竜姫の番探し21
「はい、ここでターン!いちにっさん、いちにっさん、」
長いスカートをはいたルクスが教師の手拍子に合わせてクルクル回る。
「はい、そこで止まって、ブラボー!ブラボー!素晴らしいです!」
最後に左足を引いてお辞儀をする。
イザベラの事件でルクスがせっかく王都に来たのに出歩いてもいないということが発覚した。ローガンはルクスにメイドの仕事をさせたことを謝り、令嬢としてマナーを学ぶよう諭した。
「良いかい、人間の番が欲しかったらマナーを学んだ方が良い。人間は食事をしたり、ダンスを踊ったりいろいろなことを通して番を見つける機会を作るんだ。そこに参加するにはマナーを知らないといけない」と言うことで現在ダンスの特訓中なのだ。
「ルクス様は運動神経が素晴らしく良いですね!この分なら秋の夜会では注目の的ですよ」
にこにこ顔のダンス教師は額の汗を拭いもせず誉めちぎる。
「ありがとう、先生。火山で火の粉を避けるよりずっと簡単だよ」
急に窓が開いて風が入ってきたので先生は慌てて閉めに行ったので聞こえてないようだった。
「おい、ルクス。火山とか言ってはならぬとローガンは言っていたではないか」
ゼファがしっぽを振るのをやめると風がおさまる。
「あ、そうだった。でもこのダンス、ちょうど火の粉が飛んでくるのを避けるのににてるんだよね」
ルクスはひょいひょいとステップを踏む。
「はあ、我らが人間の世界に来て二つも季節が過ぎようとしているのに、そなたはちっとも人間らしくならぬなぁ」
「むむむ、ゼファはちょっと慣れすぎなんじゃない? ミリイからお菓子をたくさん貰っているって、知ってるんだから。クッキー、シフォンケーキ、マドレーヌ、それから」
ゼファはぎょっとした顔をして
「に、人間の生活を知るためには仕方がなかろう!」
「でも、そのまま食べて食べて食べていたら、ぷくぷくぷくぷく太って飛べなくなっちゃうんだよ」
そう言いながらゼファのお腹をたぷたぷする。
「ぎゃ、ぎゃあ! 何をする!?我はちょっぴりふくよかになったが竜であるぞ、飛べなくなくなるなぞ...」
そう言いながらも自分の体の変化には気がついているらしく、ううむと悩んだ末
「ルクスよ、しばらくぶりに飛びに行こうではないか」
と二人で出かけることにした。
「ゼファ、どこまでいく?」
王都はとても広いが取り囲む城壁を出ると更に広大な土地が広がっている。大きな門を衛兵に見送られててくてく歩いて行く。門に向かう街道は王都にやってくる人や馬車でひっきりなしなので、すぐに道を外れて森に入っていく。
都会に近い森とは言えその規模は大きく、それなりに獣もいるので人の姿は見当たらない。しかし竜が隠れられるかと言うと不安が残る。
「ねえ、ここで大きくなったら見つかっちゃうんじゃない?」
ゼファはふふふんと不適に笑うと、
「我が無駄に人間の世界で暮らしていたと思うか?認識阻害という術を使えば人間は竜を見ることも感じることもできないのだ」
ルクスはびっくりして
「すごい!そんな術が使えるようになったの?ゼファはただ食っちゃ寝ていたんじゃなかったんだね!」
軽くディスられているとは思うが、無邪気にすごい!すごい!と言うルクスに怒ることも出来ずにゼファが
「そ、それでは術をかけるぞ!」
そう言うと濃い紫色の煙がゼファを包み始める。完全に見えなくなった瞬間、煙が弾け飛び、その中から大きくなったゼファが現れる。翼を広げぐぐっと伸びをする。
「はあ、久方ぶりだ。やはり羽を伸ばすと良いの」
完全体より少し小さめだ。
「これだと若いゼファって感じだね」ルクスはさっきまで抱いていたゼファが幼体、これが若体、と判断しているようだ。
「我はまだ若いぞ!」
文句を言うゼファをいなして背中に乗る。
滑らかな羽を上下にはためかせるとふわりと地面を離れるとすぐにぐぐっと体に重圧がかかって高く上がったと教えてくれる。
「わあ、王都が小さく見えるよ!」
ルクスがはしゃぐ。ゼファも妹と二人きりの散歩でご機嫌だ。
二人は久しぶりの空の旅を堪能した。




