竜姫の番探し2
「馬鹿ものが!なぜさっさと返してこなんだ!」
ガツっと音がして頭がしびれるほど尾びれを叩きつけられる。
「そ、それが親が急に現れて、びっくりしてしまって...」
「阿呆が、当たり前だろう。親が巣を離れる訳がない。ましてやこんな小さな生き物、」そう言って小さき者を見るとなにやら手に伸ばしている。足元に置かれたまま、ただじたばたするだけで立つことも起き上がることすらできない。
その様子を2頭でしばらく見ていると、若い竜はぎょっとした。さっきまで遠慮会釈なく尾びれを叩きつけて叱っていた母竜が泣いているではないか。
「は、母さまよ」
「かわいそうに...。まだ歩くこともできぬのに親から離されて」
「だ、だがこの生き物は俺を見ても怯えもせず、逃げもしなかった。強い種類の生き物なのだろう?」
母竜は無言でもう一度尾びれでひっぱたいた。
若い竜が涙目になっていると
「阿呆なことをぬかすな! ただ未熟で動けぬだけだ!人間と言う生き物は我々と違い立つだけで一年もかける弱い生き物だ」
「は!? 立つだけで一年!?そんな馬鹿な!ではどうやって生きるのだ?どんなに鈍くさい竜だって数時間で歩けるし、次の日には飛ぶようになるのに!」
ゼファには信じられなかった。まさかこのじたばたしているのは自分で起き上がれないからなのか!見たところ手足が短く、やたら頭が大きいのでバランスが悪い上に鈍くさいとは!
「うるさい、だから未熟な生き物だといったであろう。しかし、賢いゆえに集団になって子を育てる。弱くても生き延びる知恵があるのだ」
知恵...今のところそんなに賢そうにも見えない。なんだか気の毒になって覗きこむと小さな生き物はきらきらと光る瞳でゼファを見つめている。
か、かわいい...。なんだ、この俺を頼りきった目は。
子竜が甘えてくるよりも儚く、若い雌がかまって欲しくてすり寄ってくるよりも甘い視線に撃ち抜かれる。
「母さまよ、俺が育てる!」
「当たり前だ。しかしどうやって育てる?竜は火山から流れる金を飲んだり鉱物を食べるが、人間は火山に近づいたら熱さで死ぬし、鉱物を飲み込んだら喉につまって死ぬだろう」
参った!なんてひ弱さだ!
ゼファが頭を抱えていると、小さき者がなにやらふにゃふにゃ言い出した。どうやら泣いているらしい。
母竜はやや短い腕の中に小さき者をそっと抱くとその目に浮かべていた涙を口に含ませる。竜の涙は万病に効く薬にも滋養にもなるのだ。小さき者はきょとんとした後、にこにこと笑った。
か、かわいい。
「母さま、俺もやりたい!」
「阿呆が。加減を知らぬお前では潰してしまう」
ふいっと抱いた腕をそらしてしまう。
「いや、大丈夫だ!ここまで抱いて来たのだから。だから俺にも餌付けさせてくれ!」
「だめじゃ。今飲ませたばかりだからの」
「そんなこと言って、母さまがかまいたいだけだろう!?」
「な、そんなことはない!子を育てると言うのは慎重かつ丁寧でなくては」
「そんなの生まれてすぐに飛べと火山から落とした母さまに言われたくありません~」
「うぐぐぐ、それはお前が子竜の時の話であろう!」
「慎重でも繊細でもなかった子育て経験者に言われたくありません~。はい、貸してください!」
「い、嫌じゃ!このかわゆさは離さん!」
「やっぱり!ただ独り占めしたいだけじゃないか!」
拐われて来た小さな赤ん坊は、ぎゃあぎゃあと大型の竜が頭上で騒いでいるのをひとしきり見ていたが、腹もくちたのであくびをひとつするとすやすやと眠り始めた。
それを周りで見ていた竜達は、これかなり精神が強いのでは、と思っていた。