表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
110/158

焔羅の力とホラー顔

 「やーよく寝たっス。兄貴はいつ帰ってきたっすか?」


 「あー、たぶんタルドが寝た直後くらいかもな。」


 「お疲れ様っス。平和に済んで良かったっスね!」


 昨日、忍の状態がひどいことをいち早く察知した千影がタルドを寝かせたらしい。

 寝かせたといってもいきなり気絶させたようでクマではなく青タンが目の周りにできていたので起こす前にニカに治療してもらった。


 「山吹さんめっちゃ美人っすね。」


 山吹は今朝から鎧を着ていない。

 これから未開地の山越えをするに当たって不測の事態に陥らないとも限らない、その時にすぐに竜に変身するためと本人はいっていた。

 ニカのツタでぐるぐるまきになって白雷に運んでもらうならあんまり変わらないだろうと言ったら拗ねていた。


 「兄貴ってなんでこんな美人ばっか連れてるんスか?」


 「たまたまだよ。あと兄貴いうな。」


 「ホントにモテるっスよね。」


 ニカと山吹は変身だから美女なのは当たり前だし、シーラたちメイド三人衆は高級奴隷、もちろん容姿的なところを鑑みられて選ばれている。

 貴族や豪商は見た目を気にするから奥さんが綺麗、もちろん手を付ける相手も容姿端麗、自然とその子供も美男美女ばかりになる。

 前世の疑問が一つ解消された気がした、なんで異世界ハーレムものは美男美女ばかりなのか。

 意味もなく美人ばかりなのではないのかもしれない。


 「俺もあやかりたいっす。スレンダーな山吹さんみたいなタイプとか、シーラさんみたいなちょっと大人のお姉さんみたいなタイプとか。」


 「おい。」


 忍の前世は女性にモテるなどということはなかった。

 近づいてきたもののほとんどは男女問わず忍を利用しては去っていった。

 動物には好かれた気がするが、そんなところを見られるとボッチだの体からおいしそうな臭いがしてるだのとよく馬鹿にされた。

 【上質な肉】によってリアルに美味しそうな臭いがするようになってしまったのはなんの皮肉だろうか。


 「ニカさんは心も体も全部デカいっスよね。焔羅さんはまあ、あれっスけど。」


 調子にのっていたタルドの首筋に背後からナイフが当てられた。

 焔羅がいつ近づいてきたのか忍にもわからなかった。


 「小僧、いい度胸だ。」


 「は、はは、やだなぁ、冗談っスよ。」


 怖い。

 しっかり数秒は突きつけていただろう、タルド越しに忍を睨んで焔羅はナイフを仕舞い外に出ていった。


 「口は災いの元だ。」


 「……ウス。」


 タルドはなんで頬を赤らめてるんだ、こいつ目覚めたとか言い出さないだろうな。


 「肝に銘じておいてくれ、私の周りは容赦ないし怖いぞ。」


 「……ウス。」


 忍の方を見向きもしないタルドは焔羅が出ていった出入り口に視線を送っていた。

 こいつ、確実に聞いていない。

 なんだかまた胃が痛くなってきた忍なのであった。




 昼間の移動は特に問題なく進み、何事もなく全員が寝静まった。

 そんな夜中に忍を揺り起こした焔羅は氷と雪でできた部屋の片隅に布の仕切りを作った。

 千影に遠慮してくれるように声をかけ、狭い仕切りの中で丸太に座り顔を突き合わせる。

 勢いよく忍の首に手を回した焔羅が視線を合わせて一言発した。


 「犬のマネ。」


 「は?」


 焔羅の唐突な言葉に困惑する。

 これが漫画の世界であれば忍の頭の周りにはいくつもの疑問符が浮かんでいるだろう。 

 しかもさっきから顔にそよ風が当たっているようなくすぐったい感覚がある。


 「えー……わんわん?」


 なんだか知らないがめちゃくちゃ睨まれている。


 「……夜の神の話は本当ってことか。お頭、あんた闇の魔力に関わるやつらにとっちゃ天敵だな。」


 焔羅はノーチェからの祝福の際に理解した内容を忍に話した。

