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力技

 ペンタルンまで大急ぎで飛ばし、翌日の午後には鬼謀と合流できた。

 潜伏していたのは何の変哲もない普通の家だったが、なんだかいろいろな結界が張られている。


 「ずいぶんと念入りだな。何かあったのか?」


 「それがちょっとやっかいそうなのがいて。」


 「鬼謀がこんなに警戒するほどか……。」


 「いや、強い弱いはわからないんだけど不意打ちが怖かったからさ。」


 鬼謀が事の顛末を忍に話すと、忍はニヤリと笑った。


 「なるほど。そいつはぜひとも確保したい。作戦は決まってるから夜まで休もう。」


 『活躍の機会をくださりありがとうございます。この千影、必ずや成し遂げてみせましょう。』


 『おもいっきり行くの!』


 「え、え、え?ちょっと、僕にもわかるように説明してよ。」


 「鬼謀、私は調子に乗っているんだ。そして、怒ってもいる。だから最も雑で最もアホっぽい作戦を提案した。」


 忍はもったいぶって深呼吸をした、太陽のような笑顔で作戦名を発表する。


 「街の人、全員眠らす大作戦!」


 鬼謀が口をあんぐりと開けて目が点になった。


 「まーまー、この作戦は速度が命だから説明は後で。あれ、鬼謀ー?」


 『ビリってするの?』


 「おちつきなさい。まあ、私は寝るので説明は後でかな。」


 固まった鬼謀に速攻で電撃を浴びせようとする白雷を止める。

 テンションが上りすぎてすでに雷を纏っている、なんだかこちらの肌もチリチリしている気がした。

 眠いので忍は先に休むことにする、頭の中の不安を振り払うように目をつぶった。




 ペンタルンは湾に沿って三日月型に発展した街である。

 湾の半分くらいのところまで街が広がっているのだが、陸路の門は二箇所だけだった。

 忍はまずシジミール側の門の外に出て、街から適当に離れたところで影分身を使い大量の烏を生み出した。

 忍と鬼謀は白雷に乗って超特急でライジン側の出口近くに移動し、白雷は海へ飛び去っていった。


 高速移動に目を回している鬼謀が起きない。

 小動物はたしかさすって温めるといいんだったろうか、背中をさすってみるが反応するものの起きない。

 お腹側もさすり、袋に手がかかりそうだったところで飛び起きた鬼謀に手を叩かれた。


 「きゅ?!きゅー!!きゅきゅきゅきゅー!!!」


 「おお、おはよう。ごめん、何言ってるかわかんない。」


 『えっち!すけべ!こんなとこで襲うな!!』


 「ぐほっ!」


 鳩尾に飛び蹴りが入り忍の体がくの字に折れた。強い。

 

 『で、落ち着いたならせつめいしてくれない?』


 「はい。たぶんすぐ白雷が……。」


 ボオオオォォォオオオオオォォォォ………


 ゴロゴロゴロゴロ……ドドン!ピシャァン!

 

