竜姫の番探し14
「ふむ、人間の言いたいことは理解した」
ゼファは重々しく頷いた。
「だがしかし、旅は続けよ」
意外な言葉だった。
「ゼファ!」
「まあ、待てルクス」
嬉しさで高い高いをしようとしたルクスをなだめるとゼファはローガンに向き直る。
「人間よ、ルクスを見守ってもらってありがたく思う。これは我のかわいい妹。確かに島に戻れば我らが守っていける。だが、我らではこれに番をやることはできぬ」思わずきゅうと鳴き声が漏れる。
「我の妹でいれば幸せだ、そう思ってきたがやはり番ができる幸せとはまた違うだろう。本当は嫌なのだが、まあそうは言っても仕方がないというか、その、止めるならゼファのこと嫌いになるなどと言うものだから、」
ああ、うんうん、結局ルクスの押しに負けたんだな、と言うことがわかった。温い目で見ると
「まあ、なんだ? だから我が一緒に行ってやる!」
「え!」「え~」
「え~、ではないぞ!ルクス。この人間の言う通り、そなたなんぞすぐに捕まってしまう。我が一緒に旅をすればいざと言うとき悪い人間など近寄らせないですむだろう。し、シスコンではないぞ!断じて違うのだからな!」
言い返しても迫力に欠ける。
「ゼファが着いてくるのか~」
なんだかせっかく初めてのおつかいに出たのに見張りを見つけてしまった子供のようだ。
「まあまあ、ルクス。騎士団に見つかったりしても、ゼファさんがいれば飛んで逃げられるし、それに魔物も近づかなくなるから便利なはずだよ」
「我を虫除けのように言うな」
ルクスはしばらく考えていたが
「連れ返されるくらいなら、ゼファが着いてきてもいっか。まだこれからおいしい物も食べたいし、あちこち見てみたいしね!」
「「番は!?」」
「あ、そうそう、番もね!」
がくっとさせられたが、とにかく三人で旅を続けることになった。
◆◆◆
三人が呑気な話をしている間、置いてきた騎士団は大混乱に陥っていた。
「スタンピートだと!?」
リージス副団長は恩人を追うために街道沿いや近くの村を回らせていた騎士から連絡を受けた。せっかく怪我人が治って片付けられるはずだった天幕は対策本部になってしまった。
「はい! 北東の方角から獣や魔獣が溢れて来ています!」
「先ほどのファイヤーベアは斥候か」
「しかし、魔獣だけでなく森の普通の獣まで逃げてきているとのことで、魔窟が開いたのとは異なるようだと見回りの騎士は言っております!」
しかめ面のリージスとは対照的に落ち着き払った殿下の指がテーブルに広げた地図をゆっくりとなぞる。
「この村から北東に向かうとラムジー山にあたる。深い森が広がっているが魔窟が出来たと言う報告はここ数年受けたことはない。とすると、魔窟ではなく、山火事もしくは大規模な崖崩れか?」
「遠眼鏡で見ても山火事らしき炎は見えませんが」
「とすると、この生態系を揺るがす生き物が飛来したか?」
「なんとおっしゃられますか?!」
「もしかしたら、だよ、リージス」
「殿下が竜に憧れていらっしゃるのは存じておりますが、まさかそんな奇跡のようなことは」
乳兄弟として育ったリージスはこの王子が竜オタクなのを知っている。こいつ爽やかな見た目とは裏腹に興味のあることには真剣に、と言えば聞こえは良いが執念深いと言った方がぴったり来るほど執着するからなあ、と心の内で呟く。
「奇跡、ね。死にかけた人を瞬く間に治してしまう奇跡の魔術師に出会った日に、こんなことが起こるなんてね?」
ここが舞踏会であったら令嬢方が失神しそうなほど麗しい微笑みでこちらを見る。
「殿下、何か感じているんですか?」
嫌な予感を払拭できないリージスは眉間を拳でぐりぐりと捏ねている。
「さあ? どうかな。そういや思い出したんだけど、13の歳にお前と冬山で遭難仕しかけた時、ブリザードベアに遭遇した時もこんな感じがしたな」
「可能性があるなら今すぐ言ってくれ!グラディウス!お前の勘のヤバさは知ってるから!」




