竜姫の番探し26
「島、とおっしゃいますと...」
さすが殿下の突拍子もない行動に対応してきただけあっていち早く復活したリージスはルクスに尋ねる。
「私、番を見つけたら島に帰るの。ここも楽しいけど、島には母さまも待っているしみんなにも会いたいし。どうかな?」
王子はぴしりと固まっている。
まさか王子と言う肩書きを聞いていながら王都に住まない、なんなら入婿にならなければいけないと言われるとは思わなかった。
これにほっと息を吐いたのはローガンとリージスだった。
「そうだったね、ルクス。君の絶対条件は島に一緒に帰ってくれる人、だったね。いやあ残念です!殿下の求婚など素晴らしい栄誉ですがこればかりは未来の王たる殿下にはお願いできません」
全然残念そうな素振りもなくローガンは言い切る。
「そうですね、島はちょっと...。いや待ってください!結婚話しは置いておいて、そもそもあの素晴らしい魔術を野に放っているべきではないのです!ぜひルクス嬢には騎士団専属の魔術師になって頂きたいのです!」
リージスが慌てて切り出す。
「それこそ無理です!」
「何故ですか?国賓対応します!」
「絶対無理!」
「給料ましましですよ?!」
二人の話しがまるで聞こえないような王子に、ルクスは『あ、これダメかも』と思った。
『島は良いところなんだけどなあ。ちょっと火山が暑いけど温泉もあるし、海も綺麗だし、みんなも優しいし。あ、でもごはんは王都の方が美味しいかも。王子は美味しいものが好きだったら悲しくなっちゃうかもね。焼いたり蒸したりするのは料理人に習ったけど、あの白い粉は島にないからクッキーとかお菓子は絶対作れないもんね』
などと思っていた。
その時、弱々しい声がルクスに届いた。
「ルクス、帰っちゃうの?」
「ミリイ、」
オリビアの横に立って、大きな目に涙を溜めている。オリビアは困ったように髪を撫でている。
ルクスはそっと近づくと膝をついてミリイに目線を合わせた。
「ここには番を見つけに来たんだ。だから番が見つかったら島に帰るのつもりなんだよ。でもまだ見つかってないし、王子は無理そうだし、ああ、泣かないでミリイ!」
ぽろぽろと涙を溢しながらミリイは言い募る。
「番なんて見つけなくたっていいじゃない!ルクスはずっとこの家にいれば、ミリイと一緒にいればいいじゃない!だって大好きなんだもん、ルクスとゼファが大好きなんだもん!」
心の底からあふれ出る気持ちを押さえきれずに叫ぶ。
ローガンもリージスもその純真な気持ちに口をつぐむ。
「ミリイ、ありがとう。私もミリイが大好き。ローガンもオリビアも大好きよ。でも王都に来てわかったの。私は島で育ったからやっぱり島から離れられないって。でもありがとう、ミリイ。大好きだから泣かないで」
ゼファを挟んで抱き合う二人。
ローガンとオリビアがそっと寄り添うと二人まとめて抱き締めた。
「ミリイ分かって欲しい。ミリイがこの家を好きなようにルクスも自分の家が好きなんだよ。大好きな家族とは離れられないんだよ」
賢い娘は頭で分かっても心の悲鳴をあげてとうとう大泣きしてしまった。
「...そうだよ。好きな人とは離れられないんだよ」
ポツリと王子が呟く。
「なんか言ったか、グラディウス?」もらい泣きしてハンカチで鼻をかみながらリージスが聞くと
「そうだよ!僕だってルクスが好きなんだ!僕は一緒に島に行く!王子は退職だ!」
「「「!!??」」」
「こうしてはいられない、ルクス嬢すぐに陛下から退職願をもぎ取って来ますので少々お待ちください!」
そう言うと一目散に玄関に走って行き馬場から愛馬を引っ張り出すと城に向かって走り出した。
「こ、このバカ殿下~!!!なに勝手に決めてんだ!待てこらあ!」
リージスが青筋を立てて後ろから追って行く。
開け放たれた玄関で執事のルイスはそっとドアを閉めつつ
「王子殿下とは退職できる職業なんでしょうか?」
と呟いた。




