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竜姫の番探し30

「知らないの?」

ゼファを抱っこしたミリイが聞き返す。


「竜属であれば知識としては知っておるぞ。我らは生まれた時にそれぞれの紋様が体のいずこかに浮かぶ。それが同じ紋様を持つものが運命の番であると言われている。だがそれが全てではないらしい」

ほら、とゼファは羽の付け根にある紋様を見せてくれた。手のひらくらいの大きさで炎の古代文字を飾り文字にしたみたいに見える。


ルクスは首をかしげて自分の体をあちこち眺める。

「私、紋様なんてついてないよ」

ゼファは呆れたように

「当たり前であろう。お前は人間だ。だから人間の番の見つけ方を教わらなければならん」

「あ、そうだった」

すっかり人間であることを忘れていた。


「じゃあ、普通に恋愛すれば良いんじゃない!」パンっと手を合わせる。

「オリビア、恋愛ってなに?」

オリビアは椅子から立ち上がるとくるくる回りながらローガンの背中に抱きつくと

「恋愛は、この人が愛しくて愛しくて仕方がない!って思うことよ! 私の場合はローガンを一目見た時ビビビってきたわ!そう、ギルドの受付嬢だった私はまだ駆け出しの商会員だったこの人の担当になって、その声も誠実な態度も全部素敵だなって思っちゃったの!きゃー恥ずかしいわ!」


真っ赤になったローガンを置いてきぼりに頬にキスをするオリビアに若干引きつつも

「じゃ、じゃあ、ぴかぴか王子様は私の番ではないかな。ビリビリもしなかったし、愛しくて仕方ない?もならなかったもん」

ミリイはため息をつくと

「ルクス、ママは特殊なの。それからビビビって言うのは例えね。本当に感じたら病気を疑った方が良いわ」

一番冷静な10歳児だ。


「話しを戻すけど、竜のように決まりがないならやっぱり人間の世界にいないと恋愛はできない。でも騎士団に狙われる。どちらを優先すべきかだよね」


その時、コンコンとドアをノックする音がしてルイスが開けるとメイドが何か囁く。頷いて主人達に向き直ると

「その問題を解決にいらしたお客様がお待ちです」


◆◆◆


『やっぱりこの人は発光している』

ルクスは満面の笑みを浮かべて玄関に立つ王子を見てそう思った。いつもと同じ玄関なのに、白いシャツに濃紺のジャケットを着て、乗馬用の細身のズボンに長い焦げ茶色のブーツで足の長さを際立たせた王子が立っていると、ここが舞台なんじゃないかと錯覚する。なぜだかさっきまで曇っていた空が晴れ渡り、小鳥も気合いをいれて囀ずり始める。



「朝からお邪魔して申し訳ない。しかしルクス嬢にお会いしたくてどうしてもこの気持ちを押さえることができませんでした。ああ、これは王城で咲いていた朝摘みの薔薇です。どうぞお部屋に飾ってください」

装飾の一部なんじゃないだろうかって思うほど王子にぴったりの美しい赤い薔薇の花束を渡される。


「ありがとう。わあ、新しいトイレの芳香剤の香りがするね」

ルクスの答えをかき消すようにオリビアがさっと受け取り

「新鮮なうちにルクスのお部屋に飾りますわ。どうぞモーニングティーをご一緒に」

朗らかに誘うと王子はルクスを見て

「ルクス嬢がよろしければ、遠乗りにお誘いしたいのですが、いかがでしょう?」

「遠乗りってなに?」

「馬に乗って丘に登ったり、湖を散策したりするのよ!きゃっロマンチック!ぜひ行ってらして!」


オリビアにぐいぐい押されてあっという間に乗馬服を着せられたルクスは馬場に繋がれた馬を見つけた。

「あ、この子あのときにいた子だね」

王子は嬉しそうに笑うと

「ジュビリーと言います。とても賢くて頼りになる子なんです」

真っ白な雄馬はグラディウスに鼻を擦りつけるとルクスをじっと見つめる。


「すごくかわいい、けど私は乗れないと思うよ」

残念そうに言う。確かに常にない警戒した素振りだが、賢い愛馬は人に危害を加えたことはない。

「ああ、ジュビリーが悪いんじゃないの。私にはゼファの匂いがついているから、他の動物には脅威に感じるの」

ルクスは慌てて言う。

なるほど竜は全ての生き物の頂点に立つ。例え匂いだけでも畏怖するはずだ。


「それなら、こちらにいらしてください。そう、ゆっくり、私の手を取って、ゆっくり」

王子はルクスを両腕で軽く抱くと手を握りジュビリーの鼻先にそっと持ち上げた。

耳を左右に揺らしていたジュビリーは主人が側にいることで落ち着いたのか、スンスンと何度か匂いを確かめると頭を擦り寄せた。

「か、かわいい...!」

他の動物から逃げられることばかりなので目をキラキラさせて喜ぶ。

「ふふふ、ルクス嬢もとてもかわいいです」

いつの間にか抱きしめられる形になっていてルクスはびっくりする。


「あ、あのこれは」

「こんなに小さな手をしているのに、竜を操るのですね」

爽やかな見かけと裏腹に鍛練に慣れたゴツゴツした手でルクスの手を包み込んで甲を撫でる。なぜだか頬が熱くなって引き抜こうとするがしっかり握られていて抜けない。

「ああああの! 竜は操ることなんてできないよ!ゼファは私の言うことを聞いてくれるけど、間違ったことや我が儘は許してくれないし」

「なるほど、竜とルクス嬢は使役する関係でなく家族のようなのですね」


髪をかけた耳元で滑らかな声が響く。頬がどんどん熱くなって気のせいかふわふわする。

『か、風邪かもしれない』

ルクスが目を回しそうになっていると後ろからぐいっと引っ張られて

「おい、破廉恥王子、朝っぱらからなに仕出かしてやがるんですか?!」

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