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謎の結界とヒラサカの館

 忍には何が起こったかわからなかった。

 怒りが一気に霧散して疑問が頭を一杯にする。


 「ご主人様、大丈夫ですかもー?!」


 ファロが起こしてホコリを払ってくれるが顔から直撃した忍はまだぼうっとしていた。

 困惑しながら開いている門を指差しついてきた三人を振り返る。



 な・に・こ・れ・?



 口だけを動かして講義するもその三人にも何が起こっているかわからないようだった。


 「壁……のようですね。結界でも張ってあるのですか?」


 「なに?」


 忍の代わりに何やら調べていた焔羅が後ろの三人に聞いているが、一人が同じように門の前に来て空中を触る。


 「お前らがなにかしたわけではないのか?」


 「自分でやっといて顔からぶつかりませんよ!」


 【ウォーターリジェネレーション】をかけつつ思わず声を荒げる。

 この三人もこの壁についてはわからないようだ。

 壁は門だけではなく左右の外壁に沿ってまだ続いていそうだ、おそらくは屋敷全体を囲っているのではないだろうか。


 「帰れないんですが。」


 忍が睨むと一人が確認のため屋敷の方に走っていった。

 残りの二人には警戒されているのだが、正直もうパーティとかどうでも良すぎてここで待たされるのも馬鹿らしくなってきた。

 ソウルハーヴェストで突けばこの結界は割れるだろうしそのまま帰ろうか。


 『ご主人様、もう少しです、我慢しましょう。』


 焔羅がそんな念話を送ってきたので忍は手持ち無沙汰になった。

 そんな様子を察したからかファロが四つん這いになった。


 「ご主人様、どうぞですモー。」


 「……なにしてんの?」


 「椅子ですモー。」


 「やめなさい。あー!ドレスに土が!」


 さっきの食堂でやらせてたやつがいたからだろうか、まるで山吹のようなことをする。

 人間椅子は座面、背もたれ、肘掛けで最低四人からだし…いやいや何を考えている。

 意図せず憧れのシチュエーションが訪れて思考が乱れてしまった、しかしこのことが停滞した場に変化をもたらした。


 「……奴隷に、座らないのか?主人だろう?」


 ものすごく意外そうに一人がそう声をかけてきた。

 それだけでどれだけアサリンドの貴族が奴隷を虐げているかがよく分かる発言だ。

 警戒は緩んでいないが、なんとも微妙な気分になる。


 「私は貴族ではありませんので。ファロは奴隷ですがどう扱うかは私の勝手でしょう。」


 「待ってください、貴方はファロがなぜ奴隷だと?」


 「シジミールで随伴者を雇うならヒラサカの館だろう。違うのか?」


 忍とファロと監視の二人が全員首を捻っている状況で焔羅だけが納得いったとばかりに落ち着いていた。

 混乱した忍たちに焔羅はゆったりといまのやり取りを解説した。


 ヒラサカの館というのは少なくとも五年以上前からシジミールで随伴者の派遣をしていてそこの随伴者はみんな奴隷だという。

 どんなことを命じても全く反抗しない奴隷というものは貴族たちの欲望と自尊心を大いに刺激し、アサリンドの貴族社会に奴隷というものを広く浸透させた。

 奴隷売買禁止のアサリンドの法をかいくぐった行いが問題視されたときには、貴族の中で奴隷というものが必要なのではないかという論調が出来上がってしまっており、ヒラサカの館もまた大きな力を持つ組織となっていた。