 突然の轟音に鬼謀は思わず耳をふさいだ。

 門番は突然の轟音に街の中に入っていく、きちんと仕事してる。偉い。


 『第一段階、白雷がブラスタートルを片付けてるんだ。さて、どこから話そうか。』


 忍は地べたに座り込み、鬼謀を膝の上に乗っけた。

 そのまま出口を監視しながらゆっくり顛末を話し始める。


 ミネアが調べた内容には取引相手の組織の詳細はなかったのだが、裏稼業の動向から近々大きな動きがあるというのは明白だった。

 大盤振る舞い、発覚するのもお構いなしといった勢いで身分の偽造や内部資料の改ざんなどを行っていた。

 発覚した直後にブラスタートルの群れが図ったようにペンタルンを霧で包み、ミネアたちは逃亡生活を余儀なくされた。


 逃亡生活の間にウィンは情報収集と撹乱も兼ねて街を回っていたが、住人が避難するにつれて二人は動きづらくなり追い詰められていたらしい。

 しかし、ある時期から街を走り回る奴らの動きが変わり、人のいなくなった建物などを漁るようになった。


 「鍵なんてどうやって探すんだ?」

 「まて、俺は箱って聞いたぞ?」


 たまたま耳にしたのははそれだけ。

 そのうち街は住人よりも冒険者やならず者のような身なりの奴らばかりになってしまった。


 『これが、冒険者ギルドで聞いた話だな。で、関係者リストももらってきた。』


 『うん、まだ話が見えないね。』


 『で、次に白雷の話を聞いたんだ。』


 白雷は雲の味見をしにいった。

 ブラスタートルの群れに集まる魔物の中にはストームユニコーンも含まれていたので何の気なしに送り出したのだが、帰ってきた白雷はなんだか微妙な雰囲気だった。


 『なんか、おいしくなかったの。みんなも来てないし、黒いのとかぶよぶよとかもいなかったの。おいしくないからなの。あと、船が残ってたの。あーいうのすぐに沈んじゃうの。』


 白雷の言うことは抽象的だ。

 詳しく聞いてみると集まってくるはずの魔物が集まってきておらず、普段はすぐに遊び道具にされて沈んでしまう船も海の魔物に破壊されずに残っているということらしい。


 白雷の雷はまだ落ち続けているが、霧は少し薄くなった気がする。

 鬼謀と二人、時々大音量にびっくりしながら念話を続ける。


 『ブラスタートルの群れがおかしくて魔物も寄ってこない……もしかして従魔?』


 『そう、私もそう考えた。それだったら船を壊さないのも納得がいく。シジミールから攻め込まれたときの逃亡手段じゃないかな。』


 『それじゃ、ブラスタートルは氷座党がやってるのかも。こっちも焔羅と話したんだけどさ、氷座党のこと詳しく聞いたら生暖かい霧って話がでてた。まだなにか探してるから探し物も見つかってないんじゃないかな。』


 『それならまだ上のやつが残ってるかもな。家探しには時間切れがあるから。』


 『時間切れって何?』


 『自然現象には持続時間があるってこと。ブラスタートルの群れがこれ以上ペンタルンに居座れば変だと気づいた誰かが調査なり何なりするかもしれない。戦争中なのに国民がのんきにしてるんだから冒険者ギルドもある程度仕事するだろうし。』


 やっと前置きが終わったらしく忍は一息ついた。

 落雷の光が消えて音が鳴り止み、街を覆っていた霧はゆっくりと消えていく。

 鬼謀はまだよくわからないようだ。


 『冒険者ギルド離反組、氷座党、ガスト王国の組織、結託してるのか別物なのか、目的やら何やらほぼ何もわかってない。しかし、この騒動はなんだか計画的に動いているフシがある。戦力なんかもほぼわからない。』


 『うん、僕ならこの段階で作戦なんて作れないね。』


 『鬼謀は頭がいいからな、作戦だと思ってないんじゃないか?相手の体制や罠ごと力技で押しつぶすこと。』


 「きゅーっ?!」


 鬼謀が声を出して忍を見上げた。

 不安で仕方ない、なんとも言えない表情だった。


 『鬼謀も別行動に慣れろって言ってただろ。千影も白雷も別行動ができるなら、この方法は有効で一番早い。リストにも強力な精霊使いはいないし、計画を重視している相手ほどこういう速攻の力技には対応しきれないものだ。街に残っている人数が少ないなら、まず対応できないだろうさ。』


 『旦那様、震えてるよ。』


 『……物事に絶対はないからね。』


 忍はすでに心が折れたことのある人間だ、そしてそれを乗り越えることが出来なかった。

 そんなやつが新たなトラウマをそう簡単に乗り越えられるわけがない、経験からしておそらく一生引きずり続けるだろう。

 スキップのことが頭から離れない、鬼謀を触る手にも力が入っている。

 千影のもとに、白雷のもとに、ケンタの平原にいるみんなのもとに走り出したくて仕方がない。


 『もしかして、それでさっき襲ってきたの?』


 「ちゃうわ!襲ってないし!」


 『旦那様、僕を襲ってくれないの?』


 「……なんか山吹に似てきたな。」


 『それはひどい!ひどすぎる!!あんなのと一緒にしないで!!!』


 反射的に声が出てしまう、音は鳴り止んだのでもう喋っても大丈夫そうだ。あと、どっちだよ。

 頭を抱えていやいやと首をふる鬼謀だが、かわいい小動物のコミカルな動きに思わず頬が緩んでしまう。


 『どうでもいいけど作戦の説明は?まあ想像つくけど。』


 「ああ、そうだった。」


 ただ少し気が緩んだだけ、ひととき忍の震えが止まる。

 そのまま忍の気をそらしつつ鬼謀は素早く続きを促す。

 