 既にずいぶんと人と混ざり、魔物から引き継がれた能力は強い効果を発揮しなくなってしまっていたが、焔羅の体には夢魔の血が流れていた。


 「夜の神は俺があんたの奴隷であることを見抜き、あんたの側で仕えることに満足しているかと聞いてきたんだ。」


 「……それで?」


 「満足してる、あんたに仕えると答えた。そうしたらな、誓ったことになった。破ると神罰が下るらしい。」


 「お、おぅ?神罰?」


 焔羅は本来であればいざとなったら忍を見捨てる選択肢も考えていた、それは目的の達成を第一とする諜報員として当然のことであり忠誠などとは何の関係もない。

 また、対人交渉などではウソをつくことも頻繁にあった、とりあえず相手に合わせて話をするのもそういった技能の一つだった。

 特殊な状況についていけなかったことは否めないが、神の問いに答えただけで契約になるなど焔羅は微塵も考えていなかった。

 これで焔羅の退路は完全に絶たれてしまったが、そのことで得たものもあった。


 「神罰。何がおこるかわからん。代わりに俺の魔物としての力を強化してくれた。魔力があれば歳も取らない、夢魔としての力も本来以上に使えるんだと。【魅了】、とかな。」


 【魅了】の部分に重きをおいた発言に忍は考える。

 もしかしてさっきから感じるこのくすぐったさの正体はそれか。


 「そういうことさ。効かないとは聞いたけど試させてもらった。ま、こっちは効くみたいだけどな。」


 焔羅のマントの下の衣服が忍の眼の前でなくなった。


 「はああぁ?!」


 「ま、サービスだな。はい、おしまい。」


 「女性がそんなはしたないことするんじゃありません!というか君は露出度が高すぎる!」 


 一瞬で中の服がもとに戻る。

 忍の指摘に焔羅がダルそうに答えた。


 「それだ。俺がこういう格好してるのはこの集団にそういうやつが足んないから。具体的にいえば冒険者らしい冒険者、アウトロー、女を明確な武器に出来るやつ。」


 たしかに忍の仲間にはこういったタイプはいない。

 酒場や冒険者ギルドでほしいと考えたことのある人員の条件を完璧に満たしている。


 「あんた好みのいい子ちゃんだけってわけにはいかないのさ。わかるだろ?」


 「……いや、まあ。助かるといえば助かるが。」


 「ま、これでもいいとこ探したつもりだよ。男の格好してもよかったんだが、お頭は女じゃないと側に置いてくれなそうだからな。」


 「それは偏見。」


 「そうかい?とりあえず全員抱いてはいるんだろ?」


 天原忍、絶句。

 直球ならぬ豪速球の物言いにもはや言葉が出ない。


 「図星、とはちょっと違いそうだね。顔にこれだけでてるのに欠片も考えが読めないとは見事なもんだ。」


 「……精神攻撃やら毒は効かない体質なんだ。そこら辺の話もそのうち説明しようとは思ってたんだけどみんなと合流してからのほうがいいかと。」


 あと考えが読めないのはおそらく焔羅からもらった能力のせいだろう。

 今までの読まれやすさを考えたらありえないことだ。


 「とにかく、お頭は精神に干渉してくるものに強い耐性を持ってるから夜の神の姿が本来の姿で見えてたんだよ。おかげでうまいこと意思疎通が出来なくて俺が大体の説明をすることになったわけだ。で、この服の方はお頭になにかしてるわけじゃなくて見た目だけ変えてるから通用するんだってさ。」


 「なるほど、幻覚にも精神干渉型と光の屈折型があると考えればいいわけだ。」


 「くっせつ、なに?」


 忍は科学的な観点で考えてしまったが、そこのところはノーチェからも説明がなかったようだ。

 あっているかどうかわからないことなので一旦思考の外に置く。


 「夜の神は運命の女神にたまには遊びに来てほしいと伝えてほしいってさ、あと、魔神は気性が荒い者が多いから気をつけるようにと。」


 「……ちなみにノーチェ様ってどんな魔神なんだ?」


 「伝わっていた話だと、死体の行進を操って練り歩いていたとか悪夢で大陸が滅びたとか聞いた気がする。嫌いな毒物を飲まないとノーチェ様に悪夢を見せられるとよく言われた。」


