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魚に空で

作者: 唐揚げ

 夕飯を友人の家で食べるのは久々だった。なんでも、秋刀魚を珍しいことに三尾も釣り上げたので一緒にどうか、という事であった。友人の旦那は秋刀魚が苦手だそうで、そこで来日して長い私に白羽の矢が立ったのである。

 その夕食の席で、友人の子供。まだ、幼稚園の子供がぱっと書いたのが、魚に空と書く漢字だった。

 友人の子供が言うには、魚に空と書いてコイノボリと読むらしい。

 なんとなく絵面が思い浮かぶような感じであり、どこか納得してしまった。しかし、同時に不思議な気持ちになってしまう。魚編にであるというのに、魚と関係ないではないか、という違和感だ。が、その違和感について実際に口をすると、アサリという字を友人は教えてくれた。

 アサリは、鯏。つまり、魚に利と書くそうである。実際に魚でないというのに魚編である。また、蜊、虫に利でもアサリを意味するらしく、これまた虫でもないというのに、虫編だ。そう言われると、なるほど、日本で生まれ育ったことのない私でも、納得してしまうものがあった。


 そういえば、と、友人が話してくれた話がある。

 正確には友人の祖父が誰かから聞いた話を、友人に話してくれたものだ。


 その人は歩いて旅をするのが好きな人であった。車や電車もあるというのに、わざわざ歩いていく、という事を楽しむ人であった。その日もわざわざ、休みの日にぶらぶらと歩いていた時の事である。ちょうど、その日は、山間部の田畑のあぜ道を通っており、稲穂が風に揺れるさわさわという音があたりに響いていた。

 と、その時である。

 ぼちゃん、という水音に飛び込むような音がした。それだけであれば、もしかすると田んぼの用水路かにカエルが跳び込んだだけかもしれないと思ったそうだ。しかし、その音がしてしばらくした後、進む方向の少し先にボトリと何かが落ちてきたそうである。

 何が落ちてきたのか。

 と、近寄って見てみれば、一尾の魚。


 何故、魚が。

 いや、ひとまず、用水路にでも逃さねば死んでしまう。

 そう思って拾い上げたときだった。

 すうっと、魚は溶けるように消えて行った。その姿は一挙に薄くなり、手には何もなくなった。

 まるで、ほんとに魚がいたのかという疑問も残ったままに。


「きっと空を泳ぐ魚が、こっちに飛び跳ねたのだろう。であれば、空へと戻ったに違いない」


 そう、その人は思うことにして、また、歩き出したそうだ。


「もしかすると、その魚こそが、魚に空がつく魚なのだろう」


 友人はそう言って、晩飯の秋刀魚を箸で解した。

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