 「白雷にはブラスタートルを掃討し、船も壊してもらう。そうすると視界が確保できるから、千影がシジミール側から街の人を気絶させて全員確保する。私と鬼謀はライジン側の門で待ち伏せて、逃げてきた人たちを捕まえる。」


 『え、あのうぞうぞしてるのって……。』


 「頑張って影分身させましたー。」


 烏が街の上をさざ波のように動き回っている、精霊に多少対応できる程度の者は物量で沈んでもらおう。

 明るい口調でおちゃらけてみたが鬼謀には聞こえていないようだ。恥ずかしい。


 『忍様、申し訳ございません。手練れの一団がそちらに向かっております。光の魔法を使うようです。』


 『押しきれなかったかー、正確な人数はわかる?』


 『烏を叩き落としてくる槍使い、光の魔法を使う軽装備の男、赤いローブの三人です。』


 「鬼謀、赤ローブがこっちに向かってきてるって。」


 「きゅ?!」


 「まあ、ここでちょっとまっててよ。赤ローブ、転移は出来ないみたいだし。」


 転移ができるならこの状況で使わないわけがない、つまり赤ローブは転移以外の方法を使っている可能性が高いのだ。

 実体があるのなら話は簡単だ、忍はショーの実を用意して団体さんのご到着を待つのだった。




 赤ローブの一団は確かに手練れだったが門を出たところで次々に確保された。


 投げて転がしたショーの実に【ファイアブラスト】を打ち込むだけで大概の人は沈黙するが、この三人はきちんと対応してきた。

 気づいて即座に息を止め、毒消しを取り出したのだ。

 そこまでは良かったが槍使いと魔法使いは先陣を切ったために忍の【白蛇の凝視】に捕まってしまった。

 赤ローブは毒消しのビンをあおったところで忍の【ファイアブラスト】が腹に直撃、口から霧を拭きながらあえなく気絶となった。

 魔法薬を飲むのは隙の大きすぎる行動だ、他の二人が動けている状態であれば問題なかったかもしれないがなんともあっけない。

 三人を引きずって門の中に投げ込むと千影が話しかけてきた。


 『ペンタルンの制圧が完了しました。』


 「了解、それじゃ関係者だけを冒険者ギルドに集めようか。」


 千影は気絶させただけなので無関係の一般人は放置する。

 騒ぎ出すものがいるかも知れないが、これも放置しておく。

 というか、あとの処理は全て公明正大なブロードに任せておこう。うん、解決。




 冒険者ギルドの待合室で捕まえた奴らを縛って転がしていく。

 内訳としては冒険者ギルド関係者が十人、ガスト王国の諜報員および裏切り者一二人、火事場泥棒多数。

 その中にはペンタルンの副ギルド長、それなりの冒険者パーティ、二つ名持ちなどが含まれていた。


 「氷座党はいないのか、なんだったんだ?」


 結果的にウニオカメにも逃げられてしまったし、氷座党の目的については全くわかっていない。

 手がかりもないし深追いするほどの理由もない、か。

 ミネアの件に直接関わっているのはガスト王国の方みたいだし。


 『忍様、ガスト王国の別働隊が本日、ケンタの平原に攻撃を仕掛けたようです。確認したほうがよろしいかと。』


 千影の報告にすっと忍の表情がなくなった、意識が怒りに支配される前に鬼謀が忍の頭をペシペシ叩く。


 『今から行っても間に合わないんだから先に連絡!』


 「あ、ああ、そうだな!」


 鬼謀に腕輪を渡されて忍はあわてて焔羅に連絡を送った。

 

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