 そのせいで無茶な要求をする貴族も増え、随伴者はほぼヒラサカの館の独占市場になっている。


 「ファロとわたくしはヒラサカの館の奴隷と勘違いされたんですね。」


 「奴隷と一緒にするなど、失礼をした。お二人は随伴者の経験が?」


 「ビリジアンで一通り習いましたモー。私達はご主人様の個人的な奴隷ですモー。」


 「っ!すまない、主人の許しなく口を利かせてしまった!ご主人、彼女たちを責めないでやってくれ!」


 ものすごく正しい対応されてるのにいたたまれない、この男は奴隷に対して少なくとも同情しているようだ。

 忍が奴隷を普通の人のように扱っていると説明すると更に驚いた様子だった。


 喋っていた男の方はガリ、後ろで警戒していた男はギリと名乗った。

 ふたりともソン家に仕えており本日はパーティの警備として応援に来ているのだという。

 屋敷までの距離を考えるともうひとりが報告して帰ってくるまでまだまだ時間がありそうなので、忍は底なしの指輪から唐揚げの皿を取り出し、竹串で刺しながら食べはじめる。

 焔羅が上品に食べてる、やればできる子。


 唐揚げはマカマカもミットレイもたっぷりと使っているため冷えてもかなりいい匂いが周りに漂う。

 ファロと忍がお腹を落ち着かせる程度に留めたのに対し、焔羅は上品に唐揚げを食べ進め皿を空にした。

 次にパンを取り出したところで三人分の視線に気づく。

 ガリと、ギリと、垣根のなかによだれを垂らしている猿顔の男がいた。


 忍はパンを持ったまま固まるが男の熱い視線はパンに注がれている。

 左右にゆっくり動かすとそれに合わせて男の目が泳ぐのだ。


 「……ディグ様、何をしてらっしゃるんですか?」


 ガリに名前を呼ばれた猿顔の男はみるみる顔が真っ赤になっていくが、そのあいだにギリが後ろからがっしりと捕まえた。


 「うわぁ!はははなして!」


 「またパーティから逃げ出してきたのですね!このままでは行き遅れてしまいますよ!」


 「わわわ私は結婚しない!じ従魔と一緒にいられればいいんだ!」


 暴れる猿顔に悪戦苦闘しているガリとギリ。

 その間に焔羅が彼のことを補足してくれた。

 ディグ・ソン、ソン家の長男で跡取りになるはずの男だが極度の人間不信で普段はソン家の従魔の寝床に引きこもっているらしい。

 そのせいで焔羅も顔を把握していなかったのだが、よく見ればディグは先ほど庭で会釈をした猿顔の男だった。

 あの調子で逃げ回っていたのなら軽食や飲み物など全く手を出せなかっただろう。

 なんとなく事情を察した忍は唐揚げをもう一皿用意した。

 そのにおいでピタッと止まったディグはもはや猿にしか見えなかった。


 最終的に二皿目の唐揚げはディグ、ガリ、ギリ、焔羅の四人によりきれいに平らげられた。

 食事をしている間に雰囲気はずいぶんとゆるくなったがディグはガリの後ろに隠れて一言も喋ろうともしない。


 「申し訳ございません。ディグ様は大変繊細なお方でして、使用人の中では私としか話をできないのです。お料理を提供していただきお礼を申し上げます。」


 「私も気持ちがわからなくもないので。よかったですね、足止めをされたおかげでディグ様も唐揚げを食べられて。」


 ガリは食事を提供したこともあってか忍たちをお客様扱いしてくれるようになっていた。

 ディグがこそっとガリに耳打ちするとガリが代わりに喋る。


 「唐揚げというのですか。ディグ様も気に入ったようでして、どこで売っている料理でしょうか?」


 「これは私が作ったものなんです。あ、申し遅れました、冒険者の忍です。こちらのモリビトがファロ、仮面のほうがエイラといいます。」


 「冒険者?いや、それではこの料理は……」


 「売っていません。そんなに難しくはないのですがいろいろと高く付きますよ。油も香辛料もたっぷり使ってますからね。」


 なんだか微妙な顔をしたガリはそれ以上はつっこんでこなかった。

 元冒険者なのだから料理をすることくらい妙なことでもなんでもないと思うのだが。

 唐揚げの立ち食いが終了した頃にきらびやかな集団がこちらに走ってきた。

 どうやらなにかに追われているようだ、忍はすぐに門を確認するが結界は解除されていない。


 「まずいですモー。あれに飲まれると身動きが取れないですモー。」


 「庭へ!御三方も早く!」


 ガリとギリの誘導で忍たちはきらびやかな集団に道を譲った。

 嫌な予感は当たるもので、どうやらなにかがはじまったようだった。


 お読みいただきありがとうございます。


 「続きが気になる」と少しでも感じましたら、ブックマークと↓の☆☆☆☆☆から評価頂けますと嬉しいです。

 いつの間にやら反応が反映できる新機能もついたようなのでお気軽にポンと押していってください。


 是非ともよろしくお願いいたします。

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