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少しだけ変化した忍の日常

 『主殿は受けに関しては上手ですが、攻撃は苦手のようですね。』


 数日の訓練の後、山吹は忍をそう評した。

 柔道の投げは全身鎧相手には難しく、【体操術】によってなんとか伸びてくる拳の軌道をそらすことはできるものの速度や力が上がってくると地力の差が出て受けきれず攻撃に当たってしまう。

 攻撃に関しては魔法とのリーチの差が災いしていた。

 魔法なら体重移動も拳を突き出すことなく攻撃を繰り出すことができるが、切る殴るとなると体が激しく動くので隙が大きくなるのだ。


 『とりあえず言われたとおりに体術に重点を置いて鍛えてみるよ。付与魔法と強化魔法は普通に覚えられそうだけど使うのは危なそうだから封印かも。』


 『進言はいたしましたが、主殿は魔術師ゆえ体術はゆっくりでもよろしいかと。それでは本日も模擬戦にいたしましょう。』


 約束通り忍のなんちゃって秘剣との模擬戦もおこなっている。

 忍は短めの木剣を右下段に向けて構え、山吹は棍棒のように大きな木剣を担ぐように構えた。

 実はこの模擬戦、毎日一戦だけやるのだが今のところ忍が全勝している。

 山吹は鎧を動かして忍の剣を阻むが武器が大きいので振り下ろした直後の隙が大きく、忍は【体操術】と【一発必中】のお陰で鎧の隙間に寸分の狂いなく木剣を振り下ろせるため一撃必殺主義で隙が多い山吹と相性が悪いのだ。

 山吹は忍の赫狼牙やソウルハーヴェストを知っているため一撃当たると負けを宣言する。


 『山吹が続けてれば山吹の勝ちだと思うんだけどな。』


 『我の一撃をその細い木剣で受け流し、手首と首に流れるように攻撃を当てておいて何を言っているのですか。』


 『そんな大層なもんでもないと思うんだけどな。』


 『主殿の剣は大層なものです。技量の問題なのですよ。渾身の一撃を何事もなかったかのように見切られては我の立つ瀬がありません。』


 『いや、軌道が読めないとあんなの速すぎて受けられない。だいたい、まともに当たったらどうなるか……。』


 まるでバトル漫画のような土煙と音を出す一撃を必死でいなしているこちらの身にもなってほしい。


 『主殿の右の剣は剣士として我よりも上の領域です。我は身体能力でその差を埋めているにすぎません。どうして手など抜けましょう。』


 なんか本当に本気でやってるっぽい。

 すごいなサムライレンジャー、すごいな忍者剣聖伝、歴戦の将に完全に認められたぞ。

 再現できるまで頑張ったかいがあった。

 まあ剣に集中しすぎて魔法を打てないから今後も実戦で使うことはない気もするが、そこまで言ってくれるなら練習にも身が入る。




 魔法の勉強の方は付与魔法は順調に覚えたので教本を鬼謀に渡し、強化魔法を読みすすめている。

 しかしこの二種類の魔法は忍の考える効果とはちょっとずれていた。


 付与魔法は物品に付与する魔法で、効果は半永続的に持続する。どの属性でも使える基本の魔法は四つ。


 【ナビゲート】付与された物品がどこにあるかわかる。


 【マーキング】魔力を識別し物品を光らせる。


 【プリザベ】付与された物品の状態を保つ。


 【サーチエンチャント】魔力が付与されている物品がわかる。付与魔法なら内容もわかる。


 【マーキング】は従魔の証などに付与されている持ち主意外が触ると赤く光る魔法だ。

 【プリザベ】は物品の状態を変化させずに保つ魔法らしい、美術品などにかけるのだとか。

 これら以外にも魔法はあるのだが、なんともめんどくさい条件が設定されていた。

 たとえば【ウォーターエンチャント】、武器や防具に水の魔力を付与できる。

 水属性の魔法使いなら発動はできるがミスリルをはじめとした魔力金属や特殊な鉱石、特殊な魔物の素材で作られたものでなければドロリと溶けて使い物にならなくなってしまう。

 各属性のエンチャントはそれぞれ素材がある程度指定されており、そのうえ対になる属性に極端に弱くなるので偏った能力の武器になってしまうのだ。

 付与するのに時間もかかるため使いこなせる気がしない。

 忍としては事前準備が出来るなら六属性魔術でいいので基本だけでいい気がしている。


 強化魔法は体や武器を強化するという点では間違っていなかったが、かなりの諸刃の剣だった。

 魔力を無理やり流すことになれば武器や体を傷つける。

 攻撃力や速度は増すものの物や体が壊れていく魔法のようだ。

 

 こちらも例外として魔力金属や特殊な鉱石、特殊な魔物の素材で作られた武器や防具は強化魔法で使っても壊れにくく、場合によっては本来の強化魔法の効果以上の力を発揮することもあるらしい。

