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竜姫の番探し18

ローガンが帰宅したのはかなり遅い時間だった。


普段だったら使用人も執事のルイスを残して部屋に戻っているはずだが、煌々と明かりをつけたままの執務室にはなぜか料理人とルクスが待っていた。


久しぶりにルクスに会えたローガンはほっとしたように笑うと

「ルクス、しばらく放ってしまってすまなかったね。どうにも商会が忙しくて。いやそれより何かあったのかい?まさか番が見つかった?いやまさかこんなに早くはないよね、ああゼファさん?まさかまた馬を脅かしたりしたのかい?」

ローガンは戻ってから髭を剃り服もぴしりとしたジャケットを来ているのでとても森で出会った人と同一人物とは思えないが、中身はやはり人の良い心配性の親戚のおじさんのようだった。


ルクスは落ち着くように肩をポンポン叩いてあげると

「ううん、大丈夫だよローガン。それより大切な話があるの」

緊張した面持ちのアランに促すように視線を送る。


そもそも何で料理人とルクスが一緒にいるのかわからないが許可するように頷くとアランはコック帽を握りしめ話し出した。

「旦那様、ルクスはここのところ厨房で私達の仕事を手伝ってくれていたんです。それはイザベラさんが言い出したことなんですが、」

「うん?ちょっと待って。ルクスはミリイと一緒に過ごして欲しいって言ったよね?」


執事のルイスがこほん、と遮ると

「旦那様、このところ私も一緒に出掛けてしまい気がつかなかったのですが、イザベラはルクスさんをメイドとして扱っていたそうです」

「は?」

目を見開いたままのローガンを見据えたまま

「しかもかなり厳しくしていたようでミリイ様からは苦情の手紙がこのように、また他のメイドや庭師からの聞き取りによればとても旦那様がおっしゃった客人としての扱いではないようです」

お盆の上に分厚い手紙を乗せている。


ルクスはまるで気にしていないようだが、ローガンは確かに最初は商会で働いたらと言ったが、さすがに竜の愛し子をメイド扱いにするなどできないのでお客様として紹介したはずだ。しばらく会っていないがゼファが怒って天変地異を起こしたら、と慌てたがルクスが「ゼファは気にしてないから大丈夫。私も洗濯してシーツを伸ばしたり、アランとクッキー作ったり楽しかったよ!」

とのほほんと言う。


「そ、その手伝いの時にですね、ルクスが大変なことに気がついたんです!」

すっかり話がずれていたのをアランが無理やり引っ張り戻す。


「奥様のお食事に体に良くない食材が含まれていたんです!」

「体に良くない食材?」

「はい、これは今日のサラダに使う予定だった野菜です」

並べられたのはローガンも食べたことのある苦味のある野菜、それから乾燥されたハーブ、お茶の葉など色々だった。

「ルクスが言うには全て大人にとっては影響がないけれど、乳児によっては下痢や嘔吐を引き起こす可能性があるそうです。普通は乳児が口にする機会はないのですが、授乳することで毒素が回る恐れがあるそうです」


ローガンは震える手で食材を手に取る。

「オリビアの具合は? 」

「先ほど医師を呼びましたところ問題なく。しかし坊っちゃまはこのところ原因不明の下痢と発熱が度々おきていたそうでただちに処置を行いました」


医師に件の食材を見せると確かに授乳期に取るべき物ではない上に、かなり珍しい茶葉まで含まれているので意図的な犯行だということだった。そしてこの食材を集めてきたのはイザベラで、このところお茶の時間には必ず自身で用意していたそうだ。


はああ~と全ての空気を出しきるようなため息をついてしゃがみこむ。

まさかイザベラが、と信じられない思いだった。まだ商会が小さく、お互いが幼い頃は気心知れた友達だった。しかし商会が大きくなり、反対にイザベラの両親が亡くなって貧しくなるにつれ離れてしまった。手助けをするつもりで商会で働かないか、と誘ったが返って妬まれてしまったのか。


「ローガン、イザベラはだめだよ」

ふと見上げると常にない厳しい顔をしたルクスが言った。


「アランが言ってた。イザベラは見ちゃいけない夢をみたって。ローガンの番はオリビアだけなのに、ミリイもアンディもいるのに他の番に手を出すなんて許されないんだよ」


ローガンははっとする。

自分が気がついていなかったイザベラの気持ち。


「ローガンは番を守らなければならない。これは決して許してはいけないことだ」

瞳はローガンを見ているはずなのに、ローガンを通して世界の理をみるような目だった。


「ありがとう、ルクス。俺はまた君に救われた。何度感謝しても感謝しきれないよ。もしもアンディやオリビアが傷ついていたら、俺は、俺は」

両手でルクスの手を握って涙が溢れるのを止められなかった。


ルクスはしっかり握り返して

「ミリイもとっても偉かったんだよ。ね、ルイス?」と笑う。

ローガンは普段顔色を変えない執事の方頬が上がっていることに気がついた。

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