竜姫の番探し19
「私にかかればこんな問題あっという間に解決、真実はいつもひとつよ!」
翌日、ミリイに確認を取ると胸を反らして言いきった。
この台詞は子供たちの間で人気の推理物語の主人公の台詞だ。
ルクスが不審な食材に気がつく前から、ミリイはずっとイザベラの行為に怒っていていつか父親に申し立てるために推理物語を真似てこっそりイザベラの行動を記録していたのだ。
ミリイから受け取ったノートにはたくさんのイザベラへの不満と共に毎日の様子がつぶさに書いてある。
6月8日、ミリイとルクスがお茶をしていたら怒鳴ってきた。イザベラキライ
6月10日、イザベラが買い物に行った。変な匂いのお茶を買ってきた。イザベラキライ
6月13日、アンディのうんちがびしゃびしゃ。ママがお医者様を呼んだ。イザベラキライ
「ミリイは買い物に出掛けたイザベラにも着いていったんだ」
「あ!ルクスそれは言っちゃダメなやつ!」
しまった、と言う顔をしたミリイにギギギと音がしそうな笑顔を向ける。
「ミリイ、一人で出掛けたら行けないってパパと約束したはずだよね?」
「ひ、一人じゃないよ。ルクスも一緒だったもん!」
それ余計ダメなやつ!
ローガンは両手で顔を覆った。その様子を見ながら恐る恐る
「でもね、それでイザベラがこのお茶を買ったお店を見つけられたんだよ!」
ルイスが頷いて「このお茶は下町の魔道具店で購入しています」
ノートを指差す。
「なぜ魔道具店で?」
「調べたところ、このお茶の茎と花の部分だけなら普通にお茶をとして流通しているのですが、これには潰した種子を混入させているのです。この種子が特に乳児に悪影響を与えるので違法の堕胎薬として娼館などに売っていたそうです」
違法薬を販売していたことを脅して取ってきた購入記録を添える。
これでイザベラがアンディに危害を加えようとしていたのはもう疑いようがない。
「イザベラを呼ぼう」
応接室に呼ばれたイザベラはキリキリした様子だった。周りに集まっているミリイやルクス、ルイスを睨み付けてくる。
「お呼びでしょうか、ローガン様」
「うん、イザベラ。君は幼なじみで信頼しているメイドだ、だから正直に答えて欲しい。このお茶をオリビアに飲ませたね?」
イザベラは一瞬頬を歪ませると澄ました顔で
「奥様のお茶の準備はカノンに任せております」
カノンは鼠のような顔をした下働きの子だ。
「嘘よ!今週もその前もイザベラが準備してカノンに持たせていたわ!」ミリイが叫ぶ。
「もちろん奥様にお出しするカップや銀のスプーンなどは高価な物なので破損を避けるために私が準備しましたが、それ以外はカノンの仕事です」
どこまでもしらを切るつもりらしい。
ローガンは引き出しから購買記録を取り出す。
「イザベラが買ってきた記録だ。これは違法薬であり、普通のお茶屋には売っていない。なぜそんなものを買ってきたんだい?いや、なぜその違法薬をオリビアとアンディに、飲ませたんだい?」
机で全身を支える腕が震える。
イザベラは机の上の記録を凝視したままだ。
「君が、君がこんなことをするなんて」ローガンの呟きにぴくりと反応する。
「私が、なぜ? なぜですって? 当然じゃない、盗まれた妻の座を奪い返すのは当たり前でしょ! ずっとローガンが私を助けてきてくれたのは私のことを想ってくれていたからでしょう?それなのにオリビアだなんて!商会のためにお金で買ってきた没落男爵令嬢、そんな政略に私たちは引き裂かれた!それでもローガンの側に居られるなら、そう思っていたのにオリビアはお前しか産まなかった!商会に必要な跡取りになれない役立たずしか! だから前会長は仰ったの、オリビアを離縁してイザベラを据えるって!それでもとに戻るのよ!それなのに、それなのに、」
肩で息をしているイザベラに睨まれてミリイは固まってしまっている。ローガンは膝をついてその体をぎゅっと抱きしめる。
「ミリイは俺の最高の娘だ!役立たずなど言わせない!」
「いいえ、いいえ!あの女が産んだ子供がいなくなれば!私が必ず跡取りを産むわ!そうなればローガンもわかるはず」
「俺をローガンと呼ぶな!ローガンと呼んで良いのはオリビアだけだ!」
ミリイを抱き上げて立ち上がる。
「祖父のくだらない与太話しを信じるなんて。オリビアは俺がギルドで交渉しているときに出会って一目惚れしたんだ、決して政略結婚なんかでない!オリビアでなければ俺はいらない、俺の子はミリイとアンディだ!俺の家族はそれだけなんだ!」
突き立てた思いが刃になって戻ってきた。
イザベラは真っ白な顔をして呆然と立っている。
「...警ら隊を呼ぶよ。アンディが生きていてくれたのはルクスが気がついてくれたからであって、君の罪であることは変わらない」
その言葉が耳に届くと同時にイザベラは飛び出してルクスに襲いかかった。口から泡を吹きながら、爪を立てて飛びかかる。
「お前か! 私の幸せを壊しやがって!殺してやる!殺してやる!」
しかしその爪が届く寸前でバチリ!と破裂音がしてイザベラがゆっくりと床に倒れた。その髪は黒こげてプスプスと煙をあげている。
「ゼファ!!」
ドアの隙間から息苦しいほどの圧力をかけているとかげ。ルクスがすぐに抱き上げるも間に合わなかった。
「なぜこんな人間が我のルクスを害する?許さぬ!火山にぶちこんでやる!」
口からちろちろと炎を出しながらゼファが叫ぶ。
「...ゼファがしゃべってる」
ミリイの声にローガンとルクスは両手で顔を覆った。




