竜姫の番探し28
グラディウス・フルゴルは由緒正しいフルゴル王国の第一王子として生を受けた。
フルゴル王国は大陸のほぼ中央にあり広い平原を有し農耕に適しており、他国との国境でもある山脈には豊かな鉱物が眠っている。またこの国の人々は多少の差はあれど魔力を持っている。そのため数百年前に統治を始めた始祖は、自身が持つ膨大な魔力を利用して生活に役立てる方法を考案した。それが王立魔術師団の始まりだ。
グラディウスは始祖の再来と言われるほど産まれた時から魔力が膨大だった。しかしそれは他人から称賛されるほど良いものではなかった。
膨大な魔力は幼いグラディウスの体を返って痛めつけ、熱や吐き気、時には暴走して周囲の者に危害を加えてしまうこともあった。それゆえわずか3歳の時から両親と離され、辺境にある漆黒の塔と呼ばれる魔力封じを施した塔に師と共に籠らなければならなかった。
この師匠が竜オタクで、狭い塔の図書室はほぼ竜に関する記録書や伝記、果ては物語でいっぱいだった。唯一の同居人兼師匠が竜オタクでメディアは竜についてのみ。まさに竜オタクを形成するしかない環境だった。
魔力の循環を学び、自身で制御する技を身に付けたのは、彼が12歳になった時だった。塔での生活に慣れ、王都に戻る気など更々無かったが帰らざるを得なかったのは、父母が毎年欠かさず誕生日に今年こそ会いたいと手紙を送って来ていたからだった。
しかし帰ってみるとそこには自分がいないうちに産まれた二人の弟がいて、不在だった第一王子を排除しようとする派閥が勢力を伸ばしていた。両親はグラディウスを王太子にすると決めていたが膨大な魔力は危険だと立太子を阻まれた。
おまけに初めて会った弟である第三王子に「お前なんか帰って来なければ良かったのに!」と言われて本気で辺境に戻ろうかと思った。
しかし母である王妃が泣いて「私のかわいいグラディウスにようやく会えたのに、このまま離れるなら母も共に行きます!」となぜか大きな布に現金や貴金属を詰め込んで背中に背負って来たので脱力して諦めた。
グラディウスはすでに魔術師として最高位だったが、王城から離れるために王立学園に入学した。そしてそこで出会ったのがリージスだった。
伯爵家の次男であるリージスは将来騎士団に入るため騎士クラブに入っていて、入学早々見かけたひょろりとしたグラディウスが誰だかも知らずに
「お前、痩せすぎだ。クラブに入って鍛えろよ、筋肉は裏切らないぜ!」と誘ったのだ。
現在のリージスに言わせれば「こんなことになるなら絶対誘わなかった!!」そうだ。
ともかく、おかげで魔術だけでなく筋肉にも才能を見せたグラディウスはめきめきと逞しくなり、王太子になるのを避けるために卒業後騎士団に入団した。
◆◆◆
「兄上が王位継承権を放棄するっていうの本当か?」
父の腰が抜けたので仕方がなく自室に戻ろうと歩いていると第三王子のメリクリウスが立ち塞がった。
王妃に似たピンクブロンドの巻き毛に薄い金色の瞳、顔立ちはよく見ればグラディウスに似ていないこともないが、いかんせん太っている。
『こいつ、思ったことを全部口に出しちゃうからアホなんだよな。陛下の私室で話したことがバレてるって、僕に間者を付けてるって言ってるようなもんじゃないか。聞いたからなんだって言うんだ。まさか自分に王太子の冠が回って来るとでも思うのか?』
アホらしくて仕方ないので心の中で間者のリストを更新していると
「何で答えないんだ?! ははあ、さては父上に廃嫡されたか!ははは、ざまあみろ自分ばかり魔力を受け継いで俺たちの分まで吸い上げやがったバチが当たったんだ!」
ゆらり、と魔力を上げながらメリクリウスに近づく。
「な、なんだよ、王家から出るくせに王子に楯突く気か!」そう言いつつも逃げ腰になっている。
その時後ろから「メリクリウス、母体から受け継ぐ魔力は総数から分割しているのではなく受ける子供の潜在力に比例すると教えたでしょう。お前の頭は穴の空いたバケツなのですかね?」
眼鏡をかけて白衣を着た藍色の髪の男性が立っていた。
「うるさい、気色が悪いアルカナムの癖に!」
そう言うとメリクリウスはグラディウスをそそくさと避けて逃げて行った。
「はあ、馬鹿なのだからせめて口を閉じて置けば良いものを」
グラディウスは辛辣な言葉を吐く二番目の王子に手を伸ばすと頭を撫でる。
「久しぶりだな、また研究室に籠っていたな?」
アルカナムはメリクリウスに悪態をついたのと同一人物とは思えないほどこくんと素直に頷く。
グラディウスの顎辺りまでしかなくて華奢な手足だがその頭脳は広い大陸でも追随する者はいない。
「さっき馬鹿が兄上の王位継承権がなくなったって言ってましたが」
「ああ、運命の女性に会ったんだ。だから彼女の故郷に付いていこうと思ったんで継承権を棄てようと思ったらリージスに邪魔されて」
「ええ!本当なの!? 兄上が女性を好きに!? 信じられない...」
やや緑がかった金色の瞳を目一杯広げて両手で口を押さえる。
「この間の討伐で命を助けてくれた女性でね、なんと竜の愛し子だったんだ!」
嬉しさを隠しきれないとばかりにアルカナムを高い高いする。
「ええええ!? 兄上が死に損なった時に薬をくれた?僕でも全く成分が分からずじまいの薬の!? しかも竜の愛し子!? 」
キャパオーバー気味のアルカナムは兄に高い高いをされて気絶してしまった。




