竜姫の番探し13
「「ご、ごめんなさい」」
二人(?)は首をすくめてふーふーと毛を逆立てた猫みたいなローガンを見た。
「ルクス、それはルクスのお兄さんってことでいい?! お兄さん、ゼファさんはその威圧をとにかく押さえて! 森中から動物も魔物も逃げ出している! ルクスも落ち着いて? こんなに騒いだら騎士団に見つかっちゃうよ!」
驚きすぎてなぜだか普通にゼファを受け入れているローガン。その声でやっと回りに気がついた二人。
「あー、とにかくここを離れないと。万が一にも竜がいるなんて知られたら。ルクス、荷台に乗って。ゼファさんはできるだけ離れて着いてきて」
ぽかんとした二人に指示を出して動き出す。
ぎゃあぎゃあと騒がしい生き物達の流れに逆らって、山の奥へと進む。
道からも町からも離れて山深いところまで来ると馬車を止める。
「ローガン、ごめんなさい」
ルクスが謝る。
そこにばさりと羽音を立ててゼファが降りてくる。
「済まぬ、人間よ」
ゼファはしゅんと肩を落とす。
なんだか大きさも顔かたちも全然違うのに良く似た二人だった。
「ふ、ふは。本当に竜の愛し子だったんだ」思わず笑いが出てしまう。
「竜の愛し子?」ルクスが首をかしげる。
「そう、人間の間に昔からある物語で竜に愛された人間のことを愛し子って呼んでいるんだよ」
「なるほど、ルクスは人間の世界でも有名だったか」
「いや、違います」
「?」
微妙に噛み合っていない。
「ところで、物語では竜は人間に姿をやつすとありましたが、ゼファさんはできますか?」
「いや、無理だな」意外なことを言われて驚いた顔をしている。
そりゃそうだよな、物語のようにはいかないか。ローガンが困っていると
「だが、姿を小さくすることはできる」
「「え」」
ローガンとルクスの声が揃う。
「ルクスは知らんかったの?」
「知らない。ゼファが小さくなったところなんて見たことない」
ふるふると首を振る。
「じゃあ、ちょっと小さくなってもらえませんか?」
いくら山の中とは言え、万が一もあるし何より上を見続けるのがつらい。ローガンは黒光りする巨体にお願いする。
「断る」
「「なんで」」
ゼファはルクスを見て嫌そうな顔をすると、ふいっと目をそらす。
「ゼファ?」
「だって、」
ルクスとローガンは答えを待つ。
「だって?」
「だって、恥ずかしいじゃないか!」
がくっとした。
聞いてみると魔力を使って体を小さくすると幼体の時の姿をとるらしく、「妹の前でなるには恥ずかしい」とのことだった。しかしこの状況では致し方なくとにかく小さくなってもらう。
「むむう」ご機嫌の悪そうなゼファに対してルクスは
「かわいい!かわいい、ゼファ!」と兄を抱き上げてご満悦だ。
「むむう、人間よ。こんな姿になっているのだ、言いたいことがあるなら早く言え」妹に抱かれて黒い鱗を赤く染めている。
「はい。私は人間のローガン•ビショップと言います。旅の途中にルクスと知り合って、番探しを手伝っています」
竜を相手に自己紹介もおかしいかと思ったが案外ゼファは当たり前のように受け入れてくれた。
ルクスがシルバーウルフを倒してくれたこと、町で人間にあったこと、村で竜の涙を使って人々を助けたこと、そしてこれからのこと。
「ルクスは人間の番を探すと言っていますが、村で騎士団を助けたことですでに権力者に狙われている可能性があります。このままだと人間の世界を知らないルクスは食い物にされる恐れがあります。彼女はあまりに無垢で、そして美しい女性だ。出来ればこのまま戻ったほうが」
苦しい心の内が漏れ出てしまう。
「ローガン! 一緒に探してくれるって言ったよね?」驚きで声をあげる。
「ああ、ルクス。俺も番を探してあげたいけど君を迎えに来てくれる家族がいるなら、人間の世界でない方が良いのかもしれない。人間は強大な力を持つ竜とつながっている君を利用するかもしれない。もしかしたら番になることで君を利用する奴が出てくるかもしれない。そう思うとルクスはゼファさんと帰った方が良いんじゃないかって思ってしまったんだ」
「ローガン...」
心配してくれていることがわかったためにルクスも言葉が出ない。




