竜姫の番探し12
村を出た二人はそのまま王都に一直線、かと思いきや街道を外れることにした。
「山道になるけど迂回して時間をかけて行こう。あの街道を来た者は王都を目指しているものばかりだから、目眩ましになる。この道は普通の人は通らない道だし、人目につきにくいから」
鬱蒼とした森の中を馬車が出来る限りの速度で進む。さっきまで走っていた街道とは違い、木の根が張り出したり丈の高い草が両側から生い茂っていて馬も走りずらそうだ。
「ごめんね、迷惑かけて」顔を下に向けてしょんぼり肩を落とす。
「迷惑なんかじゃないよ。一緒に行くって決めたのは俺だからな。大丈夫、ここで撒けば捕まることなんてないさ」
二人は山を挟んだ町で今夜の宿をとろうと走っていたが、思わぬほど道が悪くて思ったように進まなかった。
「まずいな、暗くなってきた。ポリーは年をとったから目が夜目がきかないんだよな」
馬のポリーは聞こえてるぞとばかりに不満げな嘶きで返す。
「はは、悪かった。しかし森で夜を過ごすとなると獣に襲われる可能性があるから、もう少し頑張ってくれよ」
「ぶるるる」
「ポリーって言うんだね。ポリー、ローガンと仲良しなのね。私とゼファみたい。ゼファも私を乗せてどこまでも行ってくれるんだ」懐かしそうに遠い目をする。
その時、後ろから何かが近づいてくる気配がした。
「ルクス、狼かもしれない。ポリー、少し飛ばすよ」
速度を早め土埃をあげて走る。
しかし大して進まないうちにシルバーウルフの群れに囲まれてしまった。
「またシルバーウルフか。しかし今回は多いな、さすがにルクスでもこの数は無理だ。火を使おう」
臨戦態勢のルクスの腕を掴んで飛び出させないように押さえる。シルバーウルフは馬車を取り囲んでぐるぐる回り始める。
「でも森で火を使うと延焼したらまずいよ」自慢の蹴りを止められたからかじれったそうに言う。
「シルバーウルフには火が一番効果があるんだ。水の魔石も小さいけど持っているから」
火を使えば延焼だけでなく遠くからも発見しやすくなる。万が一、騎士団が探していたら目印になってしまう。だがまず目先の危険を取り除かないと、ローガンが迷いつつも発火の魔石を握ると同時に幌の上にウルフが飛びかかって来た。
「まずい!」
「ローガン!」
飛びかかられては遠くに石を飛ばしても意味がない。
せめてポリーを外してルクスを逃すか、と思った時頭上からばさりと羽音と強い風が起こった。その瞬間、今にも食いつこうとしていたシルバーウルフが飛び退いていく。そして取り囲んでいた全ての狼達が脱兎の如く一目散に逃げていく。
「な、なんだ!?」
「ゼファ!」
ルクスが空に叫ぶ。
真っ暗な空に何かが浮いている。森の木々に停まっていた鳥達がぎゃあぎゃあと騒ぎながらその影を避けて飛び立っていく。その大きさにローガンは己の目を信じたくない気持ちでいっぱいになった。
「ルクス、なぜ俺を呼ばない」
「なんでって、なんでゼファがここにいるの?私、一人旅だって言ったよね?」
今墓場に足を突っ込みそうだったとは思えないほど緊張感なくぷりぷりした顔でルクスが言う。
「一人旅って、その人間だっているじゃないか」
ぎょろりと視線を浴びて、あ、これ死んだな、と思う。
「ローガンは一緒に番を探すの手伝ってくれてるの!ゼファは母さまのところに帰ったんじゃなかったの?」
ルクスは腕を腰に当てて大声で返す。
ふんっと鼻息を吐くと「その人間が手伝って良いなら俺だって手伝ってもいいじゃないか。兄だぞ、兄、俺は。母さまだってルクスを心配しているんだ、しばらく島に帰らなくたって気にしない」
二人(?)がぎゃあぎゃあ言い合っていると、静かだったはずの森中から獣達が大騒ぎし始めた。それはそうだ、この森の生態系にいるはずがない超大型種の竜が現れたのだから。小さな鼠や兎が列をなして逃げていく。
「ま、まずい。ルクス、お兄さんちょっと落ち着いて」
ローガンが恐る恐る声をかけてもヒートアップしている二人には届かない。
「ゼファは私のこと信じてないの!? 私は自分で見つけたいの!ウェルが聞いたらまたシスコンって言われるよ!」
「妹を見守ってなにが悪い! あんな小さな狼なんかに大事な妹を傷つけられてたまるか! それにルクスなら雷をよべばよかっただろう?なぜ使わぬ!」
大木の後ろからホーンピッグが逃げていくのが見えた。
「雷をよんだらゼファにばれちゃうじゃない!」
「俺に隠し事をするか?なんてことだ!旅になんか出したばっかりにルクスが不良になってしまった!」
ファイヤーベアがこちらを怯えた目で見ながら逃げていく。
「あ、あのそろそろ本当に落ち着いて、静かに、静かにしてくれませんか...?」
「もー! ゼファの分からず屋!」
「あー!ルクスの強情っぱり!」
二人の叫び声が重なったとき、ローガンがぶちきれた。
「いいから、静かにしろって言ってるんだ!!!」