 あくまで壊れにくいと言うだけで壊れないと書いていないところが不安を煽る。


 どの属性でも使える基本の魔法は四つ。


 【アタッカ】力が強くなる。


 【シャプネス】速くなる。


 【ディフェンド】硬くなる。


 【ポンコート】魔力体を攻撃できるようになる。


 説明が雑な上に魔力を流したものが壊れるとなるとおいそれと試すこともできない。

 赫狼牙ならいけそうだが魔力を流すとなるとどうしても爆発四散した毒竜のことを思い出して躊躇するのだ。

 木の棒で試してみたが少し魔力をこめただけで砂のように崩れ去ってしまった。

 素人が知識だけで手を出してはいけない魔法の予感がする。


 『なにか考え事ですか?』


 『例の魔術書の内容についてな。使い所が考えつかないわけじゃないけど、使いたくない魔法だ。』


 『危険なようなら手を出さないほうがよろしいかと。半端魔術で命を落とすというのは珍しい話ではないゆえ。』


 山吹によるとこの世界の魔術師はわざと失敗して命を落とすように魔術書を書き記しておく場合があるという。

 忍の考えていた暗号化して全て書き記すということより一般的らしい、本当にこの世界の住人はすぐに人を殺そうとする。

 人を殺せる技術には死ぬ覚悟がないと手を出してはいけないということなのだろう。


 『正直アテが外れたから今まで通り頑張って体を鍛えるしかないかな。その程度で攻撃に当たった時の死亡率って変わるのかな。』


 『主殿は相手にしてるものが人の枠を超えているゆえ、致し方ないかと。』


 『人の枠を超えている?』


 『人が集団でかかっても倒せるかどうかという魔物をやすやすと倒すではないですか。』


 言われてみればそうかも知れない。

 【ファイヤボール】や【ウィンドカッター】などの中級魔法は集団戦用の威力のある魔法だし、当たったら普通は死ぬから中級なんだろうということは想像に難くない。


 『……山吹、初級魔法が私に直撃したら死ぬと思うか?』


 『あたりどころにもよりますが、【ロックスタブ】【アイシクル】以外では一発ですぐに死ぬということはないかと。【ライトライン】は貫通力があっても急所をかなり正確に狙わないと駄目でしょうし、【ダークニードル】形状の割に貫通力がありません。』


 『たしかに、水と土は霧散しないし質量もある、納得だ。よし、受けてみておきたい。ちょっと【ウィンドハンマー】を使ってくれないか?』


 『……受ける経験をするのは賛成なのですが、その、千影殿は…?』


 なんだかすっかり怯えてしまっている山吹がちょっと可愛いが、千影の暴走はきちんと言い含めたのでもう大丈夫…のはずだ。

 ものすごく食い下がられたが……一応、本当に一応だがもう一度釘を差しておこう。

 

 『千影、こんな事は言いたくないが私が死ぬのとどっちがいい?』


 『忍様、ずるいです。』


 痛い思いをするのに千影から抗議を受けるのは泣きっ面に蜂の気分なのだが、必要なことだ。

 嫌なこと全てから逃げているわけにはいかないのだ。


 「すー、ふー。すー、ふー。すー、ふー。よ、よし、やってくりぇ。」


 情けなく噛んでしまったが足を踏ん張ってピーカブースタイルの姿勢を取る。

 少し離れた山吹はこちらに手をかざして【ウィンドハンマー】を打ち出した。


 「ゲボぉ、がっ…はぁ、はぁー…」


 なんかかざした手が下に見えたけど間違いじゃなかった、山吹のやつ顔を守ってる腕じゃなく腹に撃ちやがった。

 無様に倒れた忍はイモムシのように腹を抱えて丸まった。


 「な、んで、は、はら、に……」


 『へ?防御の上から食らっても痛く無いではないですか。』


 忍は気絶はしなかったもののそのまましばらく動けなかった。

 山吹が治療をしてくれなければ本当に死んでいたかもしれない。

 あえて言わせていただきたい、なんでこんなことするの。

 忍は山吹に懇切丁寧にねちっこくお説教した。


 「忍さん、山吹さんはどうしたの?」


 「目を合わせてな。なんでこんなことするの、と聞いただけだ。納得いく答えが帰ってこなかったから何度か躾けた。」


 部屋に入ってきたニカが山吹の様子を見て忍に聞いてきた。

 山吹は部屋の隅で土下座をしている。

 先ほどの不意打ちは何となくダメージがないのも微妙という以上の理由はないようだったのでちょっと大人気なく詰めてしまった。

 シーラに魔術を教える約束をしていたので切り上げたが、山吹にはかなり効いているようだ。


 「死んだ魚のような目で寸分たがわぬ台詞を繰り返していましたウオ。」


 「ははは。私は疑問を山吹に聞いていただけですよ。納得いくまで何度も質問しただけです。ははははは。シーラ、なんで目をそらすんですか?」


 未だに納得がいかないが、反省はしたようなのでシーラの魔術の実験台にすることで良しとした。


 ネレウス式魔術の練習なので怪我などはしない、ただ教えるでも教わるでもなく地味な反復練習の実験台をするのはとてもだるそうだった。

 ちなみに普段の実験台は忍がつとめている。


 「足が引っ付くが使えればとりあえず撹乱して逃げることができる。走っている時にいきなり足が引っ付くと人ならまず間違いなく転ぶから一瞬だけ発動させる練習をしておくといい。」


 「わかりましたウオ。」


 立ち上がった山吹にシーラが魔術をかけてみる。

 その場で足踏みができてしまった、失敗である。

 シーラが魔術を使って山吹が確かめる、ただただ地味な時間が続く。


 「私、洗濯してくるね。」


 「ああ、頼む。」


 山吹がニカをすがるような目で追っているが、忍が睨むと諦めたように地味な作業に戻るのだった。

 半端なところで申し訳ないのですが、少々リアルがごたつきましてまた更新が止まります。

 落ち着いたら再開する気でいますので、気長に待っていただけると嬉しいです。


 思った以上に皆さんに読んでもらっているようで嬉しい限りです。

 拙い文ですがゆるく続けていきたいと考えていますので、お付き合いいただけるなら今後とも宜しくお願いします。

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