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竜姫の番探し22

「王都の森で?」

王城に森から獣が溢れたと言う連絡が入ったのは昼過ぎだった。

ただちに騎士団が急行したが、魔獣の形跡はなく魔物を産み出す黒い泉も魔窟も発見できなかった。

ただ獣が逃げ出した。そう、あの時と同じように。


「竜だ!」

「立ってください。殿下」


急行した騎士団の中でまたしても土に這いつくばっているのは第一王子グラディウスだ。

懐から出したきらきら光るインクで地面に魔術式を描いていく。


周りを囲む騎士達はまだ警戒を解かないまま土まみれの殿下に困惑している。


「見ろ、リージス! 竜の生態反応が出ている!」

「立ってくれ、殿下!」


あのスタンピートと思われた西の村での出来事の後、騎士団は調査を行ったがやはりスタンピートではないと結論付けた。そしてグラディウスは城に帰ると昼夜を問わず研究に研究を重ねてより詳しく調べる術式を開発した。

その新しい術は古代文字を使った円形の術式で、周りから見ると美しい王子が中心に寝そべっているために生け贄にされているみたいに見える。


「この術を発動すればここにいた何かの残像を写すことができる」

「分かった!すごい!だから立ってくれ、グラディウス!」


苦労性のリージス副隊長の声にしぶしぶ立ち上がると、グラディウスは少し離れて魔力を術式に込める。文字列は徐々に光を強くしてそこから何か白い靄のようなものが立ち上がり、以前そこにあったであろう姿を形どる。


「これは、何の動物だ?馬、より少し大きい。スレイプニルか?」リージスが目を細めて見ている。

「スレイプニルはこの森にも生息しているはずですね」

そばに控えていた年長の騎士が答える。

グラディウスは目を開いたまま

「竜だ...」と呟く。


リージスは聞かなかったことにして

「それと何か他の生き物がいる。一緒にいるのは、女性?! まさか魔獣に乗る女性がいる!?」

リージスの声に周りがざわざわし始める。

「まさか、スレイプニルは確かに調教できますが乗り手を選びますし、ましてやあの力には騎士位でないと太刀打ちできません」


グラディウスは恍惚の表情をして

「竜と聖女だ...」と呟く。

ぎょっとしたリージスが

「おい、その顔やめろ。そして安易に聖女とか抜かすな」と叱る。

「だって!見ただろう、あの姿! あれは奇跡の術で僕を救ってくれた聖女に違いない!」

「黙れ!お前は火傷で死に損なっていて彼女を見てないだろう?!」

「いや、わかる! 僕の血が騒ぐ! あれは彼女だ!」


王子の発言にざわざわと騒がしくなる周囲を落ち着かせるためにガシッとグラディウスの口を押さえると、

「ハイハイ、殿下がご乱心だよ! ここで見たことは他言無用、一切の情報漏洩を禁じます!漏らしたら首と胴体がサヨウナラだよ!ってことで一旦帰還します!全員騎乗!ついてこい!」

まだ暴れているグラディウスを担ぐと馬に乗って走り出した。


◆◆◆


「ああ、楽しかった!」

「そうであろう、やはり竜は空を飛んでこそ竜であるな」

その頃、ルクスとゼファは遠く離れた山の上にいた。

雲よりも高い頂きは人が達することは到底できないため、二人にとってはちょうどよいピクニックの気分だった。


ゼファは久しぶりに見つけた鉱物をボリボリ囓って

「この固さが良いな。人間の食物は味は美味いが歯応えに欠ける」とご満悦だ。

ルクスは長い髪を風に吹かれたまま王都ではない方角を見ている。

「どうした、島が恋しいか」

「そういうのは思っても聞かないもんじゃないの?」

ぷうっと頬を膨らませる。

「やはりか。いつでも帰って良いのだぞ」

「ううん、帰らないよ」小さく首をふる。


「だって、ミリイはかわいいし、ローガンもオリビアもとっても良くしてくれてる。ダンスだって出来るようになったし、お茶だってカップを割らないで飲めるようになった」


でも、と心の中で言葉にならない気持ちが起きる。

ゼファはルクスをくるりと包み込むように座ると冷たい風から守る。


「なんかさ、街で暮らしてみてたくさんの番を見たの。ローガンとオリビアだけじゃなくて、メイドのサラと料理人のアンディ、パン屋さんや服飾屋さん、若い番も年をとった番もたくさん。でも、私にはいないの。もしかしたら、私には番ができないのかなあ。誰も私が欲しくないのかなあって思っちゃった」


珍しくルクスは弱音を吐いた。

人間との暮らしは初めてのことばかりで戸惑いも多いし、何かすると変わっていると言われてしまう。

私は竜になれない。けれど人間にもなれない。

私は一体、なんなんだろう。

このところ少しずつ心に溜まっていた滓がゼファと二人きりになって溢れてしまった。


「誰かがお前を欲しいと思うだけでなく、お前も欲しいと思った奴がいるのか?」

ゼファの問いに首をかしげる。


「自分以外の者の心がどう動くかなぞ分かるものではない。お前はお前が番として側にいて欲しい奴を探せ。そしていなければ島に帰れば良い。それだけだ」

しばらくゼファの言葉を考えてしっかり心に仕舞うと

「ありがとう、ゼファ」

すりすりと頬を擦り付けた。二人はしばらく黙って景色を見ていたが、夕飯に間に合うように王都に向かって飛び立った。

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