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竜姫の番探し29

気絶したアルカナムを部屋までお姫様抱っこで連れていくと、部屋から緑色の髪の細身の男性が出てきた。


「やあ、ジーニアス済まない。ちょっと抱き上げたら気絶してしまって」

申し訳なさそうにグラディウスが言うものの、ジーニアスと呼ばれた従者はまたか、と言う顔をして踵を返すとベッドを整え始めた。

広さは充分にあるが壁一杯の本棚からも本が溢れ、床に倒れそうな塔をいくつも築いている。それを器用に避けながらアルカナムを寝かせるとジーニアスは眼鏡を取って毛布をかける。


「今度は何ですか?二階から一緒に飛び降りましたか、それともアルカナム様の書類を燃やしましたか?」

どれも身に覚えがあってグラディウスは返答に詰まる。


「それが、俺に好きな人が出来たと伝えたら」

「兄上を取られると嫉妬して気絶しましたか」

「まさか。アルカナムももうそんな子供じゃないよ。君もいることだしね」

そう返すと少し頬を歪める。

「女性嫌いの殿下に好きな方が出来て喜び過ぎたのですね」

「あ~それが」

ジーニアスは不思議そうな顔をする。


グラディウスはパンっと手をあわせると

「ごめん! 王位継承権棄てるって言っちゃった!」

「...」


その言葉がゆっくりと頭に回った時、ブシュウッと魔力が吹き出す。

「な、な、何ですか?なぜそんなことに!?」

「僕の好きな人が竜の愛し子で、入婿じゃないとダメみたいだったから」

ぐんぐんと黒い靄がジーニアスから沸き上がる。

「落ち着いて、アルカナムが起きたらちゃんと説明する!ちゃんと大丈夫にするから!」

既に真っ暗になった部屋の中で見えないであろうが土下座する。


「ジニー、うるさい」

「アルカナム様、お加減はいかがでしょうか?」

急速に靄が薄れていく。

「こんな狭い所で闇の魔力を出さないで。それに気絶したのは兄上が高い高いをし過ぎたからだよ」

じっとりと睨まれるグラディウス。

「ごめん、ごめん。高いところ好きじゃなかったな」

ソウイウモンダイデハナイ、と顔に書いたジーニアスがため息を吐く。


グラディウスは立ち上がると真摯な目で二人に向かった。

「アルカナム、我が儘言ってごめん。僕が継承権を放棄すれば君が継がなくちゃいけなくなるって分かってたのに」

「兄上」

「アルカナムが政務より研究を第一にしているのはわかっている。けれどその頭脳を生かしてきっと良い施政者になると思っているよ」

「でも、僕は次代を作ることができない...」

アルカナムはぽつりと呟く。

グラディウスはぽんぽんと頭を撫でると

「アル、前から言ってるだろう、王は直系でなくても良いって。公爵家から養子を取ったって良いし、なんなら宰相に任せたって良いじゃないか。それとは別にね、僕が継承権を棄てる日までには必ず愛し合う相手が誰であっても結婚できる法を制定するからね」

二人の手を握りグラディウスは誓う。


「ありがとう...。兄上が理解してくれているだけで僕らは嬉しいんだ。僕は研究馬鹿だけど、ジーニアスがいれば政務もできる...と思う。メリクリウスになんか任せることは絶対しない。だから今まで我慢し続けた兄上に幸せになってもらいたい!必ずその子を手に入れてください!」

涙を浮かべたアルカナムに


「ああ、絶対捕まえてみせるよ!」


同じ時、ルクスの背筋はゾクリと悪寒に震えた。

「あれ?風邪かなぁ」


◆◆◆


翌日、ルクスはいつも通り起きると厨房に向かった。


「おはよう、ルクス。昨日はパーティーで遅かったんじゃないのか?まだ寝てればいいのに」

アランがオムレツを皿に乗せながら言った。

「太陽が昇ると目が覚めるんだ。それに練習もしたいしね」

エプロンを着けるといそいそとやってくる。


「オムレツが焼けても良いところの奥様には必要ないんだけどなあ」

只の食いしん坊なだけなのだが、花嫁修行の一貫だと思われているらしい。

とれたての卵を二つ割ってフライパンに流し込む。じゅわっと音を立てて溶かしバターに広がるとすぐさまフォークでかき混ぜる。

「ゆっくりだ、破れないようにくるっと回して...、そう!上手くできたな!」

オムレツが完成した。

「う~ん、美味しそう!」


あんなことがあってもお腹は減るのがルクスらしいと言える。

その後、部屋にいないルクスを探してミリイが泣きながら厨房に飛び込んで来たとき、チーズが溢れているオムレツを口一杯に頬張っているルクスを見て脱力した。


「さあ、今後の対策を練ります!」

朝食のテーブルについたローガン、オリビア、ミリイ、ルクス、ゼファはミリイの声に首をかしげる。


「あれ?騎士団が来たらゼファに乗って逃げる、でいいんじゃないの?」オレンジ香るデニッシュを頬張りながらルクスが聞く。


「うーん、見つかってから逃げると不敬罪に問われそうだから、あらかじめ隠れていた方が良いかもしれない」とローガン。


「逃げるとはちと我に相応しくないの。そうじゃ、先制攻撃で城に向かって嫁にはならんと言いに行けばよい」


「ええ~、王子様とのロマンスは? 舞踏会でのプロポーズか拐われるイベントがないと盛り上がらないわ~」


各々勝手なことを言うだけで全くまとまらない。


ミリイはダンッとテーブルを打つと

「ルクスはどうしたいの?そもそも、運命の番ってどうやって決めるの?」

肝心なことを忘れていたことに全員が今さら気づく。


みんなの視線を浴びて

「え~と、ゼファ?知ってる?」

「我が知るわけないだろう。我にもいないのだからな!」

堂々と答えたゼファにがくりとした。

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