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魔神ノーチェ


 ホラー映画を見た時、その反応は様々である。

 驚いて叫んだり、その場は平気でも夜中にトイレにいけなくなったり、本当に全く平気だったり。

 天原忍はどうだったかというと頭が真っ白になって固まってしまうタイプだった。

 腕の中の白骨が忍の方に顔を向けた。


 「わたし、綺麗?」


 「……け、健康的な骨かと。」


 少しの間の後、忍が反射的にそう言うとバッと立ち上がった白骨が祭壇の方にかけていく。

 どこからか鏡が現れノーチェは自分の姿を確認するとデストたちの方に向かって質問をした。


 「わたし、姿、骨?」


 「骨?」


 デストと焔羅が訝しげな顔をする。

 山吹も首を傾げていた。


 「ノーチェ殿、その男がフォールン殿の使徒だ。」


 「お初にお目にかかります。忍と申します。」


 とりあえず猿でもわかる宮廷マナーに則り、片膝をついて挨拶をする。


 「取り乱した、わたし、月と夜の女神、ノーチェ。歓迎する、フォールンの使徒。人、言葉、うまくない。許せ。」


 昔の白雷のようなカタコトで話すノーチェに少し懐かしさを感じる。


 『主殿、絶対に機嫌を損ねてはなりません!我の知るノーチェ様とは夜を司る死の神であり、魔物の神です!』


 山吹からの焦った念話に背すじが凍る。

 デスト、こわいもの知らず過ぎるだろ。


 「わたし、死の神、魔物の神。内緒話、聞こえる。」


 「ごめんなさい、うちのがご無礼を……」


 「ど、どうか神罰を下すのは我だけにしていただけないでしょうか!」


 忍と山吹はノーチェの言葉に速攻で反応するが白骨の表情は伺いしれない。

 というかなんの骨なのだろうか、人っぽい形をしてはいるのだが明らかに顔が違う。

 土下座をした山吹にノーチェがなにかジェスチャーで伝えようとしている。


 「螟ァ荳亥、ォ縺ァ縺吶°繧蛾?ュ繧剃ク翫£縺ヲ縺上□縺輔>縲」


 「おお、寛大なお言葉、ありがとうございます。」


 ノーチェがなにかよくわからない言葉を喋ったら山吹が顔を上げて兜をとった。

 とりあえず忍にはどっちも焦っているように見える。


 「繧医¥隱、隗」縺輔l繧九s縺ァ縺吶?らァ√?豁サ繧貞昇繧狗・槭〒縺吶′縲√?繝ウ繝昴Φ逧?&繧薙r谿コ縺吶h縺?↑逵滉シシ縺ッ縺励∪縺帙s縲」


 「そうなのですか?!……重ね重ね失礼いたしました!」


 「ノーチェ殿はわしが起きると毎度喋る友人のようなものでな。ここから動けないんで外の話を聞きたがるのだ。お主の話をしたらぜひ喋りたいというので来てもらった。」


 山吹とデストはノーチェの言葉がわかるようなのだが忍と焔羅には全く内容がわからない。

 そのうち三人で盛り上がりはじめた、骸骨と鎧を着た美女と裸のマッチョの楽しそうなおしゃべりを見せられてどうしていいのかわからない。

 いつの間にか祭壇が丸いテーブルになっており、椅子と紅茶が人数分用意されていた。

 喋っている三人は普通に席に座ろうとするので山吹に声を掛ける。


 「山吹、すまないが言葉がわかるなら通訳してくれ。」


 「あ、失礼しました。ノーチェ様が紅茶をごちそうしてくれるそうです。主殿の倒した魔王の話も聞きたいとのことです。」


 話の流れからすると使徒と魔王のことを知っているようだが、もうどうしたらいいのやら。

 とりあえず求められた流れで雑談をすることにした。

 考えるのをやめたともいう。


 「あまり楽しい話ではないのですが…。」


 忍はこの世界に来てから二年余りのことを順を追って話した。

 ドムドムのことは思い出しただけで泣きそうになるし、仲間との出会いや魔物と人との考えの差に驚いたり、成り行きで人の街を壊滅させそうになったり、白魔やドラゴンを倒してしまったり。