 「それは、なんとも……。」


 「耐性をつけるために子供の頃には大概の毒物は飲んでる。色々あったな、苦いし痛いし特にキノコ系が嫌いだった。あれはあとから来るんだよ。」


 「そんな懐かしそうに言わんでくれ。これからはちゃんとしたもの食おうな。」


 鍛錬の内容として知識の中にはあっても実践していたやつははじめて見た。

 その流れなら焔羅は電撃やら水攻めやら血の滲むような訓練の末に耐性を会得しているのかもしれない。

 元暗殺者一家のエリートがそんな話をしていた気がする。


 「運命の女神の力で加護の内容も無作為にはなってしまうけれど、できるだけ強力な加護を与えられるようにがんばるとのことだった。」


 「頑張られてもなぁ。というかここにもランダムの影響が……。」


 加護ということは能力がもらえたということだろう。

 耳飾りに触って確かめてみる。


 『任意発動能力【悪夢の病】。呪病を操る。(呪い)(病気)。月と夜の女神(魔神)の加護によって付与された。』


 「おー、やんちゃ。ノーチェ様やんちゃだな。うん。あとやっぱり説明が足りない。」


 「ん、なんで頭を抱えてんだ?」


 「絶対人に話せない強力な加護をもらった気がするからだ。」


 「ああ、お頭はやっぱりもらった加護がわかるのか。俺の加護も調べてもらえるか?」


 「すまない、無理だ。自分の分だけなんだよ。あ、でも。」


 忍は【隠形の才】について焔羅に説明した。

 焔羅は手持ちの能力についてノーチェからある程度の説明を受けたらしく内容に納得のいった様子だった。

 おかげで能力というのはそれぞれがなんとなく把握している程度のもので、それを何となく使っているということの裏が取れた。


 「俺が使えるのは相手の精神に異常をもたらす力、幻覚を扱う力、獲物に忍び寄る力、空を飛ぶ力、魔力を吸い取る力の五つだと。獲物に忍び寄るっていうのが【隠形の才】ってのじゃないかね?」


 「多いな……って空が飛べるのか?」


 焔羅はその場で座った姿勢のままふわりと宙に浮いた。


 「マジか。」


 「早くは動けないが便利だぞ、疲れるからあんまりやりたくないけどな。」


 「疲れるのか。」


 忍は能力を使って疲れたという感覚に覚えがない。

 なにか条件があるのかもしれない。


 「足りない魔力はお頭にもらえって言われてるからそこら辺は後でよろしく。あとは……」


 「まてまて、なんでサラッと流すんだよ。え、足りない魔力?」


 「簡単だよ、あとでセック」

 「まてまてまてまて。」


 「なんだよ。」


 「こっちのセリフだ、なんでそうなる。」


 「とりあえず全員抱いてはいるんだろ?問題なくないか?」


 「さっきの確認はそれか、問題にしてるとこが違う気がするが。あれか?やっぱりサキュバスとかの血筋なのか?」


 「よくわかったな。サキュバスとナイトメアの血筋だってよ。」


 なんか混ざってる。


 「サキュバスは誘惑や快楽、ナイトメアは恐怖や憎悪が得意な夢魔で俺はどっちもできる。体が筋肉質なのはナイトメアの影響で魔力はそこそこ、体の作りは二つの種族の中間くらいなんだろ。」


 「それで、なんで一夜を共にするなんてことに……。」


 「加護を得た強力な夢魔である俺がお頭以外から魔力を吸い取ったらまず確実に死ぬ。しかし、魔力は必要だ。精神的な攻撃が効かないお頭から魔力をもらうには直接いただくしかない。」


 早口な説明に考えが追いつかない。

 忍が魔力を与えなければ死人が出ることを理解したくらいで更に焔羅が畳み掛ける。


 「もちろん恐怖や憎悪で魔力をもらえるならそれでもいいが、おすすめはしねえ。」


 なんだかめっちゃ悪い顔してる。

 ホラー映画などで主人公の後ろにくっついている悪霊を彷彿とさせるような、夢に見そうな顔だ。

 焔羅のこの顔を表現出来ないのが心苦しい限りだが、とにかく本能的に駄目なヤツである。

 圧力をひしひしと感じ、頷くしかなかった。

 頷くしかなかったのだ。


 「俺は飯も食えるから魔力はたまにでいい。頼むから仲良くしてくれよ。」


 「わかったからその顔やめろ。」


 「お頭も練習するか?拷問のときに便利だぞ?」


 チベスナ顔で返しておくが、焔羅のホラー顔は強力すぎて勝てそうになかった。


 「加護と、言伝と、あとは剣だ。剣に魔力を流せばあとは分かるってよ。」


 「魔力?そういえば流したことはなかったか……?」


 「い、いきなり出すなよそんなヤバいもん!」


 忍は指輪からソウルハーヴェストを取り出すと魔力を流してみる。

 手元からどんどんと魔力が剣に吸われていく、剣の周りの空間が歪んでいるように見える。

 しばらく経つと段々と二つの宝石の中心が光りだし輝きが増してきた。

 そのあたりで忍を頭痛が襲う。


 「う、うお。」


 遅れて吐き気とめまいが襲ってきた。

 放出酔いである、急いで剣を指輪にしまった。

 一連の流れを見ていた焔羅に抱きとめられなんとか床に倒れることは免れたが、忍はそのまま意識を手放した。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