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竜姫の番探し23

秋の夜会は王城で開催される。


豊かな実りに感謝して王城では庭を解放してそれぞれ、貧しい者達への晩餐の日、平民への晩餐の日、領主や大商人への晩餐の日、貴族への晩餐の日と4日に渡って夜会を開く。


貧しい者達へは貴族や大商人達が喜捨してたくさんの食事や綿の入った服、毛布など来る冬に備えた物資なども配る。

ローガンも毎年たくさんの喜捨をする。しかしパーティーは苦手なので欠席が続いていたが、本格的にルクスの番探しに力を入れるため、まずは晩餐会に行ってみることにした。


ルクスもこの夜会に合わせて特訓してきており、当日は朝から入浴、マッサージ、ヘアスタイル、化粧、ドレス選びと目が回る忙しさだった。

「まあ!なんて美しいのかしら!ねえローガン、ミリイが言う通りルクスはやっぱりお姫様なんじゃないかしら?」

オリビアはドレスの着付けが終わったルクスを見て感嘆の声を上げた。


プラチナブロンドの髪は艶やかにハーフアップにされて瞳と同じ菫色の宝石が星を型どった髪止めでとめてある。陶磁器のような肌は光輝いて、うっすらとしか塗っていない白粉を透かして桃色の頬が覗く。白地に菫色の糸と銀色の糸で刺繍を施したドレスは、細い腰からゆったりと広がりまるで白夜の星のようなきらめきを醸し出している。まるで女神のような美しさだ。


「ルクス、とっても素敵だわ!」

チューリップが逆さまになったようなピンクのドレスを着たミリイが飛びついてくる。

「ありがとう、ミリイも妖精みたいよ」

二人はくっついて笑いあった。


「ああ、残念だわ。私もルクスのデビューを見たかったわ」

オリビアはアンディが小さいので今回は欠席を決めていた。


二人の美女に囲まれて満更でもないローガンは馬車に乗り込むと二人に早速注意をする。

「ルクス、今日の夜会での約束は?」

「一、番って言わない。二、竜の話はしない。三、竜の力を使役しない」

「結構!、ではミリイ?」

「えーっと、一、大声で話さない。二、走らない。三、ちょうどよい木があっても登らない」

満足そうに頷くと

「あともう一つ、二人に約束して欲しいことがある」

「「ええ、まだあるの!?」」

神妙な顔で頷くと

「立てなくなるほど食べ過ぎないこと!」

ルクスとミリイは顔を見合わせると、

「「それはわからないわ!」」と大笑いした。



王城は薄闇の中、魔石を使ったランタンがそこかしこに飾られてまるで浮かび上がっているかのように見えた。その中では色とりどりのドレスの婦人が行き交い、紳士達はグラスを片手に新しい縁を結ぼうと歓談している。

ルクスがローガンとミリイと共に入場した時、人々の目が吸い寄せられるように集まった。


『予想以上の反応だな』

ローガンは内心舌打ちをした。街で知り合う人より夜会の方が出席者の身元もわかるから安心だと思ったが失敗だったかもしれない。


あまりにも美しいルクスに同伴者がいるのも忘れて見とれる若い男性達や嫉妬を隠せずひそひそと扇の内で言葉を交わす婦人達。どれが敵になるか味方になるか。


ルクスの腕をしっかり握りしめて進む。

その時、「やあ、ローガン良い夜だね。美女に囲まれて羨ましい限りだ」明るい声で話しかけて来たのは王城で働く文官のジョルジオ•ヒューズだ。

ローガンは親しい元同級生の顔にほっとした。

ジョルジオは栗色の髪にそばかすの散った愛嬌のある顔つきをしている。男爵家の次男なので家を出て文官として働いている。


「やあジョルジオ、久しぶりだね。パーティーに出るなんて珍しいじゃないか」

首に着けたクラバットを引っ張って肩をすくめると

「俺の柄じゃないんだけど、今日は王子が参加するってんでサポート役を兼ねてだよ。なぜだか今年は初日の挨拶だけでなく全ての日程に出席されて、噂では花嫁探しだなんて言われているよ」

そして後ろを振り向くと人の波がうねるように動いてくる。


「第一王子のグラディウス様だよ」


白い騎士服を着た背の高い男性が数人の騎士に囲まれてゆったりとした足取りで歩いてくる。

王家特有の金色の瞳、鼻筋の通った精悍な顔つきなのに甘い笑顔を浮かべるので人々は思わず微笑まざるをえない。


『しまった!まさか王族が出席するなんて!』

ローガンは心の中で舌打ちした。まさかルクスが治したのが王子だとは思わなかったが、騎士がいるなら参加するべきでなかったと後悔している。


高貴な方に敬意を払う振りをして頭を下げたまま王子に群がる群衆から距離を取る。しかしなぜだか王子はルクス達が動いていく方向についてくる。


『なんか、やばいかも』

そわそわし始めるローガンにルクスが

「どうしたの、ローガン?お腹痛い?」

心配そうに聞いてくる。


王子は挨拶を終えるとやおらポケットの中から懐中時計のような物を取り出すと数度見比べて、お付きの赤髪の騎士にそっと何かを言った。

ローガンは赤髪の騎士を見た瞬間ピンっと音がしたように感じて、弾かれたように後ろを振り向くとルクスとミリイの手をとって歩き出した。

「パパ?どうしたの?お手洗い?」

「しっ! 黙って、今はとにかく馬車に戻ろう」

「「???」」

急に帰ると言い出したローガンに困惑しつつも二人は出来る限り早く歩いた。後ろから誰かが追ってくる音がする。


「走ろう!」

「え、だってパパ、パーティーの約束その二、走らないは?」

「今はその条件に当てはまりません!行くぞ!」

三人は薔薇の垣根の間をすり抜けて走り出した。

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