竜姫の番探し35
「あの~家に帰りたいんだけど」
湖でのピクニック?を終えて、グラディウスと共に帰路についているルクスは方向が違うことに気がついていた。
「もちろん帰りますが出来れば二人の家に帰ると約束してくださると嬉しいです」
そう言って懐からスッと婚約宣誓書を取り出す。
「お前それ何枚持ってんの?」
ピンと畳まれた宣誓書を胡散臭げにリージスが眺める。
「ああ、こちらの方がよろしいかもしれませんね」
さっと取り替えたのは『結婚宣誓書』
「「更に重たくなった」」
何が悪いかわからないとばかりのグラディウスは
「せっかくなので弟に会って頂けませんか?先ほどのお話しもルクス嬢から話して頂けたらきっと喜ぶと思うのです」
「ああ、雄の番...」
「いやそこはもうちょい包んで表現しよう」リージスが突っ込む。
今度はルクスが何が悪いかわからないとばかりの顔をすると
「いや君ら似た者同士だわ」と言うので思わず二人が顔を見合わせる。馬に乗っているのでほんのすぐそばに顔があって、どきっとする。
『ち、近い!なんでこの王子に近づかれるとこんなにどきどきするんだろう!』
「病気とかじゃないと思いますよ」
「はっ!なんでわかったの?!」
リージスを振り返る。
「いやなんでって見たまんまっていうか、隠す気ないですよね?」呆れられた。
グラディウスはくすくす笑って手綱を持つ片手を外すと
「そういうところが本当にかわいい。早く堕ちてきてください、僕のところまで」するりと頬を撫でる。
「はわわわわわ...」
「おい、やめろ破廉恥王子」
「失礼な」
「そのアヒル口もやめろ」
真っ赤になって固まってしまったルクスを乗せて、馬は城門に入っていった。
◆◆◆
「その方が、兄上の運命の方?」
アルカナムは白衣のまま研究室に立っている。
ルクスは自分とほぼ同じくらいの男の子をじっと見つめると
「か、かわいい」
「え」
そっと手を伸ばすとアルカナムの眼鏡を取り長い前髪を持ち上げる。
「な!なにを!?」
「ほら、こうすると王子とそっくり!瞳が少し緑がかっているのが違うけど、兄弟そっくりだね!」
にこにこしているルクスに呆気に取られるアルカナム。王子に勝手に触るなんて不敬だと本来なら怒られそうだがグラディウスが愛しい二人を嬉しそうに眺めているので誰も声をあげられなかった。
そっと手を出したのは侍従のジーニアスで
「申し訳ございませんが、眼鏡を戻して頂けませんか」
と言うとアルカナムはしゅばっと後ろに隠れた。
「あ、ごめんね?勝手に番に触ったら怒るよね」
「「番...」」
動きが読めないルクスに翻弄されている二人をソファに座らせると「かわいい方でしょう?アルカナムにはぜひ紹介したかったんだ」そう言って森でルクスが語った竜の番について話始めた。
「同性同士の番がいるとは...」
「それが当たり前とは、」
アルカナムもジーニアスも呆然としている。ことあるごとに後ろ指を指され蔑まれた二人にとって自然の摂理と受け止められている竜の番は羨ましいほどの立場だった。
「だからね、これは同性婚の制定を進める良い機会だと思うんだ!」
急に飛躍したグラディウスにさすがにアルカナムは首を振って
「竜がそうであっても、人間は違うと言われますよ。ましてや竜の事例を証明することなんて出来ないのですから」
その言葉にぱかっと音がしそうな笑顔で
「だから、ここでルクス嬢に手伝ってもらいたいんです! 国民の前にゼファ殿と現れて竜は本当に存在する、この世界の頂点に立つ存在だと知らしめる。その貴き存在が番について語れば同性婚は正しい結婚だと証明できる! 尚且つ、私達の結婚も進められてなんなら竜の研究も一気に進んで一石二鳥どころか三鳥なんですよ!」
ポカーンとした周囲を振り切って演説するグラディウス。
「ちょ、待てよ。そんなことしたらルクス様の存在が世界中にばれて各国が竜の愛し子の争奪戦に陥るはめになるぞ!」
「その前に私達が結婚すれば問題ないさ。ルクス嬢が晴れて王子妃となれば国として保護にあたる。大陸一の魔術師団を保有しているフルゴル王国に楯突く国がいるとは思えないしね」
「頭の悪い破落戸魔術師や竜を信仰している辺境国とかどうやって押さえるつもりだよ!?」
「だからすぐに竜の島に戻れば良いんだよ!」
竜が住む島に攻撃を仕掛けて命があるわけがない。
「竜を楯にすんな!」
「一緒に島に帰るの?!」ルクスも声をあげる。
グラディウスはそっと腰を抱いて片手を握ると
「ええ、できるだけ早く二人で島に帰りましょう。ウェディングドレスはすぐに発注しますよ」
「うれしい!」
「「「いつの間にかプロポーズが成立してる!」」」
グラディウスに抱きついているルクスに三人は頭を抱えた。




