竜姫の番探し3
「ゼファー!」
「おう!」
小さな人間の娘が兄竜の背に乗って空を飛んで行く。
ルクスと名付けられた子はすくすく、とは言えなかったが強く育った。何分、生息地も食糧も異なる種族でよく育てられたかと島中の竜が思いながら兄竜の背に乗る娘を今日も見守っている。
「ゼファ、この間持って来てくれた赤い実、とてもおいしかった。ありがとう」
「そうか、食べられたか!気に入ったならばまた採って来てやろう」
首にしがみついた妹にごろごと機嫌良く答える。
ゼファはかわいい妹のご機嫌をとるために外に出るたび人間の食べられそうなものを探してくるようになった。
初めは竜の涙で育てていたが、いくら万病に効いても癒しになってもそれはそれ、生きる糧が必要だろう、と島一番の古竜に言われて気がついた。ゼファは土竜に頼んで島に生えている植物から食べられそうな実を持って来てもらった。
黄色い実を食べさせたら口の中がイガイガで血を吐いた。
緑の実を食べさせたら下痢になった。
赤い実を食べさせたら吐き出した上に泣き出した(多分辛かったのだとゼファは思う)。
試行錯誤の末に、土竜も好んで食す緑と黒の斑模様の実を気に入ったようだったが、それひとつではいかんだろうと水竜が魚を与えようとした。
大きな魚を与えたがまるで歯が立たなかった。
中くらいの魚を与えたが骨が喉に刺さって死にそうになった。
小さい魚を与えたが下痢になった。
古竜は人間が食糧をとるときは焼いているらしい、と言ったので口から出す炎で魚を焼くとやっと腹を壊さなくなった。
とにかくひ弱ですぐに死にかけるので島中の竜は毎日ハラハラしながら大切に大切に育てたのだった。
「よおルクス。お前いつ番を見つけに行くんだ?」
同じ頃に生まれたウェルがゼファの隣に横並びに飛びながら聞いてきた。
「番?なあに、それ?」
「お前、いくらチビだからって番も知らないのか」
呆れたようなウェルにぷくっと頬を膨らませる。
「ほとんどの竜はこの島に住んでいるけど、島の中で番を見つけない竜は旅に出るんだ。世界中を廻って自分の番を探してくるんだ。俺も行くんだぞ」
えへん、とばかりに鼻先を持ち上げたウェルに
「だから、番ってなに?美味しいの?」
ガクッと高度が落ちる。
「ゼファー!」
「そ、そうか、番を教えていなかったか。いや、ルクスはまだ幼いし、番など早い。そうだ、早すぎる!それに俺が見極めたやつでないとルクスを託すことなど出来ん!」
「いや、小さくても15歳だろ?なあルクス、お前だって運命の番を見つけたいだろう?この島にいたらお前はみんなの妹だけど、番にはなれない。お前に合った番を見つけるべきだぞ」
外界に憧れるウェルは目をきらきらさせて誘う。
「うるさい!ルクスには番など早すぎると言っているだろう!」
「島の末っ子だからって一生独りはかわいそうだろ」
「俺がずっと、ずーっと見守るから良いんだ!」
「シスコン過ぎだろ~」
2匹はぎゃいぎゃいと叫び合っている。
「だから番ってなんなのよ~」