 忍は後ろ向きな正確をしているので楽しく話すことは出来なかったかもしれないが事実を中心に感じたことをありのままノーチェに伝えた。

 デストはなんだか難しい顔をしていたが、ノーチェは時折うなづいて続きを促すような動作をしてくれる。

 そしてスキップが死んだことを話し終えるとノーチェがなにか話しだした。


 「主殿、黒い剣を見たいそうです。」


 「え、うん。」


 忍は涙声になりながら底なしの指輪からソウルハーヴェストを取り出した。

 デストの顔色が変わる。

 ガタッと音がしたのでそちらを見ると焔羅が椅子から転げ落ちていた。

 ずっとクールだった顔が歪んでいるのを見て、ちょっとうれしくなってしまった。


 「おい。これ使われてたら死んでたぞ。何だこれは?」


 「まあ、たまたま手に入れまして。」


 「相変わらず、凄まじいですね。」


 ノーチェがすっと手を伸ばしてソウルハーヴェストに触れると愛おしそうに表面をなぞる。


 「は、え?」

 「本当か?」


 ノーチェの発言でデストと山吹が同時に驚いた。


 「主殿、この剣を作ったのはノーチェ様だそうです。まだ神々が争っていた頃に作ったもので懐かしいとのことです。」


 「ああ、やっぱり。ジャスティ様が魔神剣とおっしゃってましたからね。」


 魔神が作ったから魔神剣、ただ、魔神はフォールンたちと敵対しているのかと考えていたのでこうして普通に話せているのは誤算である。


 「神々は今は争っていないのですか?」


 ノーチェは下を向いて首を振った。


 「制約によって喋れないことがあるそうです。ただ、ノーチェ様とフォールン様とは仲が良かったそうですよ。」


 「それは安心しました。」


 「魔神というのは魔物の神だ。人の神と区別されているが邪神や災神とはまた別物なんだよ。」


 新しい神が二種類も出てきた。

 デストによると邪神はこの世界の全てに害をなす神、災神は神罰を与える神らしい。

 これらは魔物の神の分け方なので人の世界で災神でも魔物の世界では善神として崇められている神などもいるようだ。


 「荒御魂と和御魂みたいなものか。なんとなくわかった気がする。」


 「ひとくちに神といっても色々いるぞ。精霊神なんかはほとんど災神だ。」


 なんだか神のバーゲンセールになってきてしまった。

 日本生まれだからすっと腑に落ちるが一神教だった人とかは大変そうだな。


 「主殿、我にはノーチェ様が人に見えているのですが。主殿はどう見えているのですか?」


 「えっと、白骨ですね。なんの骨かはわかりませんが人っぽいです。」


 「ノーチェ様は主殿を驚かさないように幻術を使っておいでなのですが、肝心の主殿には効いていないようですね。それでも普通に喋っている主殿を褒めていらっしゃいます。」


 ノーチェはちょっとへこんでいる様子だがソウルハーヴェストを持てるのなら幻術が効かなくても仕方ないとのことだ。

 忍のところまでソウルハーヴェストを持ってきたノーチェは剣を手渡すと忍の額にキスをした。


 「な、な、な、なんですか?!」


 ドギマギしている忍をよそに、まだ腰が抜けたままの焔羅に近づいて額にキスをした。

 最後に山吹に近づいていったところで焦った山吹がキスを断ると次の瞬間には忍たちは雪原に立ち尽くしていた。


 「時間切れだ。祝福されるとは、ノーチェ殿によっぽど気に入られたな。」


 「神託と同じで時間制限があるんですね。……祝福?」


 「最後に額にキスされただろ。何かしら加護が与えられてるんじゃないか?」


 「え?」


 忍は自分に変化があるようには感じないが、焔羅は座り込んだままだ。

 そして一番慌てているのは山吹である。


 「デスト殿。我はまさか祝福を…?」


 「断ってたな。」


 「あ、主殿……。」 


 「まあ、感じの悪い神様じゃなかったし、大丈夫だろう。残念だったな。」


 祝福のキスはたしかによくあるパターンだが、説明もなくいきなりではこれも仕方ないだろう。

 優しそうな印象だったし無礼討ちとかはたぶんないはずだ。あったとしても山吹だけだろう。南無。

 なんか見捨てないでくださいとか言ってる山吹を放置して放心している焔羅を揺すると段々と焦点があってきた。


 「ちべてっ!うわ、中までかよ!」


 雪の上に座っていたのだからそうもなる、ただでさえ薄着なので余計に寒そうだ。

 とりあえずジェットバス用の温風の出る魔法陣で乾かしてやった。


 「デスト、魔神の寝床の魔神は封印されてるって聞いたんだが、ノーチェ様のことで合ってるか?」


 「ここいらに他に神がいるという話は聞かんぞ。封印というのはおそらくノーチェ殿をあそこから動けないように縛っているものであろう。」


 「封印されてる理由とかって何か聞いてるか?」


 「知らん、が。お主の従者の反応で察しはついた。力あるものは何もせずともまわりが放って置かん。わしが聞いてないということは本人も気にしてないかもしれんな。」


 たしかにそういうこともあるだろう。

 フォールンと話せるかはわからないがビリジアンについたら神殿で報告しよう。


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