が短いところがありやすが貴族の家に生まれ高い教養も備えた才女でやす。王にくっついて湖の町オーチュルに滞在してたでやすが、少数の兵を引き連れてアリアンテに出立したようでやすね。女性であることが原因で騎士団長になれていないともっぱらの噂で、本人もそれを気にして手柄を立てることに躍起になっているでやす。暴走しがちな人でやすね。不正や謀略とは無縁であっしらとは水と油でやす。」
ロンダートはメモを引き寄せて大銀貨を懐に仕舞った。
情報はここまでらしい。
暴走しがちとわざわざ付け加えたところを見ると影の商人からも厄介な人物なのだろうというのが想像できる。
そして第二夫人だそうだけど、これはもしかして。
「王の奥様方は四人いらっしゃるんでしたっけ?モリビトの方もいらっしゃるとか。」
「そうでやすね、第四婦人はモリビトでやす。」
神託を思い出す。
うーん、王宮のゴタゴタに巻き込まれるんだろうか。
ゲームで言えば盗賊ギルドの情報は信用できるっていうのが定番なんだけど、ここ、現実なんだよな。
手放しに信じることができない、おせっかいの理由も教えてくれないし。
「白い大蛇に関する情報があれば、居場所含めてお願いします。」
「居場所はつかめないでやすが、このくらいで。」
これも大銀貨一枚か、忍はメモの上に料金を置く。
「目撃情報はビリジアン全体で数年に一回程度あがるでやす。人を襲ったって話もあるでやすが、半分はガセで半分はパニック起こして攻撃してるでやすね。ビリジアンの狩人は一人でも狩りをするでやすが、蛇の音が聞こえたら動くなとよくいうでやす。下手なことして刺激すると命が危ないでやす。」
「蛇の音ですか。太鼓のような音というやつですか?」
「いえ、シューシューという空気の漏れるような音でやす。太鼓のような音が鳴ったらすぐ襲われるでやす。」
話し終わったのだろう、ロンダートはまた料金を懐にしまう。
あまり深いことを聞いて偽情報をつかまされても困るし、かといって情報なしに動くには事態がまずい。
忍の質問が止まると、ロンダートは懐から古びたコインをとりだした、素材は鉄のようだ。
「なにかあったときはこれを机において飲んでいれば、お声がけしやす。それではあっしはこれで。」
音もなくロンダートは個室から出ていった。
さて、どうするか。
『忍様、早急に対策を練ったほうがいいかと。』
「そうだな、地図を買って街をでよう。目指すは湖だ。」
今までも神託に出てきた場所を目指せば何かしらの進展があった、
そこに期待して先に進むことを忍は選択したのだった。




