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【第三の目】

 忍が千影の血の気の多さに思い至らなかったことで、ニカは半日近く千影のお仕置きを受けていた。

 発見したときは目の焦点があっていない状態でずっと謝罪の言葉を呟いていたが、鬼謀の知識と忍の買ってきた耳飾りのおかげでだいぶ落ち着いた。

 テントから出てきた鬼謀が忍の横に座る、忍は追加の薪を焚き火にくべた。


 「寝たよ。話は聞いたけどニカが悪いね。」


 「鬼謀もそう思うのか?」


 「いや、旦那様が気絶するような一撃でしょ?僕でもニカを取り押さえるよ。」


 「いや、そこは取り押さえてほしいんだけどその後がな。私のものの処分は私が決める。これはやりすぎだ。」


 こう言わないとみんななかなか納得してくれない。

 ちなみに千影は忍から離れるのが罰ということで買い物中のファロたちの護衛をさせている。

 烏がずっとくっついてくるので本体の位置が変わっただけなのだが、それなりにダメージはあるようだった。


 「そうだ、あの耳飾り知ってて買ってきたの?珍しいものなのに。」


 「いや、ちょっとピンときただけだ。」


 鬼謀によると巻き貝の耳飾りは潮騒の音色というアーティファクトだった。

 効果は身に付けた者の精神を落ち着けること、つけて休んでいればゆっくりと回復させることもある。

 一気に改善するような劇的な作用があるわけではなく珍しい魔導具のため、好事家でもない限り知りもしないようなものらしい。

 もっててよかった【第六感】。


 「で、第三の目でなにができるかだっけ。結論から言うと持ち主によってまちまちみたいだよ。」


 「そうなのか?」


 「僕も文献を真似して覚えただけだからね。魔眼とか邪眼とか呼び名は色々あるけどこれらは呪いに分類される。透視とか遠見みたいなものから、火を出したり物を動かしたり、珍しいものでは未来が見えたり急所がわかったりすることもあるみたい。意識を集中したり目的のものを睨みつけたりすることでなにか起こるっていうのが共通かな。」


 忍は落ちていた木の枝に目を凝らしてみるが何もおこらない。

 鬼謀が上げていく例を意識して一つづつやってみるが結局どれもできなかった。


 「これだけか。」


 不意に見つけた鳥に目を凝らすと【白蛇の凝視】が発動する。

 鳥はその場で羽ばたきをやめて真っ逆さまに落ちてきた。

 慌てて忍が解除するとなんとか体制を立て直し地面に降り立った。


 「凝視は珍しくはないけどかかれば強力だよ。ただ、使いながら動けるようになるには練習が必要だけどね。使われたら無理やり動くか相手の気をそらすといいよ。」


 「動きを止めてるだけなら命の危険はないんだよな。」


 「うん。」


 「試しにかけてみるから力で破ろうとしてもらっていいか?」


 「そうだね。僕もどのくらい強力なのか気になるし。」


 鬼謀が立ち上がって数メートル移動した。

 忍は深呼吸をして鬼謀に凝視を発動する。

 抵抗されているのかどうかすらわからなかったがしばらくして解除すると鬼謀から太鼓判をもらった。


 「もう一つ試してみたいんだ、もう一回凝視をかけるぞ。」


 忍が目をつぶって集中すると段々と周りの景色が脳内に浮かび上がってくる、焚き火の揺らめき、枝の揺れ、鬼謀の呼吸もわかる。

 そして意識を鬼謀に集中し先ほどと同じように凝視をかけた。

 ギシッと鬼謀の全身に力がかかったのがわかった。

 同時に鬼謀には真っ白な蛇をかたどった魔力がまとわりついている。


 鬼謀は微動だにしない、抜け出そうとしているようだが実際のところは指先一つ動いていない。

 段々と鬼謀の体から力が抜けてきたのがわかって忍は慌てて凝視をやめた。


 「鬼謀?!」


 目を開けると鬼謀の体が崩れるように倒れた。


 「え?!どうした?!【ヒール】!」


 「がはっ!ごほっごほっ!」


 抱き起こしながら【ヒール】をかけると鬼謀が咳き込むように意識を取り戻した。

 忍を確認するとそのまま息を整えて話しだす。


 「凝視にかかった瞬間、息が、止まったんだ。そのまま、意識を持ってかれた。」


 「命の危険!」


 「あったね、命の危険。勉強になったよ。というかなんで目を閉じてたのに発動したのさ?ほんとに凝視なの?」


 「強力な凝視なのは間違いない。ただ、その、説明が難しいんだが。まあ、休みながら聞いてくれ。」


 心眼の概念をなんとか説明しようとするが忍の拙い説明では鬼謀に理解させることは難しく、最終的にそういうものだということで落ち着いた。

 目を使わないのに【第三の目】という忍と同じところで躓いていたので解説できるわけもない。


 「旦那様、言いにくいんだけど、これは凝視じゃないよ。死眼だ。」


 「死眼?」


 「伝説の中に出てくる睨んだだけで生き物を殺す力だよ。凝視とは似てるけど効果が違う。」


 「んー、同じものなんじゃないか?凝視の強力なやつが死眼、息をすると胸が膨らんだり萎んだりしてるだろう、それが止まるんだよ。」


 鬼謀は得心がいったようでぽんと手を打ち魔導書を取り出して書き込みはじめた。

 わかったことは同じ能力でも【第三の目】で使ったときのほうが効果が強力になっているということだ。


 忍はその間に心眼状態で使える【第三の目】に関する能力を試してみる。

 最終的に心眼でできるのは、物を見通す透視、視界を範囲内のどこにでも飛ばせる俯瞰、壊れやすい弱点がわかる崩点、相手の正体や本質が見える慧眼の四つが複合しているのではないかと結論付けた。


 透視は文字通り物が透けて見える。


 俯瞰というのも普通は上空から周りを見られるだけのようだが、忍はバーチャル空間のフリーカメラのように視界を飛ばしたり対象に近づけたりすることができた。


 崩点に関しては触る程度ではなんともないが意識して叩くと簡単に石を割ったり木を折ったりすることができた。

 忍が動くとすぐに第三の目が途切れそうになるので今のところ実用性はない。


 慧眼はなんというか霊感のようなもので変身した相手の元の姿が重なって見えるという以上のことはわからなかった。


 これらに加えて感知系の能力がわかりやすく視覚化される特典付きである。

 常に目をつぶって歩いたほうがいいような気さえしてきた。


 「んー、あれ?」


 調子に乗って色々試しているとだんだん頭がぼうっとしてきた。

 どうやら長時間の連続使用はできないらしい、ここらへんも後で調べておこう。

 集中を解いて休んでいるところで鬼謀の書き込みと考察も一段落ついたようで、満足そうに本を閉じるとそういえばと切り出した。

 

 「忘れてた、ミネアが訪ねてきたよ。明日の昼にギルドに来てほしいって。」


 呼び出しを受けるようなことがなにかあっただろうか。

 忍に心当たりはなかったが行商人ギルドで聞いた港での騒動が話が頭をよぎった。

 ニカが目を覚ましたらそこら辺も聞いておかないといけない。

 

 『忍様、只今戻りました。』


 「……ファロたちの姿がまだ見えてないんだけど?」


 『すぐに着きます。』


 夕日も落ちかけて気温も下がってきた、フライング気味に戻ってきた千影にため息を付いて忍は夕食の下ごしらえをはじめるのだった。


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