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プロローグ3

いつも通りの長い授業も終わり、日が沈みかけていた。

普段なら放課後は伊佐美や井草と一緒になって帰るのだが今日は剣持の用事を手伝いがあったため一人で帰ることに。

ーーーーーブラブラと街中を散策してみるかな。

特に用事はなかったのだが家にこのまま帰ってもそれはそれで暇なので街へと繰り出した。

しばらく本屋やゲームショップを巡り掘り出し物でもないかと渡り歩くも結局めぼしいものは見つからず帰ろうと思い踵を返すと車道を挟んだ向かい側の歩道に立つ伊佐美が見えた。

「伊佐美……。」

手を振ろうとした時に気がついた。

怯えた伊佐美の顔、そして伊佐美の前にガラの悪そうな高校生達がいる。

一瞬で理解した。伊佐美が危ないと。

僕は一番近い横断歩道まで走る。歩道の赤く光信号がもどかしい。

3分ほどたったころだろうか。ようやく信号が青に変わり、彼のもとへと走り出す。

しゃがみ込み震えていた伊佐美。

「伊佐美、大丈夫か!」

「日ノ村氏……。」

先ほどまでいたガラの悪そうな高校生達はその場にはいなかった。

キョロキョロと見回すと遠くの方で歩いている高校生達。その中には見知った後ろ姿がいた。

うちの学園の詰襟、3年生だ。そして特徴のある恰幅の良い体型。いつも見ているからわかる。あれは……。

「早坂先輩?」

知り合いがいたとこに一抹の不安を覚えつつ、とりあえず伊佐美と近くのカフェに入り詳しい話を聞く。

どうやらフィギュアを買いに来た帰り道、カツアゲにあっていたそうだ。

また今日が初めてではないようで過去にも何度か絡まれていたとのこと。しかも暴力を受けたこともあると話してくれた。

今回も一歩危うく路地裏に連れ込まれようとしていたらしかったが、すんでのところで早坂先輩が来てカツアゲをやめるよう促してくれたそうだ。

どうやらそのガラの悪い高校生達と知り合いらしい。

少しホッとした。まぁ先輩のあの見た目とあの性格だ。顔が広いから多少悪い奴らとも顔見知りでも驚きはしない。

むしろとっさのトークでカツアゲを止めたんだ。面倒臭い性格だが心根は優しいんだろう。

「グス、グス……日ノ村氏、拙者ものすごく悔しいでござるよ。拙者にもっと力があれば……。」

普段おちゃらけて明るい態度の伊佐美が机に突っ伏して涙を飲んで話してくれている。

少し紫色に変色するほどに力強く握りしめた拳は今にも血が滲みでそうなほどだった。

彼の悔しさが伝わってくる。

自分にもそんな経験がないわけじゃなかった。

幼い頃に受けたいじめ、大人から見れば大したことではなかっただろう。

それでも傷ついた幼少時代。みかねたじいちゃんが体と精神を鍛える為にって連れられて通った空手教室。

そんな思い出が脳裏にフラッシュバックする。

伊佐美の言う通り抵抗できる力があればこう言った時にもすぐ対処できるだろう。

いや、もし一人じゃできなくても二人なら。

僕は伊佐美の手を取った。

「伊佐美、何があっても僕……じゃなかった我は友達であるぞ!何かあったら我に頼れ、力を貸してくれるわ!」

我は自分なりに精一杯の悪い笑顔を見せつつ励ました。

それが効いたのかはわからないが、先ほどまで泣き顔だった伊佐美も弱々しくも笑顔を見せてくれた。

しばらくカフェで過ごした後、最寄駅まで伊佐美を送ろうとしたが彼は大丈夫だからと断ってきた。

今は一人になりたいと。

心配は尽きなかったがここは伊佐美の言う通りにして家路に着いた。

帰り道、昔のことを思い出していた。

そういえばいじめられてた時、誰かが励ましてくれたような気がする。

誰だっけ?思い出せない。





否が応でも時間は進み、陽は昇り新しい時を刻む。

ーーーーー朝がまた来た。爽やかな朝だ。今日もアラームの設定時刻よりも早く起きた。

昨日の朝と違うのは自分の気分がひどく淀んでいることだろうか。

昨夜寝る時も伊佐美の顔が忘れられず遅くまで寝付けなかった。

覚えていないが嫌な夢も見た。

忘れてはいけないはずの夢、そんな夢を見た気がした。

いつも通りの準備をして、いつも通り学園へと向かうためバスに乗り込む。

今日は伊佐美になんて声をかけよう。井草には話すべきかどうか。そんなことを考えているうちにバスは学園へ着く。

下駄箱まで来て気がついた。今日は早坂先輩がいなかった。毎朝出会うわけじゃないから珍しくもないが、昨日の今日で先輩には少し会いたくはなかったのだ。

教室へ入るも、生徒はほとんどおらず、伊佐美もいない。早く着きすぎたのだ。

仕方がない、朝のホームルームが始まるまでには会える。

そう思っていたがいつまで経っても伊佐美が来ることはなかいままホームルームが始まってしまった。

教師に聞くと今日は休むと連絡があったそうだ。心配だ。

「伊佐美君今日休みなんだってね。風邪かな、こっちには連絡なかったし大丈夫なのかな。」

事情を知らない井草が話しかけてくる。井草には昨日のことを話しておいた方がいいのだろうか。

「ねえ、今日伊佐美くんとこにお見舞い行かない?今日は授業午前中で終わりだし。僕は科学部の手伝いあるから1時半には学園でられるけどどう?」

井草からの提案でようやく思い出す。

そうだ今日は午前中で終わりだ。もちろん部活動があるやつらはそうじゃないんだろうけど。

「そうだな、ならば我は一足先に街で見舞品でも見繕っておくか。我らはソウルメイトだからな!」

自然と顔がにやけてくる。そうだ、こっちまで悲しい顔をしてはいけない。二人で伊佐美を励まそうじゃないか。

そう思うと力が湧いてくる。

念のため伊佐美にスマホで今日井草と二人でお見舞いに行くとメッセージを送っておく。

11時も過ぎ退屈な授業も終わり、帰りの準備をしているとスマホのバイブが鳴った。

伊佐美からの返信だ。今日何時になるか、と。

もう少ししたら学園を出てお見舞い品を買いに街に出ると返信しておいた。

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