竜姫の番探し36
その時、研究室のドアがバーンと開いた。
「兄上の女が来ているそうじゃないか!どんな女か俺様が見てやろう!どうせ大したことない田舎娘だろ...う?」
第三王子のメリクリウスだった。
押し止めていたらしいリージスが苦い顔でいる。
「メリクリウス、ドアは返事を聞いてから開けるものだ」
『いや、あんたも言えないだろ』と心の中で突っ込んだができる侍従リージスは黙っておいた。
「誰?」ルクスが聞くとなぜか真っ赤になったメリクリウスが
「こ、この俺様を誰とは! ふん!俺様はメリクリウス王子だ。会えて嬉しかろう!」
菫色の瞳を瞬かせたルクスに喜色を隠せずにふんぞりかえって言う。全員が『ああ、好みのど真ん中だったんだな』と温い目をしたが、グラディウスは目を怒らせた。
「え、この人王子の兄弟なの?人間も違う種族がいるの?」
グラディウスを見て、アルカナム、そしてメリクリウスに視線が移って不思議そうな顔をする。
グラディウスはこらえきれずに笑い出した。
「くくくっ、しゅ種族が違うって...」
リージスも手で口を押さえながら「姫様、腹を見すぎでしょ...」
アルカナムとジーニアスは『ああ、言いたいことは分かる』と言う顔つきだ。
「な!なんだ!俺様がなんだと言うのだ!」
癇癪を起こしてルクスの腕を捻りあげようと手を伸ばす。
しかし全く届かぬ内にそのぷくぷくした腕はグラディウスによって引っ張り上げられる。
「いいいい痛い! 離せ、放せ!」
真っ黒なオーラを隠しもせず容赦なく弟を吊り上げる。
「馬鹿だ馬鹿だとは思っていたが、僕の愛しい人に手を出すなんて、よほど死にたいんだね?よろしい、今すぐ息の根を止めてあげよう!」
ガシッと首を掴んで持ち上げると爪先が床から離れる。
「王子!?」
ルクスが止めようとするもリージスが近寄らないように背に庇う。
「ぐぎぎぎ...」
メリクリウスは白目になりながら炎の魔術を繰り出す。手から放たれた赤い炎はあっという間に部屋中に回る。
「ルクスを守れ!」
グラディウスの声をまたずにリージスは結界を張り、アルカナムは水の魔術で炎を消し去る。あっという間の出来事でルクスには全く怪我もなかった。
しかしグラディウスの怒りは鎮まらない。
「許さん、僕のルクスに手を出すとは...」
「王子!やめて、死んじゃうよ!」ルクスがグラディウスに飛び付いた瞬間、城がぐらりと揺れた。
「な、なんだ!?」
大きく揺れたと思ったら城壁が崩れ落ちる音がする。
気を失ったメリクリウスを蹴飛ばすと窓に飛び付いて見ると
「ゼファ!!」
城の右翼の屋根にゼファの姿があった。
大きな体を魔術で隠しもせず城に乗り込んで来たゼファは右翼の屋根に爪をたててとまっている。
「ゼファ!ゼファ?なんでお城に来ちゃったの?」
ルクスの姿をみとめると本館の尖塔に飛び移り、そこから体を捩って窓に首を突っ込んだ。手を伸ばしてぺちぺち叩いているルクスの横にグラディウスが寄り添う。
「ルクスの危険を察知したからな。すぐに飛んで来た。ああ、人間の王子よ、ルクスを守れないようなら貴様と番になど許すわけにはいかぬぞ」
そう言うと空に向かって口から炎を吐き出す。すると城のあちこちから悲鳴が上がり、見上げていた騎士達がこの部屋に集まろうと駆け出してくる。
グラディウスは人々を恐怖のどん底に叩き落としたゼファを恍惚の表情で見つめ跪くと、
「偉大なる竜王ゼファ様のご尊顔に拝し恐悦至極でございます」と述べたのでゼファはぎょっとして顔をちょっと引っ込めた。
しかし夢にまで見た竜を目の前にして興奮しきりの王子は
「ああ、生きている間に竜王様に拝謁できるなんて...!もういつ天に召されても悔いは無し...!」
「いや、ルクス様残してんじゃん」
リージスの小声の突っ込みに
「なんか私に会った時より嬉しそうだよね!?」
ルクスがぷんすか怒っている。
「る、ルクスよ。本当にこれで良いのか?」
若干引きぎみで妹に尋ねる。
「う~ん、さっきまで運命の番かなって思ったんだけど」
やや口ごもってしまうルクス。しかしグラディウスはルクスを引き寄せると
「ご安心ください!運命の番として共に果てるまで連れ添います!」
ぴっかぴかの笑顔で宣言する。
『なんかこやつ発光しているな...』
ゼファはドン引きしつつルクスを見つけた時を思い出した